【悲報】日経、年金誤報を繰り返すの巻
みなさん、こんにちは!年金界の野次馬こと、公的年金保険のミカタです。
一昨日、安倍元首相の国葬を差し置いて、日本経済新聞の1面トップで報じられた年金記事が、誤報級のトンデモ記事で、これについて少々ちょっかいを出してみたばかりですが、、、、、
なんと、日経は懲りずに翌日にまた同じような記事を出していました。
こちらの記事は、前日の1面記事が誤解を招き、厚生年金加入者を中心にSNSで炎上していたため、その火消しのつもりで出したのでしょうが、それならば、再び1面で堂々と出さなければ、あまり見る人はいないでしょう。
しかし、これも、あまり見られない方がよかったかもしれません。
なぜなら、この記事でも間違いがあり、日経が、基礎年金が目減りすることの問題を正しく認識していないことが露呈しているからです。
公的年金の再分配機能
日経記事の「間違い探し」の答えをお話しする前に、少々公的年金の役割についての復習をしたいと思います。
下の図は、厚生年金に20歳から60歳になるまで40年間加入した人の年金額を、現役時代の収入別に表したものです。
厚生年金加入者は、基礎年金と厚生年金(報酬比例部分)の2階建てとなっていて、基礎年金は収入に関わらず定額で、月額6.5万円、報酬比例部分は収入に応じて上がっていく仕組みです。
すると、トータルの年金額は、収入が高くなるほど上がっていきますが、現役時代の収入に対する年金額の割合をみると、低所得者ほど高くなっています。
つまり、公的年金は、低所得者ほど現役時代の収入に比して高い年金を支給するもので、これが年金受給者の経済的格差を是正するための、再分配機能と言われているものです。
そして、再分配機能が働くのは、収入の多寡にかかわらず定額である基礎年金があるためなのです。
基礎年金が大きく目減りすると、この再分配機能が働かなくなり、格差が拡大してしまうことになり、これが問題視されてきたわけです。
基礎年金が上がって恩恵を受ける人は?
さて、元の新聞記事にもどって、何が間違っているか見てみましょう。それは、記事で使われている下の図です。
これは、今回の政府改革案によって所得水準別の年金給付水準がどのように変化するか表したものです。
改革案では、基礎年金の給付水準がアップし、報酬比例の水準がダウンしますが、トータルでは、一部の高額所得者を除いて、給付水準がアップするということを言いたかったのでしょうが、大きな間違いがあります。
図の下の(注)に、「厚労省試算を基に作成」とありますが、それと思われる厚労省の資料を見てみましょう。
これは、新聞記事の図と同様に、改革案によって所得代替率(緑色、左軸)と年金月額(赤色、右軸)が、賃金水準に応じてどのように変化するかを表しているものです。
現行制度(実線)と改革案(点線)を比べると、年金月額、所得代替率ともに低所得者ほどアップしていることが分かります。
つまり、基礎年金の水準を上げることの意義は、全体の給付水準を上げるということもさることながら、再分配機能を強化することにあるのです。
しかし、新聞の記事の図はどうでしょう。中所得者のほうが低所得者よりアップの度合いが大きくなっていて、基の厚労省の資料が示しているような、再分配機能が強化されるところが正しく表されていません。
なぜ、このような間違いをするのでしょう。それは、記事の下の文章を見ると分かります。
記事を書いた記者は、基礎年金の給付水準を上げるのは、基礎年金だけの自営業者のためだと理解しているのでしょう。
もちろん、自営業者の年金の給付水準を維持することは大切かもしれませんが、実際問題として、ずっと国民年金1号被保険者で基礎年金のみという人は、全受給者の1割程度で、その比率は低下してきています。
改革案に関する厚労省の資料の中には、下のようなデータが示されているのですが、たぶんそこまで見てはいないのでしょうね。。。。。
そして、さらに繰り返して言いますが、現在は、国民年金1号被保険者の4割は、雇用されて働いている労働者なのです。自営業者は2割程度にすぎません。
そうすると、国民年金1号被保険者の年金給付水準を上げるために、一番必要なことは、すべての勤労者に社会保険を適用する「勤労者皆保険」と「適用拡大」となるわけです。
適用拡大をさらに進めることによって、1号被保険者の年金を2階建てにして、再分配機能の強化が図られるということは、下の投稿を見てください。
適用拡大は誰のために?
適用拡大と言えば、10月から企業規模要件が500人超から100人超に緩和され、より多くの短時間労働者が社会保険加入の対象となります。そこで、巷では下のような記事をよく目にします(有料会員向け)。
その話題は、もっぱら「パート主婦の手取りが減る」というところですが、適用拡大は誰のために、ということをもう一度確認したいと思います。
下のグラフは、適用拡大によって社会保険の加入対象となる短時間労働者の、現在の被保険者区分の割合を表したものです。
ここで注目すべきは、適用拡大の対象となる短時間労働者で一番多いのは、国民年金1号被保険者だということです。
1号被保険者は、年金は国民年金、医療保険は国民健康保険に加入していますが、ほとんどの1号被保険者にとって、社会保険に加入することによって、保険料負担は減り、保障は手厚くなるので、メリットしかありません。
しかし、世の中の報道が、3号被保険者ばかりを対象にしたものだと、1号被保険者までもが「手取りが減るのではないか」と勘違いし、就労調整したりするかもしれません。メディアには、1号被保険者に対しても、適切な情報提供をしてほしいところです。
そして、扶養に入っている3号被保険者についても、社会保険加入によって保険料負担が増えても、それに伴い保障が手厚くなるわけですから、手取り収入を減ることだけを取り上げて「壁」と称するのは、やめた方がよいのではないでしょうか。
「今必要な生活費や教育費のために、将来の年金よりも、手取りが多い方がいい」という人も多くいると思いますが、そのように家計を支えているからこそ、万一病気やケガで働けなくなった時の備えが手厚い方が安心ではないですか?と改めて考えてみてはいかがでしょう。
また夫婦共に社会保険に加入していれば、もしどちらかが、転職やリスキリングなどのため、一時的に社会保険を抜けた場合に、その人を扶養に入れることができ、生活設計における選択肢が増えることになるかもしれません。
短時間労働者のみなさん、メディアの報道に惑わされぬよう、よく考えてくださいね。
以上、公的年金保険のミカタによる野次馬レポートでした。
それでは皆さん、ごきげんよう!