マクロ経済スライド、名目下限措置だけが問題か?

昨日(1月18日)厚生労働省が平成31年度の年金額改定を公表しました。

年金額改定の基礎となる物価上昇率と賃金上昇率は、それぞれ1.0%と0.6%で、改定ルールに従って新規裁定者、既裁定者ともに0.6%となり、ここからマクロ経済スライドによる調整率0.5%が差し引かれて、最終的には昨年度から0.1%のプラス改定となりました。

マクロ経済スライドの調整率0.5%には、昨年度の賃金・物価スライドが据え置きだったため調整できなかった0.3%がキャリーオーバー分として含まれています。

まずは、4年ぶりのマクロ経済スライドと昨年度から始まったキャリーオーバー制による調整も実施されたことについて、とりあえず制度が機能したということで良かったのではないでしょうか。

もちろん、マクロ経済スライドが経済状況に関わらず、しっかりと機能して、将来世代の年金水準を維持するためには名目下限措置の撤廃が必要だという、今日の日経社説のご意見はその通りだと思います。

しかし、名目下限措置撤廃を繰り返し主張するだけでは面白くないで、マクロ経済スライドで私が気になっているデータを紹介したいと思います。

下の表をご覧ください。マクロ経済スライドの過去5年間の推移を表しています。調整率は、年々低下してきており、また2014年の財政検証時に想定していた水準よりも低くなっています。

これが、「調整率の低下→将来の給付水準の上昇」と単純に結び付けばよいのですが、実際はどうなんでしょうか。

マクロ経済スライドの調整率は、以下の算定式によって定められています。

算定式の通り、調整率を決めるのは被保険者数の変動率と、平均余命の伸び率です。ここで後者はマイナス0.3%の固定値となっているので、調整率の低下は、被保険者数の減少に歯止めがかかり、今年度においてはプラスに転じたこと(+0.1%)が理由と言えるでしょう。

被保険者数の減少に歯止めがかかった理由として考えられるのは、高齢者や女性の就業者が増えたことや、短時間労働者の適用拡大あたりでしょうか。ただ、これらの人々は報酬額があまり高くないのではと思います。

とすると、上の算定式において、報酬額に関わらず被保険者の数だけをカウントするような方法で調整率を決めて、期待される効果が得られるのか、ちょっと気になりました。

今年は、5年に1度の公的年金の財政検証が実施されます。その中で、マクロ経済スライドの調整率がどのように扱われるか注目したいと思います。

あと余談ですが、今日の社説の締めは以下のような文章でした。

また財政検証にあたっては経済前提を厳しく見積もるようクギを刺しておきたい。

マクロ経済スライドが過去15年間で2回しか発動されていないのは、デフレ経済が続き、賃金、物価が十分に上昇していないことが原因です。一方、この15年の間には、リーマンショックという不況があったものの、その前後における景気拡大期(小泉政権時のいざなぎ景気とそれを超えたといわれるアベノミクス景気)においても賃金が上昇していないのはなぜでしょう。

日経は、企業経営者に内部留保を貯めこむだけでなく、しっかりと賃上げするようにクギを刺して欲しいところですね。

すみません、もう一つ余談ですが、年金額改定の基礎となる賃金のデータは、現在問題となっている「毎月勤労統計」は使用していません。元データは、保険料や年金給付の基となっている標準報酬月額というものですが、これはこれで、事業主が保険料を抑えるために本来より低い額を届け出ていることがあるので、そこら辺が気になりますね(年金事務所でも間違いの無いように定期的に賃金台帳と突合する調査を実施していますが)。

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