基礎年金をアップするための改革は、財政調整かそれとも適用拡大か?
みなさん、こんにちは。年金界の野次馬こと、公的年金保険のミカタです。
さて、久しぶりに公的年金について盛り上がっているようです。その元ネタは下の報道。
年金改革報道に対する「ああ勘違い」
これに対して、厚生年金に加入している会社員と思われる人々の反応は次のような感じです。
まずは、見出ししか見ない人。
国民年金って、未納や免除の人が多いから財政が苦しいんだろ。そのために俺たちサラリーマンが給料から天引きされている保険料を使うなんて、とんでもない話だ!
そして次は、記事のページを開いて、そこに大きく表示されている下の図を見た人。
改革案だと厚生年金(黄色の三角部分)が減って、その分国民年金(緑の四角部分)が増えているのか。俺たちの年金を、自営業者の国民年金のために取られるなんて、ごめんだ!
いずれも誤解ですね。
国民年金の保険料を未納している方には、将来年金は支給されません。また、免除を受けている方には、国庫負担分しか支給されません。つまり、国民年金の未納や免除の穴埋めに、厚生年金の保険料や積立金が使われることはないのです。
次に、記事の図についてですが、厚生年金と書いてある黄色の三角部分だけを見て文句を言っている人は、論外です。厚生年金の加入者が将来受け取る年金は、国民(基礎)年金と厚生年金の2階建てだからです。
でも、会社員の年金は2階建てだと知っている方でも、図の現行制度と改革案の将来の図を比べると、改革案の方が年金が減ってしまうように表されているので、頭にきてしまうのは仕方ないかもしれません。
記事の図が混乱を招いている?
これは、記事の図が間違っているのです。
図を正しく直してみたので、下の図を見てください。元の図の中で、現行制度の将来の年金を表しているところが誤りです。
現行制度における将来の厚生年金部分の三角は、現在より大きくなっていて、これは2階部分厚生年金の給付水準が上昇することを意味しますが、そんなことはありません。厚生年金部分に対しても、マクロ経済スライドによる調整がかかるので、基礎年金部分ほどではありませんが、給付水準は低下、すなわち三角形が現在より小さくなるのです。
それを正しく表した図(赤い破線で囲ったもの)と、改革案の将来の図を並べて、1階部分と2階部分を合わせて比べてみると、改革案の給付水準の方が高くなっていることが分かります。
改革案は大半の厚生年金加入者にとって有利
この比較について、もう少し詳しく見てみましょう。下の図は、改革案と現行制度を並べて比較したものです。2階部分の厚生年金が三角形で表されているのは、現役時代に納めた保険料、つまり賃金の額によって給付額が決まる報酬比例制だからです。
三角形の左側は、低所得で報酬比例の年金が少ない人で、右側は、高所得で報酬比例の年金が多い人ということになります。
上の図を見ると、Ⓐ~Ⓒいずれの人でも、改革案の方が給付水準が高くなっていて、赤い矢印がその増分を表しています。そして、矢印の長さは、低所得者が長く、高所得者が短くなっています。
つまり、改革案によって基礎年金部分の水準が改善すると、低所得者ほど給付水準の改善の度合いが大きくなります。現行制度だと、将来の基礎年金部分の目減りの方が大きくなるため、低所得者ほど給付水準が低下してしまうことになり、再分配機能の低下が懸念されていましたが、改革案ではこれを逆に戻すことになります。
ちなみに、上の図の右端よりもさらに高所得者となると、現行制度よりも給付水準が低下してしまうケースもありますが、そのような人はごく一部です。
本改革案は、大半の厚生年金加入者にとっては、給付水準の向上につながり、しかも再分配機能を強化するもので、大騒ぎして反対することではないと思いますが、いかがでしょうか。
適用拡大はどうなるのか
ところで、今回の改革案の原案は、昨年の12月に開催された社会保障審議会年金数理部会で提出されていたもので、それについては、こちらで紹介していました。
私の紹介記事では、追加試算を「国民年金と厚生年金の統合」という形で説明していましたが、今回出された改革案は、直接的な統合ではなく、それと同等の効果が得られる財政調整という形で、報じられています。
財政調整の具体的な方法について、詳細は分かりませんが、国民年金勘定と厚生年金勘定から基礎年金の原資として拠出されている基礎年金拠出金を、現制度では国民年金勘定の第1号被保険者数と、厚生年金勘定の第2号および第3号被保険者数で按分していますが、これを、それぞれの勘定の積立金に応じて按分するような形になるのではないかと思われます。
そして、上のnote記事に続いて、追加試算について次の記事も書いています。
私の記事に共通していることは、再分配機能を有する基礎年金部分の目減りを抑えるためには、適用拡大を進めることが第一ということです。
その他、適用拡大はその趣旨である、より多くの労働者の生活保障を充実させるということ以外にも、様々なメリットがあり、「適用拡大は一石七鳥」ということは何回も紹介してきました。
これらのすべての説明はしませんが、今回は⑥の「適用拡大は財源問題(新たな国庫負担)を発生させない」という点について、説明したいと思います。
財務省は適用拡大を支持か
基礎年金の給付水準が改善することは、再分配機能の強化につながり素晴らしいことなのですが、基礎年金の2分の1を賄う国庫負担の増加がネックとなります。
財務省の財政制度等審議会の「財政健全化に向けた建議」の中で、適用拡大と追加試算について以下のように述べられています。
まずは、適用拡大について。
被用者保険の適用拡大は、国保に加入する短時間労働者等の被用者保険への加入に伴う短期的な国庫負担の減少をもたらす一方、将来的には年金の給付水準の上昇に伴う国庫負担増を伴うことに留意する必要。
次が、追加試算について。
令和2年(2020 年)12 月 25 日の社会保障審議会年金数理部会では、部会における検討のため、厚生労働省から、「基礎年金拠出金の仕組みを見直し、基礎年金と報酬比例に係るマクロ経済スライドの調整期間を一致させた場合」の追加試算が示されている。具体的な制度改正の内容も示されておらず、次の制度改正に向けて特段取り上げる段階にはないものの、国庫負担の増加が見込まれる試算であり、慎重に検討する必要がある。
適用拡大の方は、第1号被保険者が厚生年金に加入すると、医療保険の方も国保から健康保険(協会けんぽ、健保組合、共済組合)に移るので、国庫負担が減少する(一時的にという部分が良く理解できませんが)のに対して、追加試算の方は、単に基礎年金部分の給付水準の上昇は国庫負担の増加につながると、警戒感を示しています。
共産党は労働者のための党ではないのか
政治家の方はどうでしょうか。冒頭に紹介した記事にもあるとおり、今回の改革案の話は、9月10日の田村厚労大臣の記者会見で出たようです。これを受けて、共産党の小池氏と宮本氏は次のようなツイートをしています。
お二人とも今回の改革案に対して、ポジティブな反応を示しています。しかし、共産党ならば、より多くの労働者の生活保障が充実し、かつ、基礎年金部分の改善が見込まれる適用拡大をもっと支持するのかと思いましたが、どうも違うようです。
年金制度改革の議論の行方に注目
これから、次期制度改革に向けての議論と報道が盛り上がってきそうですが、基礎年金部分の改善については、適用拡大をどこまで進めるのかということも併せて検討するべきであるということを、私としては強く求めるところです。
適用拡大は先般の制度改革で達成できなかった、企業規模要件の完全撤廃だけでは、その対象者は125万人で全然足りません。更なる要件の緩和によって、オプション試算で示された1050万人を対象とする更なる適用拡大を目指すべきではないでしょうか。
そうすれば、今回の改革案と同等の給付水準の改善が期待できます。
最後に、基礎年金のアップを論じるメディアの報道や、識者の論考において、適用拡大について触れていないものはモグリであるということを改めて強調しておきたいと思います。