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The Ocean Waves

「ぴあ」も「東京ウォーカー」もない今、あの手の情報誌をワクワクしながら頁をめくっていた僕らが必要な情報を得るのは、インターネットの海の中。

ぼんやりとSNSとネットサーフィンをしている僕の目に飛び込んできたのは、「海がきこえる」の映画館上映の知らせ。

それからほどなくして、打ち合わせ兼飲み会で久しぶりに会った亥野麻紀ちゃんからも「今度、海がきこえる、映画館でやるらしいですね」との話。

元々テレビ放送のみで終わっていたこの作品。過去に映画館で上映されたという事も、以前ネットで調べていた時に知っていたが、観に行くことはなかった(というか当時上映されていた事実を知らなかった)。
映画も本も、基本的に観返したり、読み返したりすることのない僕が、何度も好んで観直して読み直した作品が「海がきこえる」であり、あまりにも好きすぎて、何とDVDも原作も(文庫も単行本も)持っている。
よく知っている作品だし、今更、別に映画館に行かなくてもいいのかな〜、なんて思っていたが、数日前くらいから、なんだかちょっと行ってみたい、なんて気持ちがムクムク。

僕は気分屋だ。思い立ったが吉日。とあるリハーサルの時間まで、日中時間がある。よし、渋谷まで行こう。
少し早めに家を出た僕は、電車を乗り継ぎ神宮前で降りる。ひと駅分、散歩がてら明治通りをのんびり歩く。
事前に上映情報を調べた時に、オンラインでチケットが買えるのは知っていたが、ここは気分屋。チケットの半券を手元に残したい、なんて気分だった僕は、劇場1Fのチケットカウンターへ。

目の前でチケット窓口で受付と話している若そうな女性が「海がきこえる」のチケットを購入している。え?知ってるの?どこで「海がきこえる」知ったの?どのシーンが好き?原作読んだ?嬉しくて声をかけてしまいそうになる衝動を抑え、無事僕の番。
受付の女性に希望の上映回を伝えると、手元の端末に空席が表示される。
おいおい、想像以上に結構埋まってるじゃないか。なんで?そんなに「海がきこえる」のファンがいるの?そんなに?やっぱり嬉しくて受付女性に話しかけたくなるのを抑えつつ、難なくチケットを購入。

エレベーターでシアターフロアに降りると、これまた結構な人だかり。ど平日だよ?昼下がりだよ?
しかも男女偏りなく…というより、どちらかと言うと女性の方が多い。年齢層も本当にかなり幅広い。
ここにいるみんな「海がきこえる」を知っている人たちなのだと思うと、あまりにも嬉しくて、ひとりひとりに声をかけたくなる。勿論、ここでもその衝動は抑えた。

肝心の作品は?ええ、もう言わずもがな。
大きな画面で観ることの感動も勿論あったし、作品の素晴らしさもモチのロンだったが、何より今回は「僕以外にこんなにたくさんの”海がきこえる”を好きな人たちがいるんだ」ということと、「その人たちと一緒にこの大好きなアニメーションを観れた」ことに感動したのである。

ああ、やっぱり僕は好きなんや。そう感じていた。

映画館を出ると渋谷の街は何だか素敵に映る。腕時計に目をやると、まだリハーサルまでしばらく時間がある。
最近歩いてないしな、なんて独りごちながら、代々木公園まで歩を進めた。
2024年、とある4月の夕方の出来事。

桜は、ぎりぎり。
ギズモの上着で
石畳をあるく。
著者近影(自撮り)

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タカハシコウスケ
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