#2 「檸檬」楽曲解説
ニワトリが先か卵が先か。
答えの出ない問いかけとして有名な問題。
だけど、感情が先か言葉が先かで言うと、感情が先であることは間違いない。
有史以前、事象や感情を他人と共有するために言葉が生まれたんだとしたら、本当に言葉は感情を現すことができるんだろうか。
例えば「悲しい」や「楽しい」はとてもわかりやすい。
だけど、「100%楽しい」とか「100%悲しい」なんてことはほぼ無いんじゃないだろうか。
85%は「悲しい」けど、10%は「寂しい」だし、4%は「自分の心配」で、1%ぐらい「ざまぁみろ」が入ってるかもしれない。
だとすると「悲しい」なんて単純な言葉では言い表せない。
感情は単色じゃないし、グラデーションがあって、時間経過で変化していく。
だから、その一瞬の感情を長々とした歌詞と5分程度のメロディに託して歌を作ってるんじゃないかな。
更に言えば、他人に決めつけられるのはもっと真実から遠い。
「あなたってこういう人だから」
「そうなの、それは悲しかったねぇ」
「嬉しいでしょう?」
便宜上、うなずく。
ただ、時には「そうなのかな?」と疑問にも思う。
もちろん、そんな事言ったって何の意味もないし、僕の感情100%を理解できる人がいない事を知ってるし、もしそんな人がいたら、むしろ怖い。
それに自分でも言い表せられない感情があることも確か。
一番最初に感情と言葉はどちらが先かって話をしたけれど、あやふやで形の定まらない感情に他人に言葉を差し出された時、そのわかりやすい言葉に感情が引っ張られることがある。
もっと自分の中で「この感情」と戯れたいとか、こねくり回したいとか、あまりディフォルメしたくないって思うことはないかしら?
紋切り型の言葉(テンプレート)に当てはめず、言葉のもっと上流の方にある感情と向き合いたい。むしろ、言葉って箱にいれて形を固めちゃいたくない。
そんな想いを歌にしたのが「檸檬」。
思い出の中にある、ひと言では言い表せない風景を歌詞に書いた。
タイトルや歌詞に出てくる「檸檬」は、梶井基次郎という作家の短編からいただいた。
有名な作品だし、読んだことある方もいるかもしれない。なんとなくずっと心に残っている作品で、いつか「檸檬」というタイトルで歌を作りたいと思っていた。
この短編も、今の所この気持ちを言い表す簡単な言葉が日本語に無いから短編にしました、みたいな感じ。
未読であれば、読んでみては如何だろう。
曲調は3拍子で、マイナー調。
メロディも大きく2種類とシンプル。
イメージは弾き語り+αで、あまりゴテゴテしないようにした。
ガットギターで作った曲だけど、完成した時からエレキギターのアルペジオを入れたいと思っていたので、同じフレーズを左右で弾いてる。
リズムはどんな楽器を入れようか迷ったけれど、ライブなどでアコースティックセットとして使っているバスドラにカホン、小径のスネアなどを使用。
普通のドラムでは出せないチープな音が気に入っている。
寝室で録った。