埼玉県「性の多様性理解増進法」と「性の多様性リーフレット」の問題点


エマニュエル米国大使の不当な内政干渉

 LGBT理解増進法案が参議院本会議で成立した。昨日開催された参議院内閣委員会の審議で注目されるのは、自民党の有村治子議員が「G7国においてLGBTに特化した法律があるか」という質問に対して、外務省は「ない」と明確に答弁。さらに有村議員がエマニュエル駐日米国大使を次のように厳しく批判したことである。

<  「全国紙の社説も米大使の言動は内政干渉だと断じ、米FOXニュースも批判的に報道」「本国で実現できていないことを声高に日本に迫る外圧、世論誘導、影響工作…日本は進化の過程にあると公言し、日本を見下し評定するような不遜な態度は、日米関係を大事にしたいと思う国民層を逆なでし、棄損し…国会運営をも愚弄するもの」「大使の執拗なまでの挑発的な言動」>

  また、 山谷えり子議員の「合理的区別は差別ではない」のかという質問に対して、新藤義孝議員は「これは4月28日の衆議院内閣委員会における政府答弁である」と明言。さらに、山谷議員の「学校現場が混乱しないか?」という質問に対して、文科省は「家庭、地域の協力を得ながら実施、心身の発達段階に応じた対応をしていく」と答弁。

滝本太郎参考人の注目すべき意見陳述

 最も興味深かったのは、自民党が推薦した滝本太郎参考人の以下の陳述である。

<「先行した国ではジェンダーアイデンティで法的性別を変更できるという制度がある。これを日本では止めなければいけない。性別、セックスと、時代と地域で異なるジェンダーとを混同してはならない
「(差別ではなく不当な差別としたことについて)活動家の一方的な差別者だ、差別主義者だという糾弾闘争、差別糾弾闘争をできにくくしたものですから、言論の自由が守られることとなり、有難い」
「(「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ」と追加した修正案に対して)これがなければ、子供が親の知らないままに性自認に食い違いがあると導かれ、やがて思春期ブロッカー、ホルモン治療、乳房切除や性別適合手術に進んでしまう危険性があった。家庭などの理解を得つつ、慎重にしていかなければいけない」
「(「民間団体の活動促進」を削除したことについて)親を排除して子供に会い、ジェンダーアイデンティのことを教育していく団体もあります。責任を負える立場でもない者が実質委託を受けてしまう可能性もある。これを削除したことは適切だった」「(指針の策定で全ての国民が安心して生活できるように修正したことについて)指針については2年間先行した国々の混乱が明白になり、イギリスでは昨年4月、正常化に舵を切り、女性や子供の安心、安全も重要であるという趣旨を入れたわけですから、とても重要な条項で有難い」

埼玉県「性の多様性理解増進条例」と町田市の条例

 同法案は自民党議員の賛成意見数が31、反対又は慎重意見数が58であったにもかかわらず、これまでの慣行に反して強引に「一任」を取り付けて採決を強行してまで急ぐ必要のないものであった。しかし、国会で成立した以上は悲憤慷慨していても仕方ないので、修正によって当初の「差別禁止法案」(令和3年与野党合意案)よりも改善され、最悪事態を回避できた点を踏まえ、今後の学校教育の懸念点について述べたい。
 最も懸念されるのは、大阪府や埼玉県など全国61の自治体に「性の多様性理解増進条例」等が制定され、「性的指向及び性自認の多様性に係る理解増進に関する取り組みを推進」「不当な差別的取扱いをしてはならない」「学校は、児童生徒に対し、性の多様性に関する理解増進のための教育又は啓発に努めなければならない」「県は性の多様性に係る理解増進のための…研修の実施その他の必要な施策を講ずるものとする」と明記されていることである。
 2月21日に上程された町田市の「性の多様性の尊重に関する条例」第7条でも、「教育に携わる者は、性の多様性に対する理解を深め、性の多様性に配慮した教育を行うよう努めるものとする」と教育者の役割について明記している。さらに第8条(権利侵害の禁止)において、「何人も、家庭、職場、学校、地域その他社会のあらゆる場面において」「性自認又は性的指向を理由とする差別的取扱い又は暴力的行為」等を行ってはならない、と定めている。

注目すべき渡辺厳太郎町田市議の反対討論

 これに対して3月29日、渡辺厳太郎議員が次のような注目すべき反対討論を行っている。
<近年、LGBT政策推進の先進国と言われてきたアメリカでは、多様性や差別禁止をといったポリティカル・コレクトネスを信奉する過激な急進リベラル派の活動により、価値観を押し付ける全体主義の様相が強まり、これに反対する国民は対峙することになり、事実、社会の分断が認識されるようになり、文化戦争とまで言われるようになり、ついにはリベラルメディアまでもが行き過ぎたLGBT運動の弊害を直視し、客観的に精査する動きが出ています。…米英では教育者による行き過ぎたジェンダー教育の影響で、たった15分の医療診断で性適合手術に踏み込み、後に取り返しのつかない状況となり、医師らが訴えられ、集団訴訟となっていることなどが諸外国では報道され、大きな社会問題になっています。行き過ぎた性教育による子供のアイデンティティ形成に混乱が生じることを懸念したアメリカの10州では、既に誤りに気が付き、幼稚園や小学校低学年での性的指向や性自認に関する教育を禁止する州法を制定していますし、むしろ最近ではLGBTQに対する反発も強まっており、2017年1月時点ですら19の州で50件を超える「反LGBTQ法」が制定されました。…理解増進を目的にしていたはずの条文が、かえって当事者に対するタブー意識を強めてしまうだけでなく、諸外国が既に気が付いた対立や分断を生じさせてしまうことが西洋諸国の先例…諸外国で発生している混乱が国内で発生した場合、現在平穏の中で生活している「そっとしておいてほしい」と考える性的少数者の当事者と国民全体を不幸にすることになります。町田市において一方的な国内の報道だけを鵜吞みにし、何の問題意識も持たず、拙速に日本とは文化的にも異なるキリスト教文化圏の失敗を、対策すら考えず模倣し、一周遅れで追随し条例化することは、もはや思考停止しているとしか考えられず一議員として到底看過できません。>

埼玉県「性の多様性リーフレット」は非科学的

 LGBT理解増進法の成立によって、各自治体の「性の多様性尊重条例」との整合性が問われることになる。埼玉県では「性の多様性リーフレット」(小学校5・6年生版、中高生版)が作成され、「こころの性(性自認)」「からだの性」「好きになる性(性的指向)」「表現する性(性表現)」の4つの「性の在り方は虹色のようなグラデーション」のチャートを示して解説している。
 小学校5・6年生からこのような西欧のジェンダーイデオロギーに基づいて考案された医学的根拠のない非科学的性知識を押し付けることは、子供と親、教師を混乱させることは不可避である。
 人形クッキーのジンジャーブレッドマンを土台にして活動家のサム・キラーマンが考案した「ジェンダーブレッド・パーソン」は、「性=男と女」という常識を打破して、性の在り方は各人によって男性性と女性性の度合いが異なることを図解で説明するために考案したものである。これに基づいて「性の在り方はグラデーション(スペクトラム)」の図解が日本の教科書にも掲載されている。
 イギリスの学校でもこの「性のグラデ―ション」のチャートを教えてきたが、こうしたジェンダーイデオロギーに基づく性教育のあり方を根本的に見直す動きが見られる。「性の多様性」を強調しながら、「性行為の多様性」を否定する教育はあり得ない。そこで、親と学校の対立が深刻化せずにはおれないのである。性道徳・性規範の解体を目指す「包括的性教育」が学校と家庭・地域社会の分断・対立をもたらすのはそれ故である。
 
 







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