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ひきこもりおじいさん#35 虚構の映像
寝苦しさで目を覚ました隆史は、身体は動かさずに目だけで部屋の中を見回した。周りはうっすらと闇に包まれていてどこまでも静寂だった。少しの間をおいてから自分が眠りの途中で起きたことをやっと理解する。枕元に置いてある腕時計に手を伸ばして時間を確認すると、午前三時を少し過ぎた位だった。おそらく美幸が布団を敷いてくれたのが、十二時頃だったので三時間程眠ったらしい。隆史は急に暑さから喉の渇きを覚え、ゆっくりと上半身を起こした。まだ頭がぼんやりしている。
そのとき、隆史が何も考えず虚空を見つめていると、何処かからなにやらごそごそと物が動くような音が聞こえた。最初は何の物音か分からず気味が悪くて、本能的に身体に悪寒が走った。しかしよく耳を澄ますと、どうやらそれは隣の寝室からだった。 その音に強い興味を惹かれた隆史は布団からそっと抜け出て、物音を立てないように注意しながら部屋を仕切っている襖をほんの少しだけ開けた。
隆史の視線の先には電灯の薄明かりの下、ベッドの上でお互いの身体を絡ませ合っている信之介と美幸の姿があった。それはまるで二人でひとつの生き物のようで、美幸は声とも吐息ともつかない喘ぎをを信之介の動きに呼応するように発している。
隆史は目の前で行われている事が現実の行為だという実感が湧かず、なぜか親に隠れて深夜にひとり見た裏ビデオの性行為という虚構の映像を思い出した。しかし美幸の喘ぎ声に反応して、隆史は自分のペニスが勃起しているのがわかると、急いで襖を閉めて布団に潜り込んだ。