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年金改革が進まぬ理由

公的年金の財政検証が公表されてから、そのオプション試算で示された年金制度の改革案が議論されていますが、なかなか簡単にはいかず、新聞でも「進まぬ年金改革」と指摘されています。

それでは、なぜ改革が進まないのでしょう。

今回のオプション試算で示された結果に基づいて、厚労省の社会保障審議会年金部会では以下のような方向性で議論がされていました。

①短時間労働者の適用拡大における事業所規模の要件(501人以上)を撤廃
②一定以上の賃金を得ている年金受給者の年金額を減額する在職老齢年金制度の廃止

②の在職老齢年金制度(在老)の廃止については、65歳以降も高賃金を得られる高所得者優遇という批判は予想されていましたが、一定の年齢に達したら現役時代の負担に見合った給付が受けられるべき、という年金制度としての分かりやすさや、これから高齢期の就労が進むことが予想される中、就労意欲を阻害する可能性のある在老は廃止しても良いのではないかということでした。

その代わり、①の適用拡大の規模要件の完全撤廃により、トータルでは将来の所得代替率もわずかですがプラスになる、というのが年金部会で議論されていたわけです。

ところが、在老の廃止に食いついてきたのが立憲民主党の山井議員です。冒頭の写真は、10月30日に開催された衆議院労働厚生委員会の一幕ですが、山井議員は、在老廃止を「1%の高所得者のために99%の庶民を犠牲にするもの」と恫喝し、厚労省は年金が減額される基準額を47万円から51万円にわずかに緩和する案に修正を迫られてしまったということです。

ご興味のある方は、下の動画の6番目に登場する山井議員のパートをご覧ください。

それにしてもこの山井議員は、2014年の財政検証後に出された、年金を賃金と物価の動向に従って改定する仕組みを、現受給者に有利なものから現役世代に配慮したものに改正する法案について、「年金カット法案」と騒いで結局はそれが的外れであることを指摘されてしまったという前科があるんですよね。

今回は、在老廃止だけを見れば、高所得者優遇でそのツケを将来世代が負うという側面もあるのですが、適用拡大とセットで実施すれば、所得代替率の低下を避けながら、年金制度をシンプルにして、かつ、これからの高齢期の就業の促進を阻害しないような年金制度に改革をすることができたのに、山井議員の近視眼的な批判によって中途半端な形になってしまったことは、残念です。

また、適用拡大の方も、結局は事業所規模要件の完全撤廃はならず、50人超の事業所を対象にするという案に落ち着きそうです。

完全撤廃とならなかったのは、中小企業における保険料負担の増加に配慮したということのようですが、これこそ、中小企業の経営者を助け、そこで働く庶民や低所得者の方の年金を充実させることを阻む、金持ち優遇と言えないでしょうか。山井議員の在老廃止に反対する強いエネルギーが、低所得者の年金の底上げにつながる適用拡大に対して向けられなかったことは、とても残念です。

適用拡大の意義については、何度か取り上げていますので宜しければご覧ください。

適用拡大は、今回規模要件の完全撤廃で125万人規模の拡大を達成できれば、次は賃金要件の撤廃等さらなる拡大とそれによる所得代替率の向上という道筋が立てられたのに、5年後にもう一度企業規模の完全撤廃を議論しなければなりません。

年金改革が進まないのは、山井議員だけの責任ではありませんが、年金改革を「桜を見る会」のような政権批判のための道具にはして欲しくないですし、私たち有権者は将来の年金制度をより良いものにするためには、政治家を選ぶ必要があるのではないでしょうか。

#COMEMO #NIKKEI

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