親学推進議員連盟が目指した家庭教育支援法と「伝統的子育て」批判の歴史的背景

●国家基本問題j研究所「親学シンポジウム」 
 平成26年1月28日、都市センターホテルで国家基本問題研究所主催の月例研究会(親学シンポジウム)が開催され、全国から約500人が結集し、熱い議論が交わされました。まず、下村博文文部科学大臣から、超党派の親学推進議員連盟は新たに衣替えして再スタート、会長は河村建夫元文相、事務局は山谷えり子議員に交代し、「家庭教育推進法」の制定に向けて準備中であることなどが報告されました。
 続いて山谷えり子議員から報告があり、櫻井よしこ理事長の司会進行のもとに、私と義家弘介元文部科学政務官、細川珠生、辻由紀子(親学推進協会理事で親学アドバイザー)の4人で「親の責任、国の責任」をテーマに議論しました。
 平成24年に結成した親学推進議員連盟は共産党と社民党を除く超党派の「親学推進法」の成立を目指す議員連盟で、衆議院議員会館で50名を超える国会議員が参加して勉強会を積み重ねました。
 親学推進議員連盟が目指したのは、第一に、政府に親学推進本部を設置して、必要な財政上の措置を講じ、教育基本法第10条を具体化するための家庭教育支援法の制定、家庭教育支援基本計画の策定、第二に、地方自治自体での家庭教育支援条例の制定、第三に、脳科学等の科学的知見、科学的根拠に基づく子供の「発達の保障」、第四に、発達障害の早期発見・予防、第五に親子の絆を深める子守唄と親守詩の推進などでした。

●安倍晋三会長の挨拶
 4月10日に親学推進協会設立総会が開催され、安倍晋三会長は次のように挨拶されました。

<日本人の徳性、美徳を果たしてこれからも維持できるかどうか、まさに分岐点に立っているのではないか。…多くの子供たちは愛着障害によって、ある種の発達障害的な問題を抱えていたり、行動に問題があったり…虐待の連鎖を断ち切っていくためには、彼らが愛されているんだ、ということを実感してもらうことが極めて重要だということが明らかになってきました。…発達障害のお子さんを持って困難に直面しているご両親に向かって、私たちは決して非難をしようという訳ではありません。子供たちを育てていく上において、どうやって育てていけばいいか、ということが十分に伝承されてこなかった、知識として十分に得ていなかった、というところに大きな問題がある訳です。
 教育基本法を改正しまして、教育の第一義的な責任は家庭にあることを明らかにした中において、家庭教育をしっかりと国としても支援していくことが重要ではないか、ということが議員連盟設立の趣旨の一つである。かつて教育再生を進める中で、髙橋史朗先生のお知恵をいただきまして「親学」を進めて行こうと思ったわけですが、私が提唱していたということもございまして、多くの誤解をよんで、一部のマスコミからは批判されて途中で頓挫したということがある訳ですが、今回は超党派という形になりました。皆様方のご支援でこの誤解を解いて、しっかりと前に進めていきたい。…法律を変えればいいというだけではなく、国民運動的に、国民の中でしっかりと、親の責任は何か、ということを広めていく、啓発をしていく運動が大切ではないかと思います。>

 ところが、大阪維新の会の家庭教育推進条例案に「乳幼児の愛着形成の不足が軽度発達障害またはそれに似た症状を誘発する要因」と書かれていたことが、マスコミによって「愛情不足が発達障害の原因」と大々的に報じられたことが契機となり、過激派の組織的な妨害工作によって解散を余儀なくされました。

●発達障害の親の会との和解と理事長辞任
 1億円を超える助成金で支援していただいた日本財団の笹川会長が仲介していただき、発達障害の親の会の代表とお会いして、発達障害に対する親学の科学的知見について説明し、「親の愛情不足で発達障害になる」などとは全く考えていないことを十分に理解していただき、同席した同会の幹部全員の了解を得て固く握手して別れたにもかかわらず、組織的な妨害工作が展開されたのです。
 マスコミのとんでもない誤報に対して、私は親学推進協会理事長声明を出し、産経新聞などで反論しましたが、炎上した誤解は瞬く間に広がり、教育界「出る杭ネットワーク」を提唱して、「出る杭は打たれる。出過ぎた杭は打たれない」と豪語してきた私が、「騒ぎの混乱の責任を取るべきだ」という周囲の忠告を受け入れ、生まれて初めて退きました。たとえ誤解に基づくものであっても「責任」は率先して果たすべきと決断しました。
 同年7月に石原都知事に頼まれ、大阪府の教育長に後に就任した民間人校長と乙武洋匡氏と教育再生東京円卓会議委員に就任し、東京都における親学推進とよさこいソーランの東京版の副実行委員長として、江戸舞祭り推進に尽力しました。文科省や都教委と何度も交渉し、「デモ行進」扱いから教育活動へと認識を転換していただきました。

●「親学批判」の焦点
 親学推進議員連盟は同規約第2条(目的)において、「本連盟は、『親学』を推進する法律の成立を図ることを目的とする」と定めていましたが、「わが国の伝統的子育てによって発達障害は予防、防止できる」等と書かれた大阪市家庭教育支援条例案がマスコミの集中砲火を浴びて挫折しました。
 政府の教育再生会議(平成19年4月17日)の第2分科会(規範意識・家族・地域教育再生分科会)の有識者ヒアリングで私がプレゼンをした1週間後に、「親学に関する緊急提言」が発表される予定でしたが、事前に情報が洩れて毎日新聞が大々的な批判報道を行った結果、見送られました。いずれの「親学批判」報道も「伝統的子育て」の批判に焦点が当てられていました。
 マスコミが「親学批判」の専門家としてコメントを求めた左派の論客たちが目くじらを立てて「伝統的子育て」批判に躍起になったのは一体何故なのでしょうか?その謎を説くカギの一つが、ラインバーガー文書に基づき、佐瀬隆夫著『アメリカの心理戦と象徴天皇制』(教育評論社)に示唆されています。

●「伝統的子育て」批判の歴史的背景
 ゴーラー・ベネディクト・ミードの同僚であったラインバーガー米陸軍省軍事情報部心理戦争課極東班長が1942年に作成した「日本計画」という対日心理戦略のベースになったのは、英社会人類学者のジェフリー・ゴーラ―と彼の論文「日本人の性格構造とプロパガンダ」「日本文化におけるいくつかのテーマ」に基づいて『菊と刀』を出版したルース・ベネディクト、この二人と深い関係にあったマーガレット・ミードの研究でした。
 このゴーラー論文はアメリカの『タイム』誌に「ジャップはなぜジャップなのか」という見出しで、要約されました。ゴーラーは日本人の国民性には矛盾する二面性があるとし、その根底に乳幼児期の厳しい用便の躾(トイレット・トレーニング)があると結論づけました。
 ジョン・ダワーはこのゴーラー論文をアメリカで戦時中に発表された「唯一最大の影響力ある学問的分析」と高く評価し、加藤哲郎も「ベネディクトらに大きな影響を与え、米戦時情報局の広報的宣伝(ホワイト・プロパガンダ)の「バイブルになった」と評しています。

●ベネディクト文書から墨塗り削除された「プロパガンダ」の中身
 ラインバーガーが立案した「日本計画」に活用されたゴーラー論文の第3章の「プロパガンダ」の「最も見込みのある方法」として列挙された4つの不満グループの中に「リベラルな知識人」「労働者グループ」等を利用することが含まれていました。「伝統的子育て」を批判し続けてきた「リベラルな知識人」たちは、絶対に認めたくないでしょうが、WGIPを継承し、拡大再生産させる明確な「心理戦略」の延長線上にあることは否定できない厳然たる歴史的事実なのです。
 ちなみに、ベネディクトは1944年6月に米戦時情報局の外国戦意分析課の主任アナリストをゴーラーの指名により彼から引き継いでいます。この二人と密接な関係にあったミード(ベネディクトのコロンビア大学の教え子)が中心的役割を務めた太平洋問題調査会のニューヨーク会議(1944年12月16、17日)において「日本人の国民性」論議が行われ、日本人兵士と2日間の討議を踏まえて、「日本人とアメリカの不良少年の性格構造の共通点」が28項目にまとめられました(拙著『日本が二度と立ち上がれないようにアメリカが占領期に行ったこと』致知出版社、46-47頁参照)
 その中には、「全世界と交戦状態にあるという感覚を常に持つ」「よそ者は、みな軽蔑の対象である」「非情である。それは、皆が何らかの抗争になる危険を抱えるか、敵が馬鹿なやつだからである」「不良少年は、無敵であるという未熟な感覚がある」「外界の善意に不信になる」「常に大きな勝負、大きなことをする。つまり、つまらない悪を探し求める」「身体的剛勇さを高く評価する。つまり臆病なのだ」「他人の、あるいは自分自身の命を極端に粗末にする」「外部の世界は悪である」などが含まれているが、これが著名な専門家や戦後計画を立案する政府関係者など40人を超す会議の結論とは、開いた口がふさがりません。

●教師指導用マニュアルに盛り込まれたWGIP
 しかし、こうした「日本人の国民性」に対する偏見が対日占領政策のベースとなり、WGIP(戦争贖罪意識を日本人に刷り込む情報宣伝計画)の一環として、昭和21年の文部省の教師指導用マニュアル「新教育指針」として全国の学校に配布され、全国の教師の「バイブル」となったのです。
 同指針の「序論」には、「どうしてこのような状態になったのか」という見出しで、「日本人のものの考え方そのものに多くの弱点があるからである。国民全体がこの点を深く反省する必要がある」として、日本国民の「欠点、弱点」として「封建的といわれるような生活」「人間性・人格・個性を十分に尊重しない」「批判的精神にとぼしく権威に盲従しやすい」「合理的精神にとぼしく科学的水準が低い」「ひとりよがりで、おおらかな態度が少ない」を挙げ、「戦争の責任は国民全体が負うべきであり、国民は世界に向かって深くその罪を謝するところがなければならない」と述べ、国民性を戦争責任につなげて贖罪意識を持たせることを強調した点に注目する必要があります。
 同指針を作成した文部省の石山修平の日記「留魂録」によれば、序論を初めとして「3分の1はアメリカ側に書けといわれたそのままを書き」、話し合って書いた部分もアメリカの言うとおりに次々に書き直しをさせられ、「心すこぶる暗し」との不満を随所で漏らしています。

●「友好的な日本人」に働きかけたWGIPの今日的影響
 そして、日本の伝統精神に批判的な日本人を「友好的な日本人」としてリストアップしたキーパーソンに、占領開始とともに頻繁に接触し、「日本人民の歴史」というラジオ番組を作らせ、その中心人物たちが歴史教育者協議会を結成して今日の高大歴史教育研究会へと発展しているのです。日本占領後にWGIPを継承し拡大再生産するリーダーや組織(日教組や労働組合等)を育てたことが、WGIPの今日的影響として色濃く残っているのです。
 吉田松陰、坂本龍馬、高杉晋作、「シベリア出兵」等の歴史用語の削減案を発表して批判を浴びた「高大連携歴史教育研究会」の油井大三郎会長は、『未完の占領改革』において、「占領改革の成果を守り、発展させる課題」は、「日本人の双肩にかかっている」と結論づけ、私の研究を批判しています。
 また、同研究会副会長の君島和彦東京学芸大名誉教授は、朝鮮日報のインタビューで「竹島は韓国領だという主張が正しい」と答えた反日学者です。伊藤隆東大名誉教授は、「従軍慰安婦」「南京大虐殺」等「日本軍の加害性を強調する」「日本を悪球にする特定史観の印象を受ける」と彼らを厳しく批判していますが、日本の歴史学会・歴史教育の「ガラパゴス化」はかなり深刻です。油井会長が委員になっている中央教育審議会や教科用図書検定調査審議会、教科書調査官など、文科省の屋台骨が侵食されつつあります。
 親学の「伝統的子育て」批判に躍起になっている研究者、活動家(過激派団体を含む)、マスコミ関係者たちの思想的背景には、こうした日本の「伝統的子育て」に対する不当なイデオロギーや反発が潜んでいることは明らかでしょう。もちろん彼らは自覚していないでしょうが、知らず識らずの内にマインドコントロールされているのです。これは決して陰謀論ではありません。親学の組織的妨害活動もWGIPと決して無縁ではないのです。

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