10の質問を通じて理解する公的年金保険の事実~回答集計の結果
先日こちらに投稿した「10の質問を通じて理解する公的年金保険の事実」では、皆さんに公的年金保険に関する10個の質問に答えて頂くようお願いしました。
おかげさまで、87人の方に回答して頂きました。今回は、回答の結果を集計したので、それを共有させていただきたいと思います。なお、10個の各質問に関する詳しい解説は、下のリンクからご覧になって下さい。
また、公的年金をはじめとする社会保障制度について、もっと詳しく知りたい、勉強したいという方は、前回の記事でも紹介させていただきましたが、権丈善一先生(慶応大学商学部教授)の著書「ちょっと気になる社会保障V3」を読んでいただければと思います。
それでは、回答の結果を見ていきましょう!(赤く囲った部分が正解および正解率を表しています)
1.公的年金保険は「共助」である
公的年金保険は、貧困に陥ることを未然に防ぐこと(防貧)を目的として、加入者が互いに支え合う「共助」(主な財源は保険料)の制度です。
一方、不幸にも貧困に陥った方を救済すること(救貧)を目的とする制度は、生活保護のような「公助」(財源は税金)です。
公的年金保険は、国が私たちに何か施しをしてくれるものではなく、私たち自身がお互いに支え合う制度であることを理解して下さい。
2. 「人生100年時代」は本当にやってくる!
老後の生活設計をする上で、平均寿命や平均余命といった「平均」を見るだけでは不十分です。これからは、平均よりもちょっと長生きをすると、90歳~100歳となってしまう時代なのです。
3. 支給開始年齢は65歳のまま変わりません
少子高齢化に対応するための給付水準の抑制は、マクロ経済スライドという仕組みがあるので、支給開始年齢の引上げは必要ありません。
4. マクロ経済スライドのフル適用が重要です
この質問は、問題文を理解することが難しかったかもしれませんが、正答率は意外に高かったですね。年金の給付水準を調整する(少しずつ下げる)マクロ経済スライドを経済状態に関わらず適用するようにすれば、将来世代の年金水準は積立金の枯渇によって大きく下げることはないのです。
5. 将来の年金額で一定の購買力を維持できる
正答率は約5割ですが、思っていたより高かったという印象です。所得代替率と対物価での実質的な年金額の違いが理解できれば、年金の将来について過度に悲観する必要はないという事が分かると思います。
6. 年金積立金の運用成績に一喜一憂しないこと
9割近い方が正解していて安心しました。とかくメディアは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による積立金の運用成績について、特にそれが悪かった時に大きく報じる傾向がありますが、積立金の役割とその活用の方法について、しっかりと理解しておけば不安になることはありません。
7. 財政検証は長期の予測ではない
財政検証は、予測ではなく(100年先のことを予測するなんてムリ!)、5年毎にその時点の人口や経済等に関して得られるデータを将来の年金財政に投影したものです。
この質問の正解は「A、Bのいずれも正しくない」という、ちょっと引っ掛け問題のような感じでしたが、正しい選択肢を入れるとすれば、以下のようになるでしょうか。
”財政検証の目的は、PDCAサイクルで定期的に状況を確認しながら改革を行い続けることにある。”
さて、問1~7までは、正解を選んだ割合が一番多かったのですが、最後の3問(問8~10)は、間違いの選択肢を選んだ割合が一番多くなっています。
8. 適用拡大で手取りが減るわけではない
適用拡大の対象というと、「パートの専業主婦(国民年金第3号被保険者)」という前提で、社会保険料の負担が生じることによって手取りが減ってしまう、という報道をよく目にします。
しかし、適用拡大の対象者の半数近くは、被用者にも関わらず「国民年金第1号被保険者」に追いやられている非正規労働者なので、既に国民年金の保険料を払っており、厚生年金加入によって手取りは減らさずに、より手厚い給付を受けることになるのです。
9. 積立方式も少子高齢化の影響を受ける
公的年金保険に対して批判する方たちの中には、「保険料を払うくらいだったら、それを自分で積み立てた方が良い」という意見をよく目にします。
老後の生活費を自助で備えることは悪いことではありませんが、あくまでも土台となるのは公的年金保険で、年金受給者のニーズにあった財政方式は、賦課方式であることを理解して頂ければと思います。
10. 財政検証で最も重要なこと
最後の問題は、正答率が最も低くなってしまいましたが、仕方ありません。
なぜなら、財政検証の資料の中で最も重要であると年金部会で出口治明委員が述べたものをメディアは報道せずに、現行制度のまま運用した場合の給付水準を大々的に報道しているのですから。
財政検証の結果で一番重要なのは、オプション試算です!オプション試算で示された年金制度改革の方向性について理解し、それを実行に移すための国民的な議論が盛り上がるといいですね。
おまけ:正答数の分布
最後に、正当数の分布をお見せしますね。平均点は5.3点でした。
ただ、この結果には一喜一憂する必要はなく、これをきっかけに、質問に対する解説や「ちょっと気になる社会保障V3」を読んで、公的年金保険に関する理解を深めていただければ幸いです。
そして、皆さんの将来に対する不安がいくらかでも解消され、前向きに、明るく人生を歩んでいただけるための一助になれば、私にとって何よりの喜びです。