ひきこもりおじいさん#37 また被りました
「もしもし、おばさん?」
五分程話し、美幸から隆史に代わった。
「あ、隆ちゃん、あんた本当に運が良いよ。松田さんや杉本さんのような方と知り合えたんだから、ちゃんとお礼を言うんだよ。わかった?」
「うん。わかってる」
「あと、松田さんと杉本さんも今日の花火大会に誘っておいたから、隆ちゃんも誘っておいてね」
「え?そうなの?」
驚いた声を隆史が出す。
「なに?いけないの?」
「いや、そんなことはないけどさ。ほら、向こうにも予定があるかもしれないし・・・」
「大丈夫よ。花火大会に誘って、嫌なんて言う人は滅多に居ないんだから。それじゃ小岩に着いたら、また連絡するのよ。それじゃね」
「あ、ちょっと!」
次の瞬間に電話はぷっつりと切れた。どうやら由美子は、花火大会に誘われて喜ばない人はこの世にいないと考えているらしい。
「電話ありがとうございました。あの、何かおばさん急に花火に誘ったみたいで・・・」
隆史は様子を窺うように美幸を見た。
「いいのよ、そんなこと気にしないで。それにしても元気な人ね」
美幸が思い出し笑いをしながら言った。
「そうですね。だいぶ強引なんですが」
「ふぁ~、よく眠ったなぁ~」
そのとき起きたばかりの信之介が、ダイニングに入ってきた。
「おはよう信ちゃん。今、隆史くんのおばさんが電話で信ちゃんに代わって欲しいって言われたのよ。でも信ちゃん、まだ起きてこないから私が代わりに話したの」
美幸が信之介に言った。
「あ、そうなんだ。なんだ起こしてくれれば良かったのに」
「何、言ってるのよ。信ちゃん休みの日は、どんなに起こしたって起きないじゃないの!」
「はい、はい。すみま、千堂あきほ」
信之介がまたしても平然と言った言葉に、その場の空気が止まる。
「え?」隆史が驚く。こんな偶然あるのか?
「え?何またなの?だから千堂あきほっていうのは、女優さんでさ」
「いや、そっちじゃないです。また被りました」
隆史は美幸の顔を見て苦笑いをした。
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