民主党主導の家庭教育支援一超党派の政策課題という事実認識が欠落したマスコミ報道
●教育基本法の改正一第10条(家庭教育)
家庭教育支援法・家庭教育支援条例(10県6市で制定)と旧統一協会の関係を強調するマスコミ報道が目立つが、家庭教育支援をめぐる動きは、平成18年12月、第一次安倍政権のもとで教育基本法が改正され、第10条(家庭教育)に、「父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。」「2 国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。」と定めたことに端を発している。
教育基本法第10条において「保護者の第一義的責任」「国及び地方公共団体は…保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない」と明記されたことを踏まえて、民主党政権下で「必要な施策」の基本方向が策定されたものであり、統一教会の影響を受けたものではないことが完全に見落とされている。
●本末転倒の事実認識一超党派で進められた共通の政策課題
平成21年8月末に民主党政権となり、平成23年6月に民主党政権下で文部科学省が設置した「家庭教育支援の推進に関する検討委員会」が9回の審議を積み重ねて翌年3月に『つながりが創る豊かな家庭教育一親子が元気になる家庭教育支援を目指して一』と題する報告書が公表された。
例えば、10月28日付『週刊金曜日』の17頁に掲載されている年表「『家庭教育』をめぐる国、自治体、宗教右派、『親学』の動き」(作成・山口智美、編集部)には、この民主党政権下の同報告書が公表された時期までの動向がすっぽり抜け落ちているのは一体何故なのか?
旧統一教会のみならず、自民党と宗教右派の影響を誇張し、民主党政権下で積極的に推進され、専門家の審議に基づいて策定された家庭教育支援の動向を無視することは、事実の歪曲であり、フェアな姿勢とは言えない。本末転倒の事実認識と指摘せざるを得ない。
平成24年4月に発足した「家庭教育支援議員連盟」(親学推進議員連盟)は、民主党政権下で積み上げられてきた家庭教育支援策を踏まえて、共産党と社民党以外が超党派で「家庭教育支援」という党利党略を越えた時代の要請に応える共通の政策課題について検討し、まず文科省から同報告書についてヒアリングしたことがベースになっている点を見落としてはならない。
「社会の宝」として子供を育てる家庭教育支援策を最も熱心に強調したのは、公明党の池坊保子議員であり、家庭教育支援法制定の必要性を公明新聞で訴えたのも同議員であった。私の原稿も公明新聞に連載され、みんなの党、たちあがれ日本も賛同して連携した。
●「家庭教育支援の推進に関する検討委員会」報告書がベース
同検討委員会報告書は、「Ⅰ 家庭教育をめぐる現状と課題」において、家庭環境の多様化や地域社会の変化、家庭教育が困難になっている社会の動向を踏まえて、多様な世代が関わり合う社会で、子供の育ちを支援すると述べ、「Ⅱ 家庭教育支援のあり方」の「基本的な方向性」として、「親の主体性を尊重し、支援の循環を生み出す」という視点から、「親の育ちを応援」し、「発達段階に応じたかかわり方についての学習が必要」と明記した。
また、「Ⅲ 家庭教育支援の方策」として、多様な場における「親の育ちを応援する学びの機会の充実」「将来親になる中高生の子育て理解学習の推進」「地域人材による家庭教育支援チーム型支援の普及」「人材育成と社会全体の子育て理解の促進」等を挙げ、「家庭教育支援チームによる仕組みづくり」に力を入れた。
ちなみに、同検討委員会は白梅学園大学の汐見稔幸学長が座長を務め、「子どもの生活習慣づくり支援分科会」委員には、脳科学の専門家である東北大学の川島隆太教授や三池輝久兵庫県立総合リハビリテーションセンター中央病院子どもの睡眠と発達医療センター長なども含まれていた。
●報告書が強調した「発達資産」一「価値観の強制」から「発達の保障」への転換
同報告書には具体的には一体どのような「家庭教育支援」策が盛り込まれていたのか。まず「はじめに」において、家庭教育支援の取組は昭和30年代からの家庭教育学級に始まり、社会教育関係者の努力とともに、子育て支援団体や支援者の方々の高い意欲に支えられ、全国各地で実施されてきたこと、文科省では、家庭教育を支援する人材の養成や「家庭教育支援チーム」の組織化による相談対応や「学習機会の提供」「早寝早起き朝ごはん国民運動」等の家庭教育支援策を展開してきたことを明らかにしている。
また、東日本大震災という難局に直面したことにより、「家庭教育支援の取組においても、『親子の育ちの応援』のために多様な主体の力を結集していくことの大切さが、今私たちに共有されつつある」「親の育ちを応援する学びの機会の充実」「家庭教育支援は、親が元気になるための支援」と明記している。
「親の育ちを応援する学びの機会の充実」を提唱したのは、民主党政権下の同報告書であり、そのキーワードとして強調したのが、「発達資産」「発達力」という概念である。同報告書47頁の説明によれば、「発達資産」とは「子どもの社会化(社会の一員としての成長)」にとって獲得することが望ましい具体的、常識的な経験及び資質であり、「発達力」とは、子供が「発達資産」を自ら獲得し、積み上げていこうとする力、またその結果得られた力であるという。
もともと「発達資産」とは、米ミネソタ州ミネアポリスにあるサーチ研究所が提唱した概念で、子供の発達段階に応じて身につけることが期待される、また獲得することが望ましい事柄を意味している。
同検討会はこの子供の発達段階に関する科学的知見に基づく家庭教育支援が重要と考え、「家庭教育支援のあり方」の「基本的な方向性」の第一に、「親の育ちを応援する」施策を掲げ、「発達段階に応じた子どものかかわり方についての学習が必要です」「親の親としての学びや育ちを応援することが、家庭教育支援の基本です」「親自身の人間としての成長を支えていくことが重要です」と同報告書13頁に明記している。
さらに、「国の役割」は「家庭教育支援の基本的な方向性を示す」「家庭教育支援の必要性や社会全体の子育て理解を促すための全国的な普及啓発を行っていく」ことであり、「地方自治体の役割」は「地域の家庭教育支援の取組を活性化するための仕組みを整備すること」であると明記(22-23頁)している。
●同検討委員会と連携して推進された「子ども子育て新システム検討会議」
また、同報告書は民主党政権下で推進された「子ども子育て新システム」の家庭教育支援強化策の方向性と軌を一にしていると明記している。「子ども子育て新システム」は、平成22年1月29日の民主党政権下の「少子化対策会議」の決定に基づき、4回の「同検討会議」の審議と15回の「作業グループ」会議、6回の各団体からの意見発表を踏まえて、平成24年3月2日の第4回検討会議で「同システムに関する基本制度(案)」が公表された。
同日に発表された「子ども子育て新システム法案骨子」によれば、「市町村、都道府県、国の役割」として、「子ども子育て家庭を社会全体で支えるため、市町村(基礎自治体)が制度を実施し、国・都道府県等が制度の実施を重層的に支える仕組みを構築する」と明記し、「子ども子育て支援事業」として、同事業の対象範囲、地域子育て支援事業などの具体的な支援策を示している。
同作業グループのヒアリングには、6名の有識者と以下の関係団体が参加している。まず、保護者関係として、保育園を考える親の会代表、保育関係団体として、全国私立保育園連盟、全国保育協議会、全国認定こども園協会、日本保育協会、幼稚園関係団体として、全日本私立幼稚園連合会、全国国公立幼稚園長会、さらに、地域子育て支援や民間保育事業者、労使関係団体、全国知事会・市長会・町村会などが意見発表を行っている。
前述した「家庭教育支援の推進に関する検討委員会」は同時並行で進められ、どちらも平成24年3月に終了している。「子ども・子育て新システム検討会議」は内閣府、「家庭教育支援の推進に関する検討委員会」は文部科学省が管轄したが、民主党政権下の同時期に終了していることからもわかるように、連携して推進されたものであり、有識者と関係団体の幅広い意見を集約したものといえる。
●「親としての学び」「親になるための学び」の提唱
地方自治体の家庭教育支援条例に共通している「親としての学び」「親になるための学び」は親学推進協会や旧統一教会が提唱したものではない。「親としての学び」については前述したが、同検討委員会報告書は、「親になるための学び」についても、「将来親になる中高生の子育て理解学習の推進」と題して、次のように述べている。
「中高生など将来親になる世代が親になることについて学ぶことできるよう、学校に乳幼児とその親を招いて触れ合う活動をしたり、子育て広場等に中高生が訪問し、乳幼児と触れ合う活動をするなど、子どもが育つ環境としての家族の役割や、子どもを生み育てることの意義などについて学ぶ機会の提供を積極的に図る必要性があります。」(17頁)
このように全国の地方自治体に広がっている家庭教育条例に共通している「親としての学び」「親になるための学び」は、民主党政権下で推進された家庭教育支援策と軌を一にしており、家庭教育支援法の「基本的な方向性」についても一定の共通理解があったから「家庭教育支援議員連盟」が超党派で結成されるに至ったのである。
●不当な印象操作と事実の歪曲を慎め
家庭教育に関する「価値観の強制」「行政の私事への不当介入」という従来の固定観念から脱却して、子供の「発達資産」「発達力」を保障するという普遍的観点に転換し、子供の発達段階に応じた親の関わり方に関する科学的知見に基づいた「親としての学び」「親になるための学び」の必要性を強調したのは、教育基本法改正を踏まえた民主党政権下の同検討委員会報告書であり、統一教会の影響を受けたものでないことは明白である。
旧統一教会はこの家庭教育支援策に賛同し部分的に協力したが、家庭教育支援の基本的方向を決めたのは同報告書であり、この事実から目を背けて、普遍的な家庭教育支援に不当なレッテル張りをし、家庭教育支援策の歴史的経緯に関する客観的な検証をしないで、旧統一教会の陰謀のような不当な印象操作と事実の歪曲を行うことは慎むべきである。子ども庁の名称に家庭が追加され「こども家庭庁」になったのは旧統一教会の影響というのも事実に反するトンデモ説にすぎない。
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