本の紹介📚|魔女 第1集・第2集
「魔女」というと、ファンタジー作品に登場し三角帽子で箒にまたがる「魔法使いの女性」をイメージするかもしれない。そうした魔法使いは「Wizard」と呼ばれ、超自然的な魔法の力を使役する思慮深き善の者として描かれる。
本作で描かれる魔女はそれとは異なり、民間伝承にあるような呪術的でシャーマニズムの要素が色濃い、自然や精霊との繋がりを持った女性たちだ。「Witch」と呼ぶほうがニュアンス的に近いのかもしれない。
構成としては上下巻にまとめられた短編集で、世界中様々な地域や民族の「魔女」の物語が描かれる。密林の奥地の呪術師から日本の学生までエピソード毎に登場する人物像も世界観も全く異なるが、いずれも人間の及ばぬ大きなもの、自然や生命、霊的なものを受け入れつながり、尊重する存在として一貫している。
それと対比するように描かれるのは文明社会に生きる人間の欲や傲慢さ、私たちの感覚の鈍さや矮小さだ。技術で自然を克服し、住み良い社会の中で生きる中で、いつしか多様な命との関わりや自分という存在の感じ方があやふやになっている。
『うたぬすびと』に登場するひなたもそんな一人だったが、飛び乗ったフェリーのデッキで裸足になり、風に全身を撫で回されることではじめて自分自身がここにいることを実感する。浅瀬を渡った無人島でひとり雨に打たれ、身体中に水の波紋を感じるうちに、徐々に世界と自分が馴染み溶け合っていく感覚を覚える。様々な生命と呼応するように感覚が目覚めていく描写が美しい。
全編を通じ、緻密で幻想的な筆致で描かれる自然や生命の表現が圧倒的で、読み手の眠っていた感覚も呼び覚まされるような不思議な力を持った作品集。魔女たちの語りは示唆深く、自分が見えていないものを見抜かれていくようだ。
魔女 第1集・第2集
五十嵐大介|IKKI COMIX
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