サーキットベンディング対応スキャナを製作しました
挨拶
どうもこんにちは。Takahashi Toshioです。
新作機材…今回はサーキットベンディング対応のスキャナを製作しましたので、その紹介になります。
スキャナについては、皆さんご存じかと思います。そもそも、私のnoteを何度か読んでくださった方であれば、私がスキャナをカメラとして活用し、作品を制作していることをご存じの方も多いでしょう。これまでにも、スキャナを用いた作品をいくつも手掛けてきました。
スキャナにはラインセンサが搭載されています。
通常の2次元センサでは、規定の時間内に露光された光の情報が記録されますが、ラインセンサは「1枚の写真に複数の時間軸を記録する」ことが可能です。この特殊な性質は、私のステートメントである「時間の流れを残す」という表現と非常に合致しており、ここ10年にわたり愛用しています。
製作のきっかけ
①ノイズへの葛藤
これまでスキャナカメラで撮影を続けてきましたが、その特殊性ゆえに、何度もスキャナカメラやその表現の限界を感じてきました。
それでも、可能性を信じ、新しいアプローチを試みては制作し、失敗し、また挑戦する。その繰り返しが、私を成長させてくれる存在――それがスキャナカメラだと思っています。
そんな中、今年はスキャナとは異なるアプローチで、時間の流れを記録する表現に挑戦してきました。特に「Chronograph」シリーズを多数制作し、自分の中で新たな表現を数多く残すことができた充実した一年でした。
「Chronograph」は、現時点で私にとって最高傑作の一つだと自負しています。
しかしながら、この作品にはどこか「きれいすぎる」部分があると感じることもあります。言い換えれば、毒気や荒々しさがないという印象でしょうか。
これまでスキャナカメラで撮影をしていたときは、撮影中に謎のノイズが発生することがありました。そのノイズは撮影を難しくする要因でもありましたが、同時に予測不能な魅力を作品に加える要素でもあり、私はその「謎のノイズの発生」を楽しんでいました。
写真に意図的なノイズを載せる…私は過去、過去、サーキットベンディング対応のデジタルカメラを製作したことがあります。
このサーキットベンディングカメラですが、私のステートメントとはかけ離れた存在だったため、うまく自分の中でその役割を見出すことができませんでした。
しかし、これがスキャナであればどうでしょうか――。
スキャナの特性と私の表現理念が交差することで、新たな可能性が生まれるのではないかと感じました。
②音楽や映像に対するアプローチ
そもそも私が「時間の流れを映す」というステートメントで写真を撮るようになったきっかけは、「写真を音楽や動画(映像)に近づけたい」という考えからでした。
音楽や動画と写真の違いを考えたとき、一つのメディアに複数の時間が含まれている点が大きな要素だと気づき、そこからスリットスキャンという技法にたどり着きました。ただし、もちろん音楽や動画との違いはそれだけではありません。
その中でも特に注目したのが【ミキシング/mixture】という要素です。私が好きなバンド、Dragon Ashはミクスチャーロックの先駆けとして、さまざまなジャンルを融合させて音楽を作り上げてきました。また、音楽の世界ではDJプレイのように、さまざまな楽曲をサンプリングして再構築する文化が一般的です。動画に関しても、ニコニコ動画全盛期に盛り上がったMAD動画が印象的で、(当時、その多くが違法性をはらんでいたとはいえ)動画文化を成長させる重要なコンテンツだったと感じています。
こうした背景から、過去に私は写真を【mixture】させるカメラを制作しました。
この作品は、私が最初で最後の個展で展示したものです。内容としては、過去に撮った写真と、現在撮影した写真を組み合わせることで、予想外の写真を生み出すという試みでした。
当時撮影された写真の多くは公開していませんが、私自身にとって「予想できない」写真が数多く生まれ、非常に満足のいく作品となりました。この体験から、写真同士を引き合わせてミキシングするという手法は、私にとって非常に有用な表現技法であると再認識しました。
製作方法について
一般的に、サーキットベンディング装置では、回路をショートさせることで改造のポイントを探すことが多いようです(一般的な方法としては、手に水をつけて回路を触るなどのアプローチが取られるそうです)。
一方で、私はスキャナの回路についてそれほど詳しいわけではありませんが、一応ピンアサインの電圧や波形を測定しました。そして、測定したポイントを直接ショートさせるのではなく、間に抵抗を挟むことでアナログ値を変化させる方法を採用しました。
ちなみに、私が改造に使用したスキャナ(GT-S620、630、640)はいずれも11本のリボンケーブルが2本、つまり計22端子で信号をやりとりしています。この11本リボンケーブルの扱いは非常に難しく、特にはんだ付けが苦手な私にとっては大変な作業でした。そのため、コネクタからピンを簡単に抜ける専用のボードを使用して対応しました。
どうやればリボン(フレキ)ケーブルを上手にハンダ付けできるのでしょうか。詳しい人がいれば、教えて下さい。
筐体については3Dプリンタで製作しています。
使用しているのはBambu Lab P1Sで、メーター部分や文字部分にはAMSを活用して2色刷りを行いました。最初は「AMSなんてあまり役立たないだろう」と思っていたのですが、実際に多色刷りを試してみると、作品の質が大幅に向上しました。この機能の便利さには驚かされています。
製作した写真作品
実は、まだ撮影自体はあまり進んでいません。ただ、自分が求めていたような挙動を再現できている点に満足しています。自分の写真をサーキットベンディングして楽しむのも十分面白いですが、いつか他の人の写真にもこの手法を適用して、新たな作品群を制作してみたいと考えています。それがどのような表現につながるのか、今から楽しみです。
おわりに。そして宣伝
今回制作したサーキットベンディングスキャナは、通常のスキャナとしても利用できる一方で、サーキットベンディングという手法で撮影することも可能になり、非常に汎用性の高いデバイスとなりました。また、筐体デザインにこだわったことで、部屋の中でも家電らしさが薄れ、インテリアとしても調和する仕上がりになったと感じています。
さらに、これまでの撮影では作品として形にならなかった写真たちが、このスキャナを通じて新たに作品として昇華される未来も期待できるかもしれません。こうした可能性を考えると、このデバイスを作って本当に良かったと感じています。
★最後に宣伝です。
2024年11月23日、24日に開催されるOgaki Mini Maker Faireに、DIY Camera Teamとして参加します。
本作品は先ほど書いたように、過去のOgaki Mini Maker Faire 2018で得たサーキットベンディングの知識を活かして制作したものです。そのため、この作品のお披露目をOgaki Mini Maker Faireで行いたいという思いが強くありました。製作がなんとか間に合い、無事に皆様にお見せできることを嬉しく思っています。
それでは、来週の会場で皆様にお会いできるのを楽しみにしております。