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運命の恋

自宅から車で一時間半のシティホテル。リフレッシュのはずの宿泊だった。別館最上階に露天風呂と大浴場があり街の景色が一望できるのが自慢のホテル。時折り、わたしはわざわざ休暇をとっては、ここで一泊二日を過ごすのが、唯一の楽しみだった。

フロントで宿泊者カードに住所と名前の手続きサインをしてルームキーを受け取る。
振り向くと背の高いスーツ姿の男性が居た。
目と目が合った。
初めて顔を合わせたにもかかわらず男性は言った「逢えたね」
わたしも釣られるようにうなずいた。
次の瞬間、受付のフロントマンの事もロビーに居合わせた人々が驚愕している事もお構いなしに、男性とわたしは抱きしめ合ってくちづけを交わしていた。そんな大胆な行動をとってしまったのは何故なのか、いわゆる五感を超えた第六感というのが働いたのであろう。

よく見ると男性は大きな荷物を持っていた。
「僕は佐藤俊也と申します」と言った。
職業はカメラマンで、きょうはマスコミ関係の人たちと会議だったのだと自己紹介をしてくれた。

「四季の海と川それに山々を写したものを持っているので、部屋で僕の写真を観てみませんか」とやわらかな微笑みをたたえながら男性は言うが、そこにはノーとは言わせないよ、といった強い眼差しがあった。わたしは「部屋に荷物を置いて、着替えたいのです。展望風呂にも入りたいですし」と答えた。

佐藤俊也と名乗る男性は胸ポケットから名刺とペンを取り出して自分の部屋番号をそれの裏側に走り書きするとわたしに手渡して言った。「ひと段落してから来てくださっていいですよ」

荷物を自室に置いて露天風呂で入浴したあと着替え終えたわたしは、深呼吸こそしたものの迷いはなく、あの男性の部屋をノックした。

その人、佐藤俊也は「やあ、待ってたよ」とまるで10年来の知り合いのように屈託なく親しげな口調で歓迎の意を見せた。
部屋の隅にはヴィトンのスーツケースと機材らしき物がむき出しになっていた。
そして、その機材を組み立て始めた。「それ、なんですか」とわたしが訊くと、楽しみにしていてねと二度目のくちづけをした。

プロジェクターが目の前に出来上がった。それにパソコンを繋ぐと「写真、じっくりと観てほしくて」と簡易スクリーンに写真を映し出した。

プロカメラマンが撮ったものなのだから、その写真の数々は美しいに決まってはいるが、見事としかいいようのないものばかりだった。
気がつくとわたしの瞳からは涙がこぼれていた。
写真は感情を揺さぶるような作品たちだったからだ。

わたしの涙にちょっと驚き照れくさそうにしながらも俊也はウインクをして三度目のくちづけをくれた。
「写真ってこんなに感動するものなのね」と言ったわたしに、彼は喜んでもらえて良かったとルームサービスを頼んでくれたので部屋内で二人だけで食事をした。

そのあと俊也は「少しだけ待っていて、シャワーを浴びたい」と部屋の備え付けのバスルームに消えた。
ここでわたしはきっと自室に戻るのが常識なのだろう。ところがその夜そのまま、わたしは自室には戻らなかった。

俊也は、ためらいがちにわたしのキャミソールの紐に手を掛けながら訊いてきた。「いいの?」

返事をする代わりにわたしのほうから彼に何度目かのくちづけを返した。
そのあと静かにふたりのシルエットはひとつに重なり合い、恋が始まった。


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※プライバシー保護のため、男性の名前だけ仮称とさせていただきました※

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