ポンコツハケンとスーパーハッカー⑤
「オジサンが及川逸郎?」
そう言ってから「さん」くらい付けたほうが良かったかな?と思った。何しろ生きた中年のオッサンと話したことなどほとんどないのだから、多少間違っていたとしても仕方あるまい。
オジサンでいいよな、35歳だし。35歳にしては、ちょっと老けてるかな、でも健康に問題はなさそうだな。
「君、どうして名前知ってるの?」
及川逸郎は不審そうに僕を見てそう言った。しかし僕は無視して話し続けた。
「あなたのクレジットカードが不正使用されてますね。投資教材のサブスクで毎月300円引かれてます。」
「それとマイナンバーカードは誰か他人の保険証と紐づいてますね。病気のおじいちゃんの保険証とね。市役所に行って直してもらった方がいいよ。」
及川逸郎はますます怪訝な顔付きになったが、僕は構わず話し続ける。
「サブスクの方はねぇ、クレジットカード明細あまり見てないだろうリストっていうのがあってさ、どこかの悪徳業者がそのリスト使って自分ところの商材を買わせる手口なんだよね。微妙に少額だから、明細見なきゃわからない。クレジットカードの情報をネットに流したことあるでしょ?」
「流れてきたクレジットカード情報からの明細データを全部抜いて、いろんなリスト作ってるよ。高額商品購入者とか、マニアックな商品の購入者とか。情報抜くのはやり手のハッカーじゃないとできないね、クレジットカード会社って、結構セキュリティ厳しいから。」
「明細見ない人リスト、実際に半分以上が全然明細を見ない人だから、少額でも結構集金できるんだよね。利用者が明細見てクレーム入れてきたら、利用履歴から適当なこと言って、お詫び料金込みで返金するんだ。そうすると大体クレームは収まるんだな、これが。」
「それとマイナンバーカードの方はね、これが全然単純な話で、保険証登録するときに、ログアウトしないまま登録して前の人のIDカードと紐づいちゃったわけ。ものぐさ役人が派遣会社に丸投げして、実際には派遣社員がパソコンで適当に登録するから、そういうことが起きたわけだね。ほら、派遣社員ってポンコツじゃん。」
ここで、及川逸郎は口を開いた。
「俺もその派遣社員さ、ポンコツのね。」
「そうそう、あなたがポンコツだったおかげで、とても助かってますわ。今日はその御礼がしたくてここに参上したってわけ。」
「及川さん、B社でパソコンの設定してたことあるよね。その時1台設定飛ばしたでしょ?」
及川逸郎はビックリしたような表情をした。
飛ばしたこと気づいてたんだ。
「その失敗作を僕が使ってま〜す。とても快適で〜す。」