皇位継承問題をめぐる最新動向と課題

 平成29年に制定された天皇退位などに関する皇室典範特例法の附帯決議で、政府に安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設などについて速やかに検討し、国会に報告するよう求めたことを受けて、昨年1月、安定的な皇位継承策を検討していた政府有識者会議は報告書を国会に提出した。

●総裁直属機関で「系統の正当性、継承の安定性」について審議

 10月30日の衆議院予算委員会で日本維新の会の藤田文武議員が「超党派で議論できる枠組みを構築すべきだと私も思いますし、または政府として何らかアクションする必要性があるのではないか」と質問したのに対し、岸田総理は「このテーマは喫緊の重要な課題であるということから、議論に貢献することを形として示すためにも、党内に総裁直属のこうした会議体を設けた」と答弁した。
 また、岸田総理は月刊誌「WILL」12月号で、「今後は見える形で議論を進めて行きたい」「自民党が問題解決の姿勢を示せば、各党が参加する国会での議論も進展する」と明言。
 これを受けて、10月30日、茂木幹事長は「系統の正当性、継承の安定性といった課題に対応していくことが極めて重要だ。そのために総裁直属の新たな組織を立ち上げることにした」と述べ、森山総務会長は「党則79条に基づく総裁直属機関として新設する」と述べた。
 新聞報道によれば、新組織の概要は、①総裁直属機関は、岸田総裁の意向が議論に反映されやすい利点がある(読売)、②麻生太郎副総裁をトップ(読売、朝日、毎日、日経、時事)、➂萩生田政調会長も参加(共同、産経、日経)、④皇族の養子縁組を可能とし、旧皇族に属する男系男子の皇族復帰案を模索(産経)、⑤臨時国会中に議論を前進させたい考え(産経)。
 
●政府有識者会議報告書が示した基本方針の根拠・メリット・反対論

 政府有識者会議報告書が示した基本方針は、皇位継承資格の問題とは切り離して、喫緊の課題と考えられる皇族数の確保を図る観点から、①内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することとすること、②皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇族に属する男系の男子を皇族とすること、という二つの方策について今後、具体的な制度の検討を進め、この二つの方策では十分な皇族数を確保することができない場合に、➂皇族に属する男系の男子を法律により直接皇族とすること、を検討するというものである。
 ①の提案の根拠は、❶悠仁親王殿下の世代に、悠仁親王殿下以外の皇族がいらっしゃらなくなる恐れがあるのは、現行制度が女性皇族は婚姻により皇族の身分を離れることとなっていることに、一つの原因がある、❷女性皇族は皇族でない者と婚姻しても身分は皇族のままであったという皇室の歴史とも整合的(第120代仁孝天皇の皇女である親子内親王は、徳川第14代将軍家茂との婚姻後も皇族のままで、家茂が皇族となることもなかった)であること。
 ①「内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することとする」という提案のメリットは、❶女性皇族が現在行っておられる様々な公的活動が継続、❷関わっておられる行事や団体などの継続的発展の観点からも望ましい、点にある。
 ①に対する反対論は、皇位継承資格を女系に拡大することに繋がるのではないか、というものであるが、その子は皇位継承資格を持たないとし、配偶者と子は皇族という特別の身分を有せず、一般国民としての権利・義務を保持し続けるものとすればよい。
 ただし、現在の内親王・女王殿下方については、天皇及び皇室以外の者と婚姻したときには皇族の身分を離れる制度(皇室典範第12条)の下で人生を過ごされてきたことに十分留意する必要がある。

●養子縁組を可能とし、皇統に属する男系男子を皇族とする

 次に、②「皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とする」という提案の根拠は、❶養子は、皇族については認められていないが、一般の国民には、民法に基づき広く活用されている、❷例えば家名・家業を継がせる目的で、養子となるのにふさわしい人を、当事者間の合意により養子とすることも行われている、からである。
 この提案のメリットは、❶皇族数減少の中、養子となった方が皇族となり、皇族の役割、皇室の活動を担っていただく、ということは採りうる方策である、❷少子化など婚姻や出生を取り巻く環境が厳しくなる中で、後続を存続させていくため、直系の子、特に男子を得なければならないというプレッシャーを緩和する、という点にある。

●養子の対象を旧11宮家の皇族男子の子孫である男系男子に限定

 また、養子の対象をいわゆる旧11宮家の皇族男子の子孫である男系の男子に限定する根拠は、❶皇族が男系による継承を積み重ねてきたことを踏まえると、養子となる者も、皇統に属する男系の男子に該当する者に限ることが適切である(徳川家は、征夷大将軍全15代のうち6代が先代の実子ではなく、徳川家康の血をひく子孫が後を継いでいる。第10代家治は、5親等離れた家斉を養子として後を継がせている)。
 ❷皇籍を離脱した旧11宮家の皇族男子は、日本国憲法及び現行の皇室典範の下で、皇位継承資格を有していた方々である(日本国憲法及び現行皇室典範が施行された昭和22年5月3日から同年10月14日に皇籍離脱するまでの間は、皇位継承順位第6位の寛仁親王に次ぐ第7位以降、26方が皇位継承資格を持っていた)。
 ❸養子となった後、現在の皇室の方々と共に様々な活動を担い、役割を果たしていかれることによって、皇族となられたことについての国民の理解と共感が徐々に形成されていくことも期待できる、ことにある。
 これに対する反対論は、皇籍を離脱して以来、長年一般国民として過ごしてきた方々であり、現在の皇室との男系の血縁が遠い、というものであるが、❶皇位継承に関しては、養子となって皇族となられた方は、皇位継承資格を持たないこととする、❷養子となられる方が既に子がいらっしゃる場合においては、民法同様、子については養親との親族関係が生じないこととし、皇族とはならない、などの対応策が考えられる。

●与野党の議論を尽くし、国民的合意形成を

 今後、第一案の「女性皇族の身分保持案」についての論点や注意点、補強すべき点は何か、第二案の「養子案」についての論点や注意点、補強すべき点は何かについてさらに論議を深める必要がある。
  自民・維新・国民民主党は、伝統に基づく男系継承に重点を置く方針だが、立民は民主党時代は「女性宮家」を認めていこうという考え方だったが、党が変わったので、改めて議論するという。共産党は女性天皇、「女系天皇」を認めるべきだと主張するが、11月7日付産経新聞は、「『女性宮家』は女性皇族が結婚後、宮家を立てて皇室に残ることを想定、男系継承を断つアリの一穴になる懸念」があると指摘している。
 いずれにしても「系統の正当性」「継承の安定性」の観点から与野党の議論を本格化し、国民に分かりやすい形で論点整理を行い、国民的合意を取り付けていく必要があろう。

 
 

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