英国教育省の「新しい性教育指針」の注目点

 5月11日付拙稿「英のLGBT教育の混乱の首相の懸念表明」で詳述したように、英保守系シンクタンクが発表した報告書によれば、中学校の28%が男女別のトイレを維持しておらず、19%が男女別の更衣室を維持していない。
 「子供の幸福よりも性自認の信念を優先」する「ジェンダーイデオロギーが中学校全体に広まり」「党派的な信念が教育制度に定着するのを許すことによって子供たちを失望させた」という。
 イギリスでは学校での性教育をめぐって「進歩派」と「伝統派」の深刻な対立が続いており、労働党と保守党との政治的対立とも重なって、メディアを巻き込んで熾烈な論争が繰り広げられ、学校での性教育に対して「親が子供を退席させる権利」が認められた。
 
 教育省発行の『新しい性教育指針』には、「親・保護者及び周辺地域との協働」「身体的健康と精神的ウェルビーイング」について明記している。2019年にすべての初等学校に「人間関係の教育」の実施を義務付け、同指針において、次のように明記している。

「初等学校においては教育内容の詳細について遅くとも最終学年までに保護者の意見を聞いておくようにする」「親との話し合いに備えては、年齢に適した性教育の段階別プログラムを作成しておくことが必要となる。そして実際に教える場合には、子供の発達上の違いを考慮する必要がある」「初等教育の公費維持学校が性教育を教える場合には、学校作成ポリシーにそのことを明記しておかなければならない。また、扱う内容についてはどの学校も親と協議しなければならない。初等学校が性教育の実施を選択する場合には、親に与えられている子供を退席させる権利を認めなければならない」「小学校では、親がナショナル・カリキュラムの科学の領域を超える性教育から子供を退席させる意向を持つ場合、校長はそれに従わなければならない」「学校は退席させる権利について親と話し合うことが望ましい。学校はまた、生徒の年齢や宗教的背景を考慮して、教育方法と教材が適切であることを確認しておく必要がある

 また、中等学校の「人間関係と性の教育」について同指針は次のように述べている。

「効果的な『人間関係と性の教育』は早期の性的行動を招来するものではない」「若者が成熟し、自信と自尊心を獲得し、性行為を遅らせる理由を理解することを可能にする」「自分の精神的幸福と自尊心にとって、健全な人間関係を持つことが有益なのだと理解できるようになってほしい」「不健康な人間関係が、精神的な健康に永続的で否定的な影響を与える可能性についても知ってほしい」「個人のレジリエンス(困難をしなやかに乗り越える精神的回復力)や人格を意識的に育てようとする実践の上に可能になる。信念を持って目標を達成し課題を成し遂げる人格的特徴や、自尊心と自己価値の重要性を認識することによって得られる正直さ、高潔さ、勇気、謙虚さ、優しさ、寛大さ、信頼感、正義感などの個人的特質の育成がここに含まれる」「学校は、女性性器切除によって引き起こされる身体的及び感情的な損傷にも言及すべきであり、その実行行為や補助行為のみならず女性性器切除から人を保護し得ないことも刑事犯罪であることを伝えるべきである」
 
 イギリスでは「包括的性教育」によって性転換手術をする18歳以下の子供が急増し、こうした「性教育指針」が策定されるに至ったが、LGBT理解増進法の制定によって、欧米で深刻化している同様の混乱がわが国でも起きないように留意する必要がある。
 LGBTの「正しい理解」と保護者理解、発達段階への考慮、全体指導と個別指導の区別などの性教育の「歯止め規定」を踏まえ、子供の「精神的幸福」「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」の基盤となる性道徳・性規範についても、人間関係と関連付けて教えることが大切である。


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