マクロ経済スライドフル適用

マクロ経済スライドで4割減??

先日のCOMEMOに投稿されていた小黒先生の記事ですが、どうも誤解をされている(あるいは誤解を招く)部分があったので、取り上げて見ました。

誤解している部分というのは、投稿された記事の以下の解説です。

この改革は、以下のコラムでも指摘しているとおり、マクロ経済スライドによる給付減(約4割)を考慮しても、給付水準を約4割も増やすことができるため、このような繰り下げを選択する高齢者が増えていけば、貧困高齢者の増加を抑制する効果もあり、極めて重要です。

この部分の本旨は、マクロ経済スライドで将来の年金給付水準が低下する分を、75歳まで繰下げて受給すれば補うことができるということで、それ自体は良いのですが、問題は「マクロ経済スライドによる給付減(約4割)」というところです。

これを見ると、「マクロ経済スライドって年金の給付水準を大きく下げる酷い制度だ」と思う方も多いと思いますが、それは全くの間違いです。どういうことでしょう。

この解説の元となっているのは、財政検証の一番悪い経済前提(ケースⅥ)で、2052年に国民年金の積立金が底をついて、所得代替率が38%~36%程度に落ち込んでしまうという部分です。

現在61.7%の所得代替率が38%~36%に落ち込むので「4割減」ということなのですが、このように給付水準が大きく落ち込んでしまう理由は、「マクロ経済スライドによるもの」ではなく、「マクロ経済スライドが機能しないため」なのです。

下の図を見て下さい。赤い線は、現行のマクロ経済スライドの適用ルール、つまり、賃金と物価の上昇率が十分でない場合は、マクロ経済スライドを先送り(キャリーオーバー)する場合です。一方、青い線は、経済状況に関わらず毎年マクロ経済スライドを適用した場合を表しています。

マクロ経済スライドフル適用

マクロ経済スライドを着実に実行する方(青い線)が、より高い給付水準を維持できることは一目瞭然ですよね。それなのに、マクロ経済スライドによって給付水準が4割減という解説は、マクロ経済スライドの機能について誤解を与え、マクロ経済スライドのフル適用に向けて、世論の形成を阻害するものではないかと心配です。

他の解説の部分でも、気にかかることがありました。例えば、支給開始年齢の引き上げとマクロ経済スライドの効果を解説するために用いられた以下の図です。

画像2

この図は、平均余命が延びる分を、支給開始年齢の引き上げ、もしくは、マクロ経済スライドによって給付水準を抑えることを説明したものですが、これだと、生涯における給付総額は、今(黒い長方形)も将来(青い点線 or 青く塗りつぶされた長方形)も変わらないことになります。でも、それでは少子高齢化に対応するための給付水準の抑制にはなりません。

どこがおかしいかと言うと、上の図は、「高齢化」による平均余命の伸びは反映されていますが、「少子化」による現役世代の減少による影響が反映されていません。マクロ経済スライドの調整率は、平均余命の伸び率と被保険者数の減少率によって定められているのです。

この記事を書かれた小黒先生は、年金部会の経済前提に関する専門委員会の委員でもいらっしゃるので、ここら辺のことは、しっかりと誤解の無いように書いて頂きたいところです。

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