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本の紹介📚|これまでの経済で無視されてきた数々のアイデアの話 イノベーションとジェンダー

重たい荷物を楽に運ぶため、今や誰もが当たり前に使っているスーツケースが普及するまで、人類が車輪を発明してから5000年もの年月を要した。近年注目されている電気自動車は、ガソリンエンジン車が本格的に普及する以前に、安全で扱いやすい車として既に存在していた。
こうした明らかに優れた発明が全く社会に注目されずに埋もれていたのはなぜか。私たちの目を曇らせていたのは、私たち自身の文化であり価値観、とりわけ「ジェンダー」であった。
ジェンダーとは、生物学的な特徴としての性差ではなく、“社会的に”私たちがそう思っている「男性的なこと」「女性的なこと」といった属性を指す。
先の例で言えば、重い旅行鞄を持ち上げられるたくましさが男性のあるべき姿で、車輪なんて“男らしくない”。危険で汚れるし、扱いが複雑なガソリン車こそ男の乗り物だ。こうした男性的であるとされる当時の価値観が発明の普及を妨げた。それは同時に、女性的とされたものごとを軽視する姿勢でもあった。
現在の価値観からすると不合理に感じるこれらの事例も、当時を生きていたら疑問に感じただろうか。生まれ育った社会に浸透した価値観に、自分がどれだけ影響されているか気づくことは難しい。
本書は、こうした社会的な固定観念が、人々の進歩の可能性を阻害しうることを指摘している。とりわけ、ジェンダーによる固定観念、特に女性的なものの軽視は世界中あらゆる社会でいまだ奥深く根付いているように感じる。
当たり前を捉え直し、固定観念を認知するには、絶えず自分や社会を引いて見たり問いを立て続ける必要がある。困難だけれど、そこから生まれる新しい見え方こそが何かを変えていく始まりになるのだろう。

これまでの経済で無視されてきた数々のアイデアの話 イノベーションとジェンダー
カトリーン・キラス・マルサル|河出書房新社

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