001.生い立ち

私は、サラリーマン家庭の次女として生まれた。

ただ、母と父は、私が3歳の時に離婚をしたので、実の家族と暮らした記憶は一切ない。

当時は、離婚理由も分かっていなかったが
「定職についても、すぐにケンカをして仕事を辞めてしまったり。
欲しい!と思ったらレンタルなどは嫌で絶対その物を絶対に手にしないと気が済まない。そんな父が嫌だった」
と母は後に教えてくれた。

姉は、私より10歳年上。当時中学生だった。
私は、母に引き取られ。
姉は、自分の意志で「お父さんが一人になったら可哀想だ」と父の元に残った。

父と母は、離婚後も仲が悪いわけでは無く、たびたび会っていた。

離婚なんて言葉も知らなかった。
「お父さん」と呼んでいるけど、母には「親戚のおじさん」と教えられていた。

無知で子供の私には、親の話が全て真実だと疑う事なんかしなかった。

「なんで、お姉ちゃんは親戚のおじさんの家にいるの?」と聞いても
「おじさんは一人暮らしで、寂しいからお姉ちゃんを頂戴って言ったの。
だから、可哀想だったから、お姉ちゃんをあげたのよ」
と母は答え。

今聞けば「そんなバカな話があるか!ww」と思う所だが・・
5歳児の頭では「ふ~ん」で終わってしまう。

何も理解出来ない子供だったが、それでも私は実父の事が大好きだった。

私が7歳の時。母は再婚した。
再婚相手の義父は、自営業をしていた。

子供の私が起きる時間はまだ寝ており、私が寝た後に帰って来る。
なので、あまり思い出は無い。

夏休みなどの長期休暇に旅行に行くと、義父に母を取られた気持ちでいっぱいだった。

「新しいお父さん、好きじゃない!」そう母に言った事もあった。
母は困った顔をしたが、何も言わなかった。

義父は、特別私を可愛がってくれる訳では無かったが、お金だけは出してくれたと母は言う。
我が家にあったピアノも、私が欲しいと言った玩具も。
買い与えてはくれたが、遊んでくれた事は無い。

再婚した後でも、母は義父には隠れて、実父と会っていた。
月に1回程度、土日の昼に私を連れて、喫茶店に行き、そこで実父と会う。

姉が来るときもあったが、年頃だったせいもあるだろう。
10回に1回ぐらいしか、来てはくれなかった。

喫茶店で他愛も無い話をして、実父に肩車してもらい、近所のデパートで買い物をするのがほとんどだったが。
日帰りで、動物園や、遊園地に連れて行ったりしてくれる日もあった。

もちろんその後は、義父との家に帰るのだけど・・。

実父との思い出は沢山ある。
義父との思い出は一切無い。
大人になった今でも
「悪い人ではないと思うけど、どんな人かは良く分からない」
そう思っている。

そして更に人生の歯車が大きく動いたのは、忘れもしない。
1993年10月2日、私が10歳の時。

その日は土曜日で、学校はお昼までだった。
学校から帰り、玄関をあけるとすぐさま家の電話が鳴った。

電話に出ると、相手は母だった。
「部屋に段ボールを置いてあるでしょ?
それに今すぐ学校に必要な物を詰め込みなさい!分かったわね!?」

と早口に捲くし立てられた。
今思い返せば【ただ事じゃない】と言うのは分かるが、当時の私は
「分かったー」
と能天気に返事をして電話を切った。

その日は毎月楽しみにしている、漫画の発売日だったから。
荷物をまとめることもせず、私はすぐさま近所のお店に漫画を買いに出かけ、すぐ家には戻ったが、母に言われた事なんかすっかり忘れて、漫画に夢中になっていた。

1時間ほどたっただろうか?
母が帰ってきた。
母は、義父の会社で事務をしており、夕方に帰って来る。
なのに昼過ぎに帰って来たのだ。

玄関に「お帰り~」と母を出迎えに行くと
私を見て母は、すぐさま「荷物まとめた!?」と言葉を発した。

もちろん私の頭は「しまった!すっかり忘れてた!」だった。
だけど、10歳にもなれば、言い訳もする「い・・今からやるところ」と。

その瞬間、母が思いっきり私を怒鳴った。
「今すぐやりなさいって言ったでしょ!!なんでやってないの!?
ほら!!早く学校に必要な物全部まとめなさい!!!」
と。

いきなり、怒鳴りつけられ・・私は半べそで部屋へ走り。
ほんの数時間前まで背負っていたランドセルを、段ボールに入れた。

「学校にいるもの・・学校にいるもの・・」考えながら教科書などが入っている引き出しを開けたが、中は空っぽだった。

「あれ?なんで??」

不思議に思いつつも、母に怒鳴られたばかりで、とにかく学校にいるものを詰め込まなきゃ!と必死に考える。

「えっと・・えっと・・あ!体操服!」

体操服を出そうとタンスを開けて、目を見開いた。
タンスの中が空っぽだったのだ。

あちこちを開けてみたが、私の部屋の荷物のほとんどが、タンスや引き出しから消えていた。

学校で必要な物を段ボールに入れなさい。と言われたが、私の物が見当たらない。
あるのは、タンスそのもの、ベッドそのもの、学習机そのもの・・。
中は、全部空っぽ。

考えても、もう何もない。そう思い、母の元に行った。

「荷物入れたの?」
母は、そういいながら、自分の荷物を大きなボストンバッグに詰めていた。

「体操服とか、私の服が全部無い・・」
困って言う私に
「大丈夫、全部お母さんがその辺は片付けたから。
家の外には?絵の具のバケツ洗ってそのままじゃない?」


その言葉に、家の外へ行きバケツを手にして、立ち尽くした。

「何か大変な事が起きてるのでは?」
そう思った。

絵の具のバケツをもって家に入ると、私の段ボールを母が玄関にもって来ていた。
その中にバケツを入れる。

ボストンバッグを持って玄関に来た母に
「忘れ物は無い?」
そう聞かれたけれど。

分かるわけもない。
だって自分の物が、何も無かったんだから。
何うぃ忘れているのか、何が起こっているのか。

さっぱり分からない。

ただ、母の機嫌が悪い事だけは分かったので
「ない」と答えることにした。


つづく...


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