その「デザイン」、どういう意味で使っていますか? 〜デザインの言葉の広がりを俯瞰する〜
こんにちは。デザイナーの高橋拓也です。
前回の記事の中で、
「デザイン」という言葉に対する人々の認識の曖昧さ、期待値のズレ
について触れました。
人によってその定義や期待する役割が異なっているにも関わらず、みな当たり前に「デザイン」という言葉を使うため、仕事に関わる人々のあいだで認識がズレていき、ハレーションが起きたりデザインが有効に活用されないことが度々起きてしまう、という問題です。
noteでも、非常に多くのデザイン記事が投稿されていますが、それぞれの記事が指すデザインの意味合いや範囲は実に様々です。
それなのに、ただ「デザイン」と書かれていることがほとんどなので、文脈からその「デザイン」が指す意味合いを想像した上で読まなくてはなりません。デザイン記事の読者の多くはデザイナーのため、それが自然とできてしまう方が多いですが、これからデザインを学びたい方、デザインについての知識を深めたいノンデザイナーにとっては「結局デザインってなんなんだ?」と首をひねることもあるのではないでしょうか。
そこで、今回は僕なりにデザインの意味(定義)についてまとめていきたいと思います。
ただし、「デザインとは〇〇である」と簡単にまとめたりしません。
というより、できません。なぜなら、〇〇はデザインという言葉を使う人の数だけ存在しているから。僕が声を上げてデザインとはこうだと定義したところで、実際に世間が明日からその定義通りに言葉を使うなんてことはありません。
重要なのは、より多くの人が「デザイン」という言葉の多様性や可能性を知ることで、デザインに関わる人同士が「デザイン」をどう使うかを考え、理解し合うことだと思います。
なので、ここからは「デザイン」を様々な軸から切り分けながら、その様々な側面をご紹介したいと思います。
(前置きだけでデザインと言いすぎてゲシュタルト崩壊してきました)
広義のデザイン、狭義のデザイン
まずは、デザインの定義の話になるとたいてい出てくる「広義」と「狭義」の話です。
一般的によくイメージされるデザインは、モノの「見た目」をつくる行為を指します。これが「狭義のデザイン」です。
例えばファッションデザイナーなら、おしゃれな服の形や色を考える人、といったイメージが浮かぶと思います。
しかし、実際のお仕事としてのデザインとなると、考えなくてはいけない範囲はとても広くなります。服をデザインするとしたら、実際に人が着る製品として成り立たなくてはいけません。どんな人が着るの?着る場面は?どんな素材を使う?どんな工程で製造する?コストは?などなど、現実的なモノとしてその見た目を成立させるためには実にいろいろなことを考慮する必要があります。
すると自然と、デザイナーは見た目だけではなく、その背後にある企画・計画・設計といった行為も含めて行う必要が出てきます。
これが「広義のデザイン」です。
何かしらの目的や条件に沿ってモノの形づくるための設計行為とでも言えるでしょうか。
しかし、こう考えると、そもそものデザイン上の目的や条件などを考えることもデザイン上重要ですよね。
例えば、最近よく耳にする「UXデザイン」は直訳すると「ユーザー体験のデザイン」。ある製品やサービスのユーザー(使用者)が、その製品やサービスとの関わりの中でどのような体験を得られることが望ましいか?を考え、そのための仕組みを設計していきます。
するとデザインはもはや物理的な形を超えて、仕組みや概念、考え方といった目に見えないものを扱う行為をも含んで来ます。
仮にこれを「超広義のデザイン」としましょう。
一方で、狭義のデザインがモノの見た目をつくる行為だとすると、一般的にデザインとしてイメージされる「かっこいい」「おしゃれ」な見た目は、デザインの一つの側面でしかない、とも考えられます。
例えば、必要な機能をできるだけ使いやすく低コストに実現するための見た目を考えようとすると、必ずしも最高にカッコいいデザインとはならない場合もあります。(もちろん可能な範囲で最高のカッコよさを追求しますが…)現実的なデザインの仕事は、モノに求められる様々な要件に折り合いをつけて、最も良い「落とし所」に収める感覚に近い気がします。
すると、カッコよさやおしゃれさ(=審美性)を高める行為に限定する場合は「超狭義のデザイン」と言えるかもしれません。
まとめると、下記のような軸が見えてきます。
超狭義のデザイン:モノの審美性を高める行為
狭義のデザイン :目的や条件に沿ったモノの形をつくる行為
広義のデザイン :モノの形づくるための企画・計画行為
超広義のデザイン:仕組みや概念、考えをかたちづくる行為
世の中で使われているデザインに関する言葉を当てはめるとすると、
超狭義のデザイン:
「デザイン家電」「デザインと機能性を両立」「デザイナーズマンション」
狭義のデザイン:
「UIデザイン」「ロゴデザイン」「デザインシステム」
広義のデザイン:
「クリエイティブディレクション」「商品デザイン」「CIデザイン」
超広義のデザイン:
「UXデザイン」「サービスデザイン」「デザイン思考」
などが挙げられるでしょう。
※ちなみに、「超狭義」「超広義」はあえて細かく分類しているだけなので、普通は「狭義」と「広義」に含んで使われます。
誤解しないよう気をつけたいのは、狭義/広義に優劣はないことです。
デザイン史においては高い造形能力や表現力を持つデザイナーが狭義のデザイン領域において活躍した時代が長く、広義のデザインはITの発展に伴い近年注目されるようになった領域です。そのため、狭義のデザイナーが広義のデザイナーに劣るかのような論調も見られますが、僕はどちらもそれぞれ役割や意味があり、それぞれにしか提供できない価値があると思います。
長い鍛錬や才覚によって磨かれた職人的技術や感性で表現されるデザインが、その強い魅力で人々を惹きつけることに変わりはありません。
マーケティングや経営戦略などの広範なビジネスの知見、地道な観察や試行錯誤、抽象的な概念を言語化する思考力など、広義のデザインをカバーするには非常に多くの経験やスキルを複合させる必要があります。
参考記事:
今こそ「デザイン」と「デザインシンキング」の対立に終止符を──Takram田川欣哉さん×Goodpatch土屋尚史さん
https://www.cultibase.jp/articles/7825
重要なのは、デザインの持つ多様な側面を理解し、デザインやデザイナーの役割を都度考え、定義することです。
デザイン意味が広がっている今、デザインの担い手はこれまで考えられていたデザイナーだけに留まらなくなってきています。デザイナーとノンデザイナーの境界は曖昧になり、プロジェクトに関わるすべての人が役割分担しながらデザインに関わっていくケースもあり得るでしょう。
そうしたプロジェクトを成功させるためには、それぞれが自分の職能にとらわれず、異なる領域への探究心を持ってリスペクトし合う姿勢が大事です。
コミュニケーションのデザイン、コンテンツのデザイン
デザインの意味の広がりを俯瞰する上で、もう一つの軸として考えたのが、「そのデザインは何をかたちづくっているか」です。デザインはモノであれコトであれ、なんらかのかたちをつくることに関わる行為です。
この軸では、その対象をおおざっぱに「コミュニケーション」か「コンテンツ」かで分類してみたいと思います。
デザインのスキルの中でも、最も歴史が深く普遍的なものに「グラフィックデザイン」があります。ロゴのデザイン、ポスターやチラシのデザイン、本のデザイン、イラストや写真、文字、時間を持った映像やモーション、ピクトグラム、アプリのUIまで、広くはグラフィックデザインの一部と言えるでしょう。
これらはすべて、情報伝達(=コミュニケーション)を目的としています。想いや感情、出来事、メッセージなど、抽象的なものから具体的なものまで、人は大昔から何らかの意味をかたちに託して、受け手に伝えてきました。
特にレイアウトの技術は、情報を構造化し、正しく効率よく相手に伝える上で絶大な効果を発揮します。また、配色とかたちのニュアンス、様式やモチーフといった文化を背景とする意味付けは、単なる情報に印象やイメージといった受け手の感情にも作用する世界観を醸成するテクニックとして研究が重ねられてきました。
また、コミュニケーションをこうしたビジュアルを媒介とした情報伝達に留まらず、より広義のデザイン行為として捉えていくと、会議やイベント、ワークショップといったコミュニケーションの場の設計、ファシリテーションなどにも広がっていきます。
こうした人々の意思疎通や交流に関わる情報伝達のデザインをまとめると「コミュニケーションのデザイン」と呼べると思います。
普遍的なデザインとしてグラフィックデザインと双璧なすのが「プロダクトデザイン」です。プロダクト=工業製品の意味ですが、その歴史を遡ると、人類史上初めてデザインされた道具である「石器」に辿り着くと言われます。人はそれほど昔から、何らかの目的を持ってモノのかたちをコントロールし、「道具」という手段を生み出してきました。目的達成のための機能性(スペック)、使いやすさ(ユーザビリティ)、満足度(UX)に磨きをかけ、「道具」としての価値を高めてきました。
現在僕らの身の回りを囲む様々な工業製品(口紅から機関車まで)をはじめ、人が暮らす空間やインテリア、建築、景観や都市に至るまで全てが私たちの暮らしを助け、より幸せで充実した人生を享受するための優れた「道具」であると言えます。
そして、中にはそれを使うこと自体の楽しさや体験性を追求したもの(=ゲームや玩具など)、情報によって人を助けたり楽しませるもの(=知識や技法、物語、絵画、音楽、映画など)、物理的なモノではなく仕組みや役務を通じて人々を助けるもの(=サービス、制度、戦略や戦術など)など、広義のデザインにあたるもの生まれました。
こうした人々の暮らしを豊かにする物事のデザインをまとめると「コンテンツのデザイン」と呼べると思います。
このように、デザインを「コミュニケーション」、「コンテンツ」と大別すると、その領域が重なる部分が多くあることに気づきます。
SNSは情報発信を身近にし、誰もが世界中とコミュニケーションを取れるようにしたものでしたが、そこで発信される様々な情報、交わされるコミュニケーションの体験にコンテンツとしての価値があります。
漫画はその物語や世界観、キャラクターの魅力などを楽しむコンテンツですが、図像の抽象化、レイアウト、タイポグラフィなど高度な情報伝達のテクニックに裏付けされており、作り手のメッセージや想いなど伝えるコミュニケーション手段でもあります。
いずれにせよ、このふたつの視点から世の中を見渡してみると、僕らの生活のありとあらゆるものがデザインされ、僕らは常にデザインに触れていることがわかると思います。また、自分自身が普段何気なく行なっていることも実はデザインと言えるのではないでしょうか。
まとめのデザイン・マトリクス
最後に、今回ご紹介した二つの軸をクロスさせることで、デザインの意味を俯瞰できるマトリクスを用意しました。
デザインに関する認識の曖昧さ、期待値のズレを感じた時、取り組んでいるデザインの良し悪しがわからなくなった時、今自分はどんな意味でのデザインをするべきかを確認するのに役立つかもしれません。