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大学生日記 #19 満月

結衣の家に行く。まるで天の啓示を受けたように、突然その考えが広司の頭に浮かんだ。確か結衣の家は狛江市内にあり、この公園から歩いても十五分程の距離の筈だった。加えて広司は結衣の家には一度だけだが行ったことがあり、現実的にそれは実行可能だった。しかし一方で、今更何のために行くのか?行って結衣に会って何を話すのか?何を話せばいいのか?そんな疑問も頭に浮かんで、それは広司に二の足を踏ませ躊躇させた。
ただ今は何より結衣がちゃんと家に戻っているのかそこが最優先の重要事項であり、それさえ確認出来れば良かった。だから広司は個人的な感情はひとまず胸にしまい覚悟を決めてゆっくりとした動作で、結衣の家に向かって歩きだした。
広司が西川原公園を出て、結衣の家に繋がる道路を歩き始めると、突如として視界が開け真正面の東の空に大きな満月が見えた。その満月は夜空の中で一際光彩を放っていて、普段は月の存在になど気にも留めないのに、なぜか今日は満月の持つ不思議な引力に引き寄せられ、その泰然自若とした姿に広司は暫く視線が釘付けになってしまった。その満月はただそこにあるだけなのに、広司は全ての気持ちを見透かされているようで、いつの間にか言葉にならない言葉をその満月に語りかけていた。

#小説 #啓示 #重要事項 #道路 #満月

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