企業型DCの運用商品公表データのまとめ
前回は、企業型確定拠出年金(企業型DC)における運用商品(投資信託)の公表の方法について、企業型DCを導入する事業主やその加入者が容易に比較を行い、より良い運用商品が選択できるように、厚労省と運営管理機関(運管)は改善するべきである、ということを述べさせて頂きました。
今回は、現在公表されている運用商品に関するデータを集計したものを、いくつか皆さんにご紹介したいと思います。
集計にあたっては、企業型DCの運営管理機関111社の各ホームページで公表されているデータをコピペし、各社バラバラなフォーマットを整えた上で集計しました。集計作業は十分注意して行いましたが、なにぶん手作業なもので、集計結果に誤りがある可能性があることをご承知おき下さい。
それでは、集計した結果を見てみましょう。
公表に問題のある運営管理機関
まずは、運用商品の公表をしていない運管を挙げておきます。「公表をしていない」とは、厚労省の運管業者一覧には、運用商品を公表しているサイトのリンクが張られているけど、そのリンクの先で肝心の情報を見ることができない、という状況です。
この様に、役に立たないサイトのリンクを貼っている運管の姿勢には疑問を感じますが、それと同時に、厚労省はリンク先のサイトをチェックしていないのかと、さらに疑問を感じるところです。
以下の11社の運管に関するデータは、今回の集計には含まれていません。
・運用商品の一覧を見るためにパスワードを要求される:湘南信金、播州信金、桑名三重信金、岐阜信金、福井信金、豊橋信金、米子信金
・個人型(iDeCo)向けの運用商品しか公表されていない:静清信金
この金融機関のホームページを見る限り企業型DCは提供していない模様。運管業者一覧のリストの誤り?
・企業型DCの説明パンフレットが掲載されているが、運用商品の手数料に関する説明は無し:東和銀行
・公表しているサイトのコピーができない:三井住友信託銀行、北海道銀行(コピーができないようにしているという事は、比較されることを拒否していると見做されるでしょう)
さて、以下のパートでは、運用商品を選択する際の重要なポイントである手数料、その中でも信託報酬に着目して見ていきたいと思います。
資産種別ごとの信託報酬の分布(インデックス型)
まずは、インデックス型のファンドについて、その信託報酬の分布を資産種別ごとに見てみましょう。インデックス運用なので、基本的には投資対象はそれぞれの資産種別の中では同じものです(厳密には国内株式ではTOPIXと日経平均が、先進国株式ではS&P500とMSCI-KOKUSAIが混ざっています)。したがって、信託報酬が低いファンドの方が、確実に運用成績が良くなるものです。
インデックス型のファンドについては、最近は信託報酬の引き下げ競争が激しく、多くのファンドにおいては、0.1%~0.2%台の水準になっています。
その一方で、企業型DCの中では、依然として信託報酬が高いものも多く、その分布は2極化している状況です。
特に2極化の度合いは、「先進国株式」で顕著であり、依然として信託報酬が1%を超えるものもあります。前回紹介した日経の記事でも、投資対象が同じで信託報酬が0.2%と1%と異なる2つのファンドを、それぞれ毎月3万円積み立てると、30年後の運用成績の差は300万円になるという解説がありました。
下の表に、信託報酬が高い先進国株式ファンドを挙げましたので、参考にして下さい。
信託報酬で比べる運管ランキング
次は、各運営管理機関が提供しているインデックス型ファンドの信託報酬の平均値を出して、高い方と低い方のそれぞれ上位の運管のリストを紹介します。
高い方と低い方の差が大きいことが分りますね。インデックス型ファンドは、運用の基本となるものなので、この信託報酬が高い運管を利用している事業主さんは、運管に問い合わせるなどした方が良いかもしれませんね。
では、インデックス型ファンドの信託報酬が最も高い群馬銀行と最も低い武蔵野銀行が提供しているインデックス型ファンドを見てみましょう。
下の表の通り、どの投資対象で比べても、武蔵野銀行の方が圧倒的に信託報酬が低いファンドを提供していますね。
ちなみに投資対象が「バランス」というのは、国内外の株式、債券のインデックスにあらかじめ決められた比率で投資をするものです。
群馬銀行と武蔵野銀行は、それぞれ群馬と埼玉を地盤とする地銀ですが、隣県同士にも関わらず、これだけ企業型DCのラインアップが異なるのは興味深いですね。
信託報酬が最も高いファンドは?
最後に、企業型DCで提供されているファンドの中で、最も信託報酬が高いものを見てみましょう。
それは、下のファンド「ダ・ヴィンチ」です。「分散投資の芸術」というキャッチフレーズが付いていますね。信託報酬は、2.2%(税込)です!
このファンドは、世界株式と世界債券に40%ずつ、比較的安全性の高い円短期金融商品に20%投資するもので、株式と債券のそれぞれ国ごとの配分や為替ヘッジを機動的に行うことによって運用成績の向上を目指すアクティブ型のファンドです。
それにしても、バランス型ファンドですから、期待リターンは精々年率4%程度とすると、その半分が手数料(信託報酬)として取られてしまうという訳です。
信託報酬がダ・ヴィンチの14分の1程度の、インデックス型バランスファンド(先の武蔵野銀行のリストに入っています)、「マイバランス30」、「マイバランス50」と比べた結果が下の表です。
案の定、マイバランスの方が長期の運用成績でダ・ヴィンチを圧倒していることが分りますね。
こんなダ・ヴィンチを提供している運管のリストは以下の通りです。このようなファンドを選定している理由を知りたいところです。
まとめ
以上、企業型DCの運営管理機関が公表している運用商品を集計した結果について紹介させて頂きました。
これが、運営管理機関や運用商品の選択あたって、多少なりとも事業主や加入者の皆さまのお役に立てば幸いです。
今回は、信託報酬に着目した比較を行いましたが、他にも、販売手数料や信託財産留保額といった手数料や、事業主が負担する運営管理手数料、さらに運管が提供する投資教育の内容なども、選択をする上で重要なファクターとなるでしょう。
最後に繰り返しになりますが、厚労省と運営管理機関においては、加入者の利便性の向上に資する様々な比較が容易にできる態勢を早く整備して欲しいと思います。