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今度は日経の年金記事が酷い件

先日は、厚生年金の保険料と給付の基となる標準報酬月額の上限が、62万円から65万円に改定されることを報じた記事に関するツイートが酷い件について、こちらで紹介しました。

そして、今日の朝刊に掲載された下の年金記事は、記事自体が酷いので、これを取り上げます。

この記事の内容は、日経が社説等でたびたび唱える、「マクロ経済スライドが長期にわたるデフレのために機能していないので、支給開始年齢を引き上げるべきだ」ということです。

ここで、マクロ経済スライドと支給開始年齢の引上げについてもう一度確認しましょう。

下の図の直線mは、日本の年金制度は、60歳から70歳までの間で受給開始時期を選択でき、受給開始時期を遅らせると給付水準が上がる仕組みであることを模式的に表しています。そして、65歳が原則の受給開始時期とされ、この年齢を「支給開始年齢」と呼んでいます。

しかし、少子高齢化による年金財政の悪化を防ぐために、直線mからnに給付水準を抑制する仕組みがマクロ経済スライドです。マクロ経済スライドが発動すると、例えば、65歳時の給付水準はAからBに低下することになります。

一方、支給開始年齢の引上げとは、65歳時の給付水準を、下の図でいえば68歳時の給付水準とすることです、65歳時の給付水準Aを68歳時に動かすことを意味します。そこで、Cを起点に給付水準線を引くと、直線nになり、マクロ経済スライドによる給付水準線と一致することになります。

給付水準線

つまり、「マクロ経済スライド」も「支給開始年齢の引上げ」も、共に給付水準を抑制するための仕組みなのです。

そうすると、記事の見出し『「年金抑制」いっそやめたら?代わりに70歳支給開始を』がおかしいことに気が付きませんか?見出しの「年金抑制」とはマクロ経済スライドのことでしょうが、70歳支給開始も年金抑制ですから。紙面の半分近くを使って大々的に掲載されている記事にしては、お粗末な感じがしますね。

マクロ経済スライドのフル適用を

確かに、記事の解説の通り、マクロ経済スライドはデフレ時には発動せず、給付抑制が効かないという問題点があります。

財政検証でも、経済前提が一番悪いケースでは、マクロ経済スライドが機能しないため、積立金が枯渇してしまい、給付水準が大きく低下してしまうということが示されています(下のグラフの赤線)。

しかし、経済状況に関わらずマクロ経済スライドを発動(フル適用)すれば、積立金の枯渇は回避でき、給付水準はより高い水準で均衡することが示されています(下のグラフの青線)。

マクロ経済スライドフル適用

支給開始年齢の引上げは、将来世代が割を食う

年金給付の抑制策として、マクロ経済スライドと支給開始年齢の引上げの違いは何でしょう?年金財政の仕組みを表す下の図を見て下さい。

現在の年金財政の仕組みは、財源(天秤の左側)が固定されているので、それと釣り合う給付(天秤の右側)をいかに現受給者と将来世代が分け合うのか、という問題になります。

支給開始年齢の引上げだと、現受給者は影響を受けないので、将来世代の取り分は少なくなってしまいますが、マクロ経済スライドだと、現受給者の給付水準も低下するので、限られた財源を、現受給者と将来世代で分かち合う形になります。

このような違いを日経は理解して、支給開始年齢の引上げを主張しているのでしょうか。

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給付抑制策はマクロ経済スライドで

マクロ経済スライドのフル適用は、2014年の財政検証のオプション試算として改革案の俎上に載りましたが、年金受給者への配慮等、政治的な問題もあり、キャリーオーバー制という中途半端な形での改革となりました。しかし、これが奏功して、2018年から2020年の3年間はキャリーオーバー分も含めて、マクロ経済スライドによる調整は実施されました。

2019年の財政検証では、キャリーオーバー制の効果を見極める必要もあり、改革案の俎上には載りませんでしたが、厚労省においてもフル適用をあきらめたわけではないと思います。

将来世代の給付水準の維持のためには、マクロ経済スライドによる給付抑制が妥当で、それがしっかりと機能するための改革が重要ではないでしょうか。

そしてやっぱりツイートも酷い

日経は自社のツイッターアカウントで、この記事をツイートしています。

今回は元の記事も酷いので仕方ないのですが、コメントの「70歳支給開始論も浮上してきました」という部分は、誤解を招くものですね。

そこで、以下のようにリツイートしました。

そうしたら、私のリツイートに反応したのかどうか分かりませんが、次のようにツイートし直していました。記事の見出しをコピーしただけですが、これもおかしいですよね。

他にも、なぜ年金改革の柱である適用拡大について全く触れないのかという疑問もありますが、今回はこの位で。

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