誰もがそれをやっていた(大損するまで)
記事で紹介されている、オプション(ボラティリティ)を売って得られるプレミアムで運用利回りを上げようという戦略は、以前から行われているものである。しかし、この手のものは一度始めると止め時を判断することが難しく、結局市場が急変して大損するまで続けてしまい、手元には何も残らないというバッドエンディングが多いのではないかと思われます。以下に、オプションの売り戦略を商品化した商品を2つ取り上げて、見てみたいと思います。
1.株価連動債券(ノックイン型)
株価指数や個別株式の価格に連動して、利率や償還金額が決定される、仕組債の一種です。債券にはプットオプションの売りが組み込まれており、そのプレミアムによって高利回りを実現しているものです。
この債券には早期償還条項が付いており、対象株式の価格が5%とか一定以上、上昇すると、早期償還されてしまいます。
債券は、株価がノックイン水準(発行時の6~7割)まで下落しなければ、元本100%で償還されますが、もしノックイン水準まで下落すると、その下落率に応じて償還金額が減額されてしまいます。
この手の債券は、株価が安定している時には6~7割まで下落することは無さそうに感じるので、早期や満期で償還されて元本が戻ってくると、また同じような債券に投資して、2匹目、3匹目のドジョウを狙いたくなります。そして、これを繰り返しているうちにリーマンショックのようなことが起こると、それまで享受した高利回りの収入をすべてチャラにしてしまうような損失を被ってしまうというわけです。また、対象株価がノックイン水準に近づいてくると、組み込まれているプットオプションのリスク管理上の理由で、株価の下げを加速する要因になり、市場に悪影響を及ぼすことがあります。
2.VIXインバースETN
これについては、以前の投稿で何回か触れているので詳細は割愛しますが、本日をもって早期償還のため上場廃止となりました。
この手のVIXに連動した商品は、リーマンショック以降に活発に取引されるようになったもので、VIX先物指数の構造的な欠陥を逆手に取る形で、数年で当初の4倍にも価格が上昇しました。しかし、今月のVIXショック相場の中で、VIX先物指数が一夜で2倍近くに跳ね上がったため、その反対の価格変動になるVIXインバースETNの価格は、前日の4%程度まで大きく下落してしまいました。
ところで、早期償還条項の「前日の価格から20%以下に下落した場合」というのは、よくよく見るとすごく違和感を感じませんか?
まず第一に、前日の価格から20%以下まで下落することが想定されていること。そして第二に、価格が大きく下落したと言っても、ゼロにはなっていないのに償還されてしまうこと、です。
しかし、これはこのETNのリスクを表していたものといえるでしょう。つまり、ETNの価格が一瞬にして大きく下落する可能性があり、その結果、理論的な価格はゼロ以下にもなり得るということです。ただ、理論価格がマイナスになってしまっても、マイナス分はETNの保有者に転嫁することはできず(投資金額以上の損失は転嫁できないから)、発行体の損失となってしまいます。それを避けるために、バッファとして20%を早期償還の水準に定めたのではないかと推測しています。ちなみに、東証に上場されているETNは24銘柄ありますが、このような早期償還条項が定められているのは、VIXインバースだけです。
やはり、オプションの売り戦略では、長期で安定的な運用成績をあげることは難しいということを肝に銘じた方が良いでしょう。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27013890W8A210C1TCR000/