投資教育の問題点~金融リテラシー調査より~

投資を数値だけでとらえることの問題点

今回は金融経済教育の普及に務めている、知るぽると(金融広報中央委員会
)が実施した「金融リテラシー調査 2019年」から題材を取り上げてみます。

この調査は、家計管理、生活設計、金融に関する知識について53個の質問に答えてもらい、18歳以上の個人の金融リテラシーの現状を把握するためのアンケート調査です。

アンケート全体の報告書は、以下のリンクで見れます。

この報告書の中で、私の目に止まったのは、以下の質問とその回答です。(報告書23ページ)

この結果の分析として、次のようなコメントが付されています。

期待収益率+5%の投資(図表55参照)に対して、77.3%(前回:78.6%)の人が「投資しない」と回答しており、損失回避傾向は総じて強い(因みに、年代を問わず、女性の方が男性より損失回避傾向は高い)。また、損失回避傾向が強い人をみると、株・投資信託・外貨預金等への投資を控える人が多い。

このコメントが意味するところは、”投資”の確率的な期待値がプラスであるにも関わらず、投資をしないという人が4分の3を占めるということは、「損をしたくない」と感じる人が多いということなんでしょうが、私の見方はちょっと違います。

まず、質問の内容についてですが、私にはこの質問で問われている”投資”というものが、投資というよりギャンブルのようなものではないかと感じます。つまり、下のイラストのように、コインの表裏で勝負が決まる”ギャンブル”をやりますかという質問に見えるのです。そりゃ、多くの人はギャンブルで損をしたくないので、それをやらないと選択するのは無理もないでしょう。

アンケートの質問なので、あまり詳しい説明を加えることは難しいのかもしれませんが、投資をリターンやリスクといった数値だけで説明しようとすると、このように誤ったイメージを与えかねないので、もう少し工夫が必要かと思います。

また、逆に、メディアや「知るぽると」のように金融教育を推進している団体でさえも、一般の生活者に対して投資の本質というものを正しく伝えておらず、結果として、多くの人にとって投資というのは、このイラストのようなものだというイメージを植え付けているのではないかと思います。

別の例を挙げてみましょう。次の図は、金融庁の「つみたてNISA早わかりガイドブック」から4つのページを抜粋したものです。「長期・積立・分散」による投資が資産形成として有効であることを説明する目的のものですが、やはり、数値データばかりで、言い換えると、株価や基準価格の動向だけに着目したものになっています。このようなデータは、投資を始める上で知っておくべきものではありますが、これだけだと、極端な例えかもしれませんが、様々なデータを駆使した競馬の予想と変わりはなく、「投資=ギャンブル」というイメージを払しょくするには不十分だと思います。


投資教育における大切なポイント

わたしは、投資教育としてまず第一に重要なことは、投資とは何かということを理解することだと思います。そのための教材として、次の文章を見て頂きたいと思います。これは、コモンズ投信という運用会社が発信しているメルマガの抜粋です(文中の太字による強調は筆者が付けたもの。なお、コモンズ投信のファンドを推奨・勧誘する目的ではありません)。

投資の本質を分かりやすく説明し、ギャンブルとは全く異なる社会参加、社会貢献活動のようなものであるということが分って頂けると思います。

「コモンズ30ファンドは、ただ貯めて増やすだけのファンドではありません。自己資産の形成をしながら、成長を続ける日本の優良な企業を長期にわたって応援し、それらを通じて豊かな社会づくりをお子さん、お孫さんへと長い目線でつなげていく『日本株の長期集中投資ファンド』です。」(コモンズ投信の会社案内より)
「世の中にとって必要とされるサービスを提供する企業に、しっかりとした成長資金を届けたい」
「社会課題を解決しながら持続可能な社会づくりに貢献できるような企業に私のお金を投じたい」
「私の代わりに身近な社会課題に取り組んでくれている人を寄付で支えてよりよい社会にしたい」
こうした志のあるお金の循環を作っていくために、コモンズ30ファンドは生まれました。
そして、その果実は、しっかりと家計や社会に還元される、それがコモンズ投信の目指している長期投資です。
一方、“老後資産2000万円(が必要)”と試算した金融庁の報告書が、年金制度への不安を煽るものとして報告書そのものがなかったものにされ、かつ、投資は足りない年金の穴埋めのためにしなければならないもの”と受け止められているとしたらそれはとても残念に思います。
将来が不安だから、この先に希望が持てないから、といってせっせとお金を貯めこみ、投資もただお金を増やすための手段としか見ることができなくなる。
これはとてももったいないことだと思います。
私たちが「こどもトラスト」を通じてこどもたちに様々な体験やお金の価値を伝える取り組みを続けているのも、お金には社会をよりよくする、とても大きな力があることを知ってもらいたいからです。
「投資って応援することなんだ」
「成長するものにお金を投じれば、それが社会をより良くすることにもつながるし、私にもしっかり還元される。私はそのお金で世界を旅していろんなことを学びたい」
投資が、こんなふうに一人一人のこどもたちの未来を支え、彩り豊かな人生の“手段”になってほしいと考えています。
今後も、皆さまとともに、「未来を信じる力」と「未来を支えるお金」を大切に育みながらしっかりと歩んで参りたいと思います。

金融庁も「老後の生活資金が足りないから」という理由ではなく、「私たちの未来をより良くするため」という理由で投資を促すようにすれば、より多くの人が自然に投資を始められるような気がしますが、どうでしょうか。


投資と寄付は同じもの

また、上のメルマガの中に、「私の代わりに身近な社会課題に取り組んでくれている人を寄付で支えてよりよい社会にしたい」という一文があります。投資の話をしているのに、なぜ寄付が出てくるのだろうと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、投資も寄付も、「世の中のお金を必要としているところに自分のすぐに使わないお金を回す」という目的において、同じものなのです。

下のイラストは、投資と寄付が同じものであることを説明したものです。

投資教育をする際には、寄付についても取り上げて話してあげると良いのではないでしょうか。「寄付はお金持ちがすること」なんて言う人もいますが、そんなことはありません。

投資と寄付の意義を理解して、私たちの未来のためのより良いお金の使い方について考えてみませんか?

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