年金制度の「超・常識クイズ」の非常識
「日経doors」という媒体の記事です。昨年の隠れ流行語大賞とも言える「2000万円問題」をネタに、老後の備えについて解説している記事の様です。
有料会員向けの記事であるため詳細は分からないのですが、無料で読める記事の冒頭を見る限り、下のイラストが示すように、金融庁の報告書の内容をその趣旨に沿った形で解説しようと試みているように感じました。
その点についてはいいのですが、これに続く下の「お金の超・常識」というクイズを見て、驚きました。クイズの最初の問です。
「年金制度は崩壊こそしないもののxxxやxxxは確実!」
問いの答えは、記事の目次を見ると分かります。答えは、「減額」と「受給年齢引き上げ」です。
しかし、これはクイズの答えが間違っているのです。これでは、「超・常識」というのは、常識を超えた非常識であるという意味にしか考えられません。
何が非常識なのでしょうか?以下に解説します。
まず最初の「減額」についてですが、将来の年金の「額」は、経済状況にもよりますが、よほど経済状況が悪化しなければ、横ばい、あるいは増加する見通しとなっています。
また「受給年齢引き上げ」は、現在65歳で支給される年金額を70歳から支給すること、つまり「支給開始年齢の引き上げ」のことを意味するのではないかと思いますが、「支給開始年齢の引き上げ」は行われないことが確実なのです。
この2つは、年金制度に関する誤解の典型的な例です。詳細については、以下のnoteで解説していますので、よろしければご笑覧下さい。
ここで、公的年金についてもう少し知識のある方は、「年金額は横ばい、あるいは増加しても、現役世代の賃金の伸びに比べると低いので、『所得代替率』は低下するんでしょ」と仰るかもしれません。
しかし、これも公的年金の財政検証の結果の一部を見ているだけで、正しい理解とは言えません。
財政検証では、現行の年金制度を変えずにいると、将来の所得代替率が現在の61.7%から50%程度に低下してしまうことが示されていますが、必要な改革を実施すれば、現在の水準を維持、あるいは低下を抑えることができることが示されています。
下は厚労省が作成した財政検証の1ページです(青と赤の線は、私が追加しました)。
年金制度改革として、適用拡大と保険料拠出期間の延長を実施すると、65歳受給開始は変えずに(青色の線)、所得代替率を10~11ポイント改善できるという事が示されています(赤色の線)。
この記事を書いた方は、エコノミストで若年層の経済・金融リテラシーの向上をミッションに掲げているそうですが、これではミッションに反していると言わざるを得ません。
年金制度については、現行の制度や財政検証の意義など、厚労省が公表している資料や年金部会の議論に目を通した上で、異論があるなら根拠を示して語って欲しいところです。
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