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kana58kana
経験でマウントを取らないようにしたいという話
学生が実務経験者から話を聞くという文脈では、「理論」と「実践」の摩擦が露わになることがある。学生が学んでいる「理論」は、どうやら「実践」の場ではそのまま当てはまらないようで、実務経験者から「でも、実際はね……」と経験に基づいた話がされることがある。
私自身、多少なりとも実務経験があるため、学部卒の院生に対しては、実務経験の話をすることもある。彼ら彼女らに対して、知らない世界の端緒を示すことは有益なことだろうし、またそういう役割を期待されているとも思っている。一方で気になるのは「経験でマウントを取ってはいないか」という点である。
「でも、実際はね……」と言われた学生に、反論可能性(反証可能性)はない。理論というステージで戦う限りにおいて学生も実務家も平等であるが、実務経験で戦うステージに変わった瞬間に、実務経験を持たない学生に勝ち目はなくなる。実務家自身のn=1という限られたサンプル数の経験ではあるが、n=0の学生ではサンプル数の戦いをすることもできない。
学生と実務家とで、公平な、あるいは平等な議論をするためには、実務家のほうが学生に合わせていく必要がある。自身の個別の実務経験から、一般性を、ルールを、理屈を、理論を取り出して、それを持って理論というステージに上がる。議論の場において実務経験者に求められていることは、「実務経験そのもの」ではなく「実務に裏打ちされた理論」ということになる。
理論が実践を磨き、実践が理論を磨く。そうした建設的な対話の場を、作っていきたい。