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『パラデソ』上演台本

はじめに

2010年にタカハ劇団で上演された『パラデソ』の戯曲を販売しています。
「横書きだと読みにくい!」「脚本のフォーマットで読みたい!」という方は、記事の最後にPDFファイルを貼り付けておきますので、そちらをダウンロードして下さい。

※戯曲の著作権は高羽彩に帰属します。この戯曲を許可なく掲載・上演することを固く禁じます。掲載・上演に関するお問い合わせはタカハ劇団 info@takaha-gekidan.net まで、お問い合わせ下さい。

あらすじ

旧友が死んだ。
その通夜に、私たちは集まっていた。
私たちは幼少期、とある新興宗教施設で共に生活していた。
超能力を神のご意志だとするその施設で、大人たちは私たちを「神の子」だと崇め奉り、
私たちには世界を救う力があるのだと言い聞かせた。
やがて宗教団体は解体され、私たちは施設を離れ、それぞれの人生を歩んでいた。

旧友が死んだ。
自殺だった。
なぜ彼が死を選んだのか、私たちは誰もわからなかった。
私たちがスプーンを千本曲げられたとしても。
たとえ、私たちに世界を救う力があったとしても。

登場人物


町田頼子:まちだよりこ。居酒屋「よりちゃん」の看板娘。板前の父の手伝いをしている。料理は作れない。

※以下登場人物は、宗教法人ライフメイカーのセミナーハウスにて幼少期~高校時代にかけてともに生活していたことがある、いわば幼なじみである。

峰岸竜太:みねぎしりゅうた。竜兄(りゅうにい)、峰さん、などと呼ばれる。年長者だが、気が弱く、女性陣にはいつもいじめられている。透視能力の持ち主。現在は弱小出版社の事務員。
鵜飼歳三:うかいとしぞう。うかい、とか、とし、などと呼ばれている。今回の登場人物の中では一番の年下で、西藤裕弥と同い年。子分キャラが身に染みついてる。サイコキネシス。現在大学院で量子力学について研究中。
西原陽光:さいばらようこう。さいばら、と呼ばれている。ダウジングで生計を立てている小金持ち。プライドが高い。

三笠三智子:みかさみちこ。みっちゃんと呼ばれている。唯一の既婚者で1歳女児の母。サイコキネシス。義理の両親とうまくいっていない。
吉岡公子:よしおかこうこ。こうこと呼ばれている。デパートの宝飾品売場勤務でジャニヲタのミーハー。念者能力の持ち主。高橋たちの一個下。
高橋美芽生:たかはしみめい。みめいと呼ばれている。フリーライター。ただれた生活をしてすっかりすれてしまった。特に能力はない。
権田勝:ごんだかつ。かっちんと呼ばれている。現在大使館勤務。自称霊能力者だが、本当かどうかは怪しい。

四方田晴海:よもだはるみ。よもちん、はるみなどと呼ばれている。幼なじみの中で唯一ライフメイカーに残っている。現在は幹部。ホーリーネームはゴルデカ=マッカッハティン(意味は不明)透視能力がある。

(いなくなった人:西藤裕弥。さいとうゆうや。東京の大学卒業後地元に就職。3年が経とうとしたとき自宅で自殺。遺書などはなかった。)


舞台

地方の国道沿いの居酒屋。
劇場客席入り口には汚い暖簾。
小さな地下のスペースに、4人掛け用のテーブル一つ。二人掛け用のテーブルが二つ。
店の奥には調理場とトイレ。
すみにカセットを入れるタイプの古いカラオケマシーンが布をかけられてある。
店の真ん中にある柱の上部に備えられた棚にはテレビが(薄型液晶が好ましい)
ビールを入れる冷蔵庫、ピンク電話、ネームプレートをジャラジャラつけたキープボトルが並べられた棚がある。
壁の至る所に古びたポスターやお品書きが張られている。店長と常連さんの草野球の写真などがあるとなおよい。


【客入れ中】


薄暗い店内。
外は雨。
テーブルの上には前の客の使った皿、コップなどがグチャリと残っている。
有線から60年~80年代にかけてのナツメロ(演歌も含む)がうっすらと流れている。
よきところで(開演15分前くらい?)頼子が厨房からはいってくる。
のたのたと片づけを始める。
頼子何回か出たり入ったり。
厨房からは食器のカチャカチャという音。
かったるそう。
そのとき、

【開演】

ピンク電話、鳴る。

頼子「はい居酒屋よりちゃんです。あ、お父さん?あそう、じゃあそのまま田中さん達と飲み行くんだね?うん。じゃあ今日はもう戻ってこない?わかったよ…。はい…。もうじゃあ店閉めちゃうからね?はい、はーい。え?え?ライフワークの人がうろついてんの?うん…。わかった気をつける…。えー?店に入れなければいいんでしょ?うん。大丈夫だって。うん、きたら警察かお父さん呼ぶから。はい、はーい。あんま飲まないでね。はーい。」

電話切る。
劇場入り口から、塗れた傘をたたみながら、峰岸が顔をのぞかせる。

峰岸「すいませーん?」
頼子「あ、はいいらっしゃいませ。」
峰岸「まだ大丈夫ですかね?」
頼子「ああー…今日もう板さん帰っちゃってるんですけどそれでもよければ…。」
峰岸「ああいえ料理とかは全然いいんで。」
高橋「(声だけかぶり気味で)なんだってー?」
鵜飼「(声だけ)なんか板さん帰っちゃったんですって。」
高橋「(声だけ)ええー。
峰岸「座れればそれで。」
頼子「大丈夫ですか?」
峰岸「(後ろに向かって)もうほかにやってるとこないって。」
頼子「あの、簡単なものなら作りますので。」
高橋「(声のみ)ああもうはい、いいですいいです大丈夫。」
峰岸「すいませんなんか…。」

峰岸入ってくる。喪服姿である。

頼子「何名様ですか?」
峰岸「あ、えーっと…(ぼんやり思い出そうとしている)」
鵜飼「(すかさず)6人です6人。」
高橋「あとからもう一人来ますー。」
頼子「ちょっと狭いんですけど。」
鵜飼「ああもう全然全然。」

ぞろぞろと人入ってくる。皆、喪服である。

三笠「流石にこの辺はどこも閉まるの早いねー。」
頼子「傘立てそちらですんで。」
吉岡「もう一人って誰ですか?」
高橋「かっちん、仕事終わって今向かってるって。」

高橋は何の躊躇もなく一番上座にドカっと腰を下ろす。
三笠はその隣に。
吉岡は高橋の正面。西原は吉岡の隣。
峰岸と鵜飼は二人掛けのテーブルに座る。

高橋「(メニューを手に取りながら)うーさむっ」
三笠「ねー」
高橋「五月でこれはないわぁ。」
頼子「(タオルなどを渡しながら)まだ外雨降ってました?」
吉岡「全然降ってました。(タオルもらい)どもー」
西原「(壁のお品書きをみて)うわっ生シラスあるよ。」
鵜飼「まじっすか。」
西原「(たったまま壁を見回し)へー…刺身とかうまそうだな。」
鵜飼「(メニュー手に取り)イルカとか無いかなぁ。」
吉岡「えー!」
頼子「すいません。」
鵜飼「いや、ちょっと言ってみただけなんでー。この辺イルカ食べますもんね。」
吉岡「あたし食べたことないよ?」
鵜飼「いや、俺もないっすけどぉ。」
高橋「(メニューをみながら)どうしようかなー。(三笠に)見る?」
三笠「ありがと。(二人で頭くっつけてメニューを見る)」
吉岡「(二人の見ているメニューをのぞき込むようにして見ている)」

西原まだ立ってみている。
峰岸、二人掛けの机を動かそうとゴソゴソしている。

鵜飼「え、何、何すか。」
峰岸「いやぁくっつけようと思って。」
高橋・鵜飼・三笠「 (各々に)えー」
鵜飼「いいっすよ~」
峰岸「いやだってさ」
三笠「いいからいいから」
高橋「いいよ竜兄そこに座ってれば。」
峰岸「ええ?」
高橋「通り道で迷惑じゃん。」
峰岸「ああ…」
高橋「周り見てよー」

鵜飼、一人でメニューを見ている。

峰岸「あの…」。
鵜飼「(気づかずに)料理ってどの程度いけるんですかね~?」
峰岸「あ、ねえ?」

峰岸、鵜飼の持っているメニューのうらをのぞき込もうとしてみたり…。
隣の席のメニューに気づき、

峰岸「(メニューに手を伸ばすと)」
西原「竜兄メニューかして?」
峰岸「あ、はい(そのまま渡してしまう)」
西原「サンキュー。」
峰岸「…。」

頼子、お通しを持ってやってくる。

頼子「失礼しまーす。」
西原「どうしようかな…。」
高橋「すいませんホッピーっておいてます?」
頼子「はいありますよ。(エプロンのポケットからメモとペンを取りだし)」
三笠「ホッピーとか飲むんだ。」
高橋「うん、結構おいしいよ?じゃあ、ホッピー黒で。」
頼子「あ、すいません黒ないんですよ。」
高橋「マジですか。」
三笠「あたしウーロン茶で。」
頼子「暖かいのと冷たいの…」
三笠「ホットで。」
頼子「はい。」
吉岡「飲まないんですか?」
西原「みっちゃんは酒だめだろ。」
吉岡「飲めませんでしたっけ。」
三笠「いや、飲めるんだけどね?」
西原「酒乱酒乱。」
三笠「そんなことないよー。」
鵜飼「ビールって瓶ですか?」
頼子「はい。」
鵜飼「先輩たちビールでいいですか?」
西原「俺はビールでいいや。」
吉岡「あたしもー。」
高橋「えーあたしどうしようかなー。」
西原「早くしろよ。」
鵜飼「とりあえずビール二本で。」
頼子「はいかしこまりました。」
峰岸「僕カシスオレンジで。」
三笠「ええ!?」
峰岸「え?」
吉岡「(笑っている)」
西原「カシスオレンジって。(立ち上がって、鵜飼に灰皿くれのジェスチャーしながら)」
鵜飼「(自分のテーブルの灰皿渡してやる)」
頼子「すいませんうちそういうのないんですよ。」
峰岸「ないですか。」
高橋「(メニューに目を落としながら)ないよ。」
三笠「ないよー。」
高橋「どう考えてもないでしょ。」
鵜飼「ちゃんとメニュー見てくださいよー。(メニュー渡す)」
峰岸「うん…。」
西原「(たばこに火をつけてから)カシスオレンジって女子っすか。」
高橋「てか竜兄お酒だめだよ?」
峰岸「なんで。」
高橋「車運転するでしょ?」
峰岸「(三笠を指さし)みっちゃんが…」
高橋「はぁ~?竜兄が運転すんに決まってんじゃん。」
三笠「いいよ?あたし。」
高橋「いいんだよ、竜兄にやらせれば。この人ウーロンで。」
峰岸「ええ?」
高橋「なに?」
峰岸「オレンジジュース。」
頼子「はい。」
鵜飼「オレンジ好きっスネ!」
西原「おまえどうすんだよ。」
高橋「えーじゃあもうとりあえずビールで。トリビで。」
頼子「はいかしこまりましたー。」
西原「結局ビールかよ。」

頼子、冷蔵庫からビールを二本取りだし、あいたテーブルの上で栓を抜き、
それぞれのテーブルに一本ずつおき、グラスを4つ持ってくる。
皆それぞれに注ぎあったりしながら。

吉岡「トリビって言うんですね~業界語?」
高橋「全然適当に言っただけー。」
頼子「(オレンジジュース持ってくる)お待たせしました~。」

ホットウーロン待ちの間。

高橋「ふむ…」

間。

三笠「あ、いいよ?先乾杯しちゃって。」
高橋「待つって。」
吉岡「ホットは暖めなきゃいけませんもんね~。」
三笠「じゃあ、初めだけビールで。」
西原「(立って)すいませんグラスくださーい。」
頼子「はーい。」
高橋「大丈夫?」
西原「ちょっとだろ。」
三笠「ちょっとだけね?」
頼子「(グラス持ってくる)」
西原「あと枝豆。」
頼子「はい。(厨房へ)」
吉岡「いいですね~。」
鵜飼「(ビールをつぐ)どうぞどうぞ。」
三笠「ちょっとねちょっと。」
西原「あーもうもう!」

三笠のグラスに2ミリ程のビール。
再び間。
厨房から頼子が皿を洗う音が聞こえる。

高橋「あたしも灰皿もらっていい?」
鵜飼「はい、えーと(頼子を呼ぼうとする)」
高橋「いいよ。(峰岸に)ちょっと!後ろのとって?」
峰岸「はい(灰皿渡してやる)」
高橋「(たばこに火をつける)」
三笠「美芽生タバコ吸うっけ?」
高橋「最近ね…。あ、ごめん!妊娠してる?」
三笠「してない。え?どういうこと?」
高橋「違うよ?そういうアレじゃなくてぇ。」
三笠「そういうアレってどういうアレ?」
高橋「だぁってさぁ…。あ、みどりちゃんまだ母乳飲んでるよね?」
三笠「飲んでるけど。」
高橋「ごめんね、一本だけ。」
三笠「いいって」

再び間。

吉岡「…こういう時ってどうすればいいかわかんないですよね。」
高橋「竜兄なんかしゃべってよ。」
峰岸「え、ああ…。(グラスを持って立ち)それでは、」
高橋「なんで立つ?」
吉岡「なんで立ったんですか。」
峰岸「あ、はい…(座る)」

再び間。

高橋「えーとじゃあ…(グラスを掲げる)」

皆もグラスを持ち。

高橋「献杯。」

皆、黙ってグラスをかかげる。

高橋「いやぁー…ね。」
三笠「ね。」
西原「(飲み干す)」
鵜飼「あどうぞ?(わざわざ立って注ぎに来る)」
西原「悪いね。」
吉岡「あ、すいません、気づかなくて。」
西原「いいよ。」
吉岡「(鵜飼に)偉いじゃん。」
鵜飼「いやっまあ、鍛えられてるんでー。」
高橋「大学?」
鵜飼「まあ、院すけど。うちの研究室、理系の癖に無駄に体育会系なんすよ。」
吉岡「(高橋のグラスに)どうぞー」
高橋「あーいいよ気ぃ使わなくて。」
吉岡「まああの久々なんで。」
三笠「へーなんの研究してんの?」
鵜飼「あの、ニュートリノの研究ですね。素粒子の一つなんですけど、強い相互作用と電磁相互作用がなくて、弱い相互作用と重力相互作用でしか反応しないんですけど、質量が凄い小さいんで、重力相互作用もほとんど反応しなくって透過性がすごく高いんですよ。」
三笠「や、もういいわ、もういいわ。」
鵜飼「あ…すいません。」
高橋「え、じゃあ学校どうした?休んだ?」
鵜飼「ああ、まあ…。」
三笠「え、みんなどうした?」
高橋「あたしはまあ自由業だし?」
吉岡「ライターさんですよね?すごいなー。」
高橋「や、別に適当書いてるだけだし。え、公子は?」
吉岡「あたしは職場早退させてもらいました。」
高橋「え、じゃあ明日の告別式どうする?」
吉岡「いやもう早退ついでに休みもらって。」
高橋「あーよかったねー。」
吉岡「え、美芽生さんは?」
高橋「明日は午後イチで打ち合わせ入ってるからねー。」
三笠「午後イチだって。」
高橋「うるさいよ(笑)告別式出ないで東京帰るわ。」
吉岡「そうですか…。」
高橋「みんなは?」
三笠「んーまあ出ようかなって。」
高橋「そっかー…そっかー…。」
西原「なんか頼まねぇ?」
三笠「うんうん。」
西原「すいませーん。」

頼子、出てくる。

頼子「はい。」
西原「生シラスとー」
鵜飼「いっすね。」
頼子「すいません生シラス終わっちゃったんですよー。」
西原「あー。」
高橋「茄子の一本漬け。」
頼子「はい。」
西原「季節の刺身三種盛り。」
頼子「すみません、」
西原「あー…じゃあ、手羽餃子。」
頼子「すいませんそれも…」
三笠「もやし炒め。」
頼子「はい。」
西原「鶏軟骨の、」
頼子「すいません…」
西原「ええ、じゃあ何があるの。」
頼子「(メニューを指さしながら)カンパチ、シマアジ、生だこ、つぶ貝、あとカツオ…」
西原「じゃあカツオで」
頼子「が、ないんですよ。」
西原「が、ないんだ。えー。」
峰岸「焼きうどん。」
頼子「はい。」
西原「タンパク質系がないのね…」
高橋「とりあえず以上で。」
頼子「はい。(ハケる)」
吉岡「てゆか、こういう時って、刺身とか食べてもいいんですかね。」
高橋「えー?」
吉岡「だってなんかねぇ?」
高橋「あたし親戚のおばさんなくなったときにお寿司食べたよ?」
吉岡「あ、じゃあいいんだ~。」
西原「関係ないでしょー俺ら別に仏教徒ってわけじゃないんだしさー。」
鵜飼「っていうか、葬式、仏式でしたね。」
高橋「あー…。」
三笠「ね。」
高橋「あれって、葬式どっちが出したの?」
鵜飼「まあ、お父さんのほうが…。」
高橋「そっかー…まあ、そうだよねぇ。」
鵜飼「まぁ揉めてましたけどね。」
三笠「うん。」
高橋「あそう。」
鵜飼「おばさん的には教団の方で葬式出したかったみたいで。裏で結構アレしてて。」
西原「勘弁してくれよー。裕弥、だって、教団抜けてんだろ?もうそういうのはさぁ。」
鵜飼「まあでもおばさん的には…」
高橋「母親と一緒に住んでたんだっけ。」
鵜飼「そうみたいですね。」
高橋「二人暮らし?」
鵜飼「はい。」
西原「結局、母親のとこ戻ったんだ。」
鵜飼「そうみたいですね。」
西原「家出してまで教団抜け出したのに。」
高橋「もー……。おばさんこれからどうすんだろ……。」
三笠「ねー…。」
高橋「一人で暮らすのかな。」
吉岡「教団のセミナーハウスは、」
西原「いや、戻れねぇだろ。戻ったところでっていうさ。」
高橋「息子が死んだ家で?」

沈黙。

吉岡「あの、こんなこと聞いてなんかあれなんですけど…。」
高橋「うん。」
吉岡「え、なんで死んだんですか…?」

沈黙。

三笠「うん…なんかね…」

頼子ホットウーロンを持ってやってくる。

頼子「すいませんお待たせしましたー。はい、あと枝豆です。だだちゃ豆ですので。」
西原「うわマジすかうまそー。」
頼子「こちら殻入れですねー。(ハケる)」
吉岡「だだちゃ豆って何ですか?」
西原「しらねぇの?なんかすげぇうめぇまめ。」
高橋「馬鹿っぽい…。」
吉岡「へぇ~。(鵜飼と峰岸に)あ、とりますね。えっと…」
西原「あ、すいませーん。取皿くださーい。」
頼子「(声)はーい。(取皿六枚持って出てきて)こちらに置いときますねー。(ハケる)」
吉岡「ありがとうございます。(だだちゃ豆を取り分けて)はいどうぞー。」
峰岸「ありがとう。」
高橋「(食べて)ああうまいうまい。」

みなものすごい勢いで食べる。

西原「だろ?(高橋のグラスにビールを注ぎ)」
吉岡「(食べて)っあー!」
高橋「あ、悪いね。何珍しい。」
西原「いやべつに?」
高橋「(西原のグラスにビールを注ぎ)」
西原「どもどもども」
吉岡「凄い青臭い!」
鵜飼「(食べて納得するように)うーんうんうん。」
三笠「塩がまた粗塩で美味しいね。」
吉岡「あ、ですね!ミネラルの味がする。」
高橋「茹で具合もねえ、なかなか。」
鵜飼「口の中でポンポン跳ね回るくらい新鮮ですね。」
西原「そうなんだよ。」
鵜飼「(ビール飲み干して)かーっ」
三笠「(鵜飼についでやり)」
鵜飼「あ、ども。」
峰岸「あ…僕もビール…。」
高橋「ジュース飲んでれば?」
峰岸「おいしいね…。」
鵜飼「そっすねー。」

頼子、茄子の一本漬けもってくる。

頼子「はい、茄子の一本漬けです。」

吉岡、また取り分けてやる。

三笠「あ、いい具合に浸かってる。」
高橋「あそーお?(箸を伸ばし)あ、すいませーん。」
頼子「(顔だけちょこっと出し)はい。」
高橋「からしってあります?」
頼子「すぐもってきますね。(ひっこむ)」
三笠「これって自家製かな。」
吉岡「ああ、好きですこの感じ。」
頼子「(小皿にからしをのっけてくる)はいどうぞー(すぐひっこみかけるが)」
三笠「あのこれって自家製ですか?」
頼子「あーはい。」
三笠「ぬか床になにか入れてます?」
頼子「えーちょっとわかんないですねー。父がつけてるんですよ。」
三笠「そうですかー…。」

頼子ハケる。

高橋「(からしつけたのを食べて)んーーーっ」
三笠「あたしも漬物うまく漬けたいなー。」
西原「なにそれ。」
三笠「姑にさ、ギャフンと言わせたいじゃない。」
高橋「やっぱまだうまくいってないんだ。」
三笠「みどりが生まれてからはマシになったんだけど。」
峰岸「大変だねー。」
西原「やっぱ教団がらみか。」
三笠「まあね。」
西原「くだらねー。」
吉岡「(鵜飼に)ねえお通し食べた?超美味しいんだけど。」
鵜飼「マジすか。」
三笠「これさあ、なあに?」
吉岡「なんかよくわかんない煮物ですね。」
鵜飼「あうまい。」
吉岡「なんかわからんけど美味しいでしょ?」
三笠「さといも…じゃなくて、大和芋をなんかあれしてるのかな。」
吉岡「紫蘇の香りしますね。」
高橋「(頭抱えて)あー…どうしよ。」
西原「なんだよ。」
高橋「日本酒いっちゃおうかなー…」
西原「あー(同意)」
高橋「吉乃川かー吉乃川あるんだー。」
吉岡「ああ、いいですね。」
鵜飼「美味しいんですか?」
高橋「うまいよ~?新潟のお酒で、ね?」
吉岡「うん。」
西原「磯自慢呑めよー。地元民なら磯自慢だろー(高橋からメニュー受取り)あれない。あれー?(まわりみまわす)」
高橋「(カバンから携帯を取り出し)あ、やばい。ここ電波入らないわ。」
西原「(高橋にビールをつぐ)とりあえず。」
高橋「ああ、はあ…(携帯気にしつつ)」
三笠「(自分の携帯も取り出しつつ)仕事?」
高橋「いや、かっちん、さっき三島だっていってたからさー。」
三笠「あー…。」
高橋「駅ついたら連絡してっていってあるんだよね。」
鵜飼「ビールもう一本頼みますか。」
西原「うん。」
鵜飼「すいませーん。」
頼子「(声のみ)少々お待ちくださーい。(できればここで、もやしを炒めている音)」
三笠「あ、あたしのも入んないわ…。」
西原「あ、まじで?」

皆、一様に携帯を取り出して手を上にかざし電波を探す。
頼子もやし炒めを持って入ってくる。

頼子「すいませんお待たせしましたー。え、なんですか?!」
西原「(電波を気にしつつ)あ、すいませんなんか。ちょっと電波が、」
頼子「あっすいませんうち入んないんですよ。」
西原「(入り口さして)これ、上に上がんないとダメですかね。」
頼子「あっちょっといいですか?」

頼子、空いている椅子を柱の近くにおき、靴を脱ぐとその上に乗る。

頼子「貸してもらっていいですか?」

頼子、西原の携帯を受け取ると空にかざす。

頼子「ここなら入ります。」
西原「えー。」
頼子「ここ(棚)に置いときますか」
西原「はい。」
高橋「あ、じゃああたしも。」
三笠「あたしもいいですか?」
頼子「はい。」

高橋に続き、鵜飼以外は全員携帯を預ける。

頼子「(降りて)すいませんなんか。」
鵜飼「ビール(一本)」
頼子「はい。」
高橋「としはいいの?」
鵜飼「俺特に連絡とか無いと思うんで。」
三笠「あ、おいしい。」
吉岡「まじですか。」
高橋「あ、ちょっとあたしのメール入ってる。」
鵜飼「しゃっきしゃきですね!」
吉岡「んー(うまいの意)」

頼子、ビールを置いたらハケる。
もやし、食べる人は食べる。
吉岡は例によって、隣のテーブルへ取り分けてやる。
高橋、イスの上にのって電話かける。

高橋「あ、もしもし?かっちん?ごめーんちょっと電波入らないとこにいてー。うん、うん…。」
吉岡「かっちん先輩辛いなー…。」
高橋「そうそう会場の近く。教団のセミナーハウスの近くのさ、ブックオフあった大通りあるじゃない?そこを教団の方に向かってまっすぐ進むと、左手にローソンあるから。そこの三軒向こうのよっちゃんっていう居酒屋にいるから。地下だから、見逃さないように。はい、はーい。(電話切る)」
吉岡「かっちん先輩大丈夫でした?」
高橋「(座って)うん、まあ意外とフツーな感じだったけどね。」
吉岡「でもねー。」
高橋「まあねー…。」
吉岡「どんなかんじなんでしょうね、自分が好きだった人が死んじゃうって…。」
三笠「すごかったもんね。かっちん。」
高橋「裕弥がミスチル好きっていったら、ミスチル聞いてね。」
吉岡「ミスチルねー。」
高橋「ジョジョ好きって聞いた次の日に六三巻買い揃えてきたからね!そこのブックオフで。」
三笠「あったあった!」
高橋「ハウスのアタシたちの部屋、足のふみばなくなっちゃってね。あれさぁ、裕弥がこち亀好きって言ってたら、こち亀全一六九巻買ってきたよね!」
三笠「いやどうかな?」
高橋「(視界を狭めるジェスチャー)こーいうタイプだから。」
吉岡「かっちん先輩って裕弥に告白したんでしたっけ。」
三笠「それは、(峰岸に)ね?」
峰岸「え?」
三笠「ほら。」
峰岸「あ…僕見たよ告白してるとこ。」
吉岡「ええ!」
三笠「そうなんだって!」
峰岸「いや僕、トイレでウンコして個室から出たの。そしたら今まさに用を足そうとしてる裕弥にかっちんが抱きついてて。」
吉岡「えー~。」
峰岸「「好きです」って。」
吉岡「で…?」
峰岸「ただ呆然としていた…。」
吉岡「ひどーい!」
高橋「そういうところあるよねアイツ!」
西原「いやいやいやいや!そりゃなるだろ!チンコ丸出しだよ?」
峰岸「丸出しなんだよ!」
鵜飼「なんなら一番動けない瞬間ですからね!」
西原「そんなチンコ丸出しで女子に告白されて、呆然とする以外なんかあるか?」
吉岡「え、なんか…ありがとうとか…」
西原「いえるかっ!」
鵜飼「なんで男子トイレで告っちゃったんですかねぇ。」
高橋「まあ?(視界を狭めるジェスチャー)こーっなっちゃう子だからね。」
吉岡「で、その後はどうなったんですか?」
三笠「まあ、ね。」
高橋「ね。」
三笠「振られちゃったんだけど。友人以上には見れないってさ。」
吉岡「そうなんですか…。」
高橋「裕弥はなんか言ってた?」
鵜飼「いや、なんにも…。裕弥、そういうの全然話してくれなくて。いちお、幼稚園来の幼馴染なんですけどね。」
高橋「まあ、そういうとこあるっていうか…。」
三笠「ね。」
吉岡「なんかいっつも言いたげなんだけど、なんも言ってくれないんですよね。」

皆、しんみりとする。
有線からはパーソナリティーの明るい楽曲紹介が聞こえてくる。
紹介されている曲は「千の風になって」。作者不明の詩が話題になってとかなんとか。

三笠「あのね、裕弥ね、やっぱ自殺だったって。」
吉岡「……そうですか。」
三笠「なんだかね……。」

♪ わ~た~し~の~お~は~か~の~

西原「鵜飼から連絡もらったときにそうじゃないかって気はしたけどさ。」
鵜飼「そうですか。」
西原「死因わかんないっていうからさ。」
鵜飼「いや、俺もおばさんから連絡あったときに、そこら辺とかあんま、ねぇ、聞けないじゃないですか。」
高橋「てかなにこの歌!腹立つわー。どういうタイミング?(立ち上がってキョロキョロしている)」
三笠「なに。」
高橋「チャンネル変えられないかな?」
三笠「いいよいいよ。」
高橋「もう!(イライラするのか立ってうろうろしてたばこを吸う)」

「千の風」そのまま流れている。

西原「でもそうか…。やっぱりねぇ…。」
西原「なに、首吊?」
鵜飼「(頷く)」
高橋「なんだよなーもう…。」
西原「遺書とかあったわけ?」
鵜飼「警察の人とかが探したらしいんですけど、なかったらしいですよ。なんか普通に、いつも通り仕事から帰ってきておばさんと夕飯も食べたんですって。でも次の日いつまでたっても起きてこないから、おばさんが呼んだんだけど部屋から出てこなくて、でドア開けたらもう目の前で首つってたって…。」
吉岡「もー…。」
西原「おばさんと話した?」
高橋「うん、あたしとみっちゃんはさっきね…。おばさんなんかさ、うちらに謝るんだよごめんなさいって。息子が自殺なんかして、ごめんなさいってさぁ。もうそんな、おばさんが謝らなくてもさぁ。」

この間、峰岸は黙々ともやし炒めを食べている。ちょっと遠慮がちに一本一本。
わざわざ立ち上がってもやしを自分の取皿に取り分ける。

高橋「ちょっと!」
峰岸「え?」
高橋「なにちょっと!」
峰岸「もやし美味しいなって…。え、食べる?」
高橋「食べるけどさ、いや食べないよ!なに!」
鵜飼「お腹減ってんすか?」
峰岸「うん…」
三笠「(もやし炒めの皿を峰岸の前においてやり)食べるなら食べてよ!そんなもちょもちょもちょもちょさぁ。」
峰岸「いやだって真剣な話してるし…」
三笠「空気読むなら読む、読まないなら読まないどっちかにしてもらえます?」
峰岸「すいません。」
頼子「はーい。」
高橋「え、なに?」
峰岸「あ、もうひとつ頼む?」
高橋「いやいいから!(顔を出した頼子に)あ、いいですー。」
三笠「そういうことじゃないじゃんもー…。」
西原「かわってねぇー。」
高橋「普通はもう少しさ成長してるもんじゃないの?何年ぶりかの再会ッつったらさ。」
西原「まあそこがいいところっていうかさ。」
高橋「いいよべつにいい感じにまとめなくても。」
峰岸「すいませんオレンジジュースくださーい。」
頼子「(声のみ)はーい。」
西原「あー…俺もおばさんに挨拶しなきゃだなー…。」
峰岸「ちょっと気が重いよね。」
西原「そりゃそうだよ…。」
鵜飼「でも、おばさん喜ぶと思いますよ。今日もこんなに集まってくれるとは思わなかったって言ってましたから。」
高橋「こんなにっつっても、うちらだけだったけどね。」
三笠「でもなんか、なんだかんだで集まったね。」
吉岡「ですよねー。」
高橋「まあ、東京組はちょこちょこ会ってはいたけど。全員揃うのは…十一年ぶり?」
三笠「あ、もうそんなになる?」
高橋「ノストラダムス以降でしょ?」
三笠「ああ、そうね。」

頼子、オレンジジュースをおいて、少し会話を気にしてから去る。

高橋「外れたねー、予言。」
吉岡「外れた外れた。」
西原「まあ教団的には?俺らが防いだって事になってるけどね。」
三笠「(頼子を気にして)ちょっと。」

頼子、そそくさとはける。

鵜飼「(頼子には気づかずに)そう!防いだ!防ぎましたよ~。俺ら神の子が地球の危機救いましたからね。」
高橋「なにをいってんだか。」
西原「ほんとだよ。」
鵜飼「でもあん時超大変じゃなかったですか?」
三笠「たいへんだった~。」
峰岸「7月一杯、ほぼ不眠不休だったよね。」
三笠「そうそうそうそう。」
峰岸「皆で手ぇつないで、こう…」
三笠「地球儀をね。」
西原「かこんだね、地球儀。」
三笠「祈りの部屋でね。」
西原「いのりの部屋!なつかしー。」
高橋「馬鹿だよねー。」
鵜飼「まあ、当時はそれなりに真剣でしたけど。」
高橋「親がね?あたしら子供は全然、なにがなんだか。神の子だ何だって言われてもさ、なにが神の子かって感じだし。」
鵜飼「アレ知ってます?祈りの部屋って、平仮名でいのりのへやって書いてあったじゃないですか。」
西原「うん。」
鵜飼「あれ、いのりの「り」のここんとこ消して「いのノのへや」ってなってたの。」
西原「なってたな。」
鵜飼「あれ、裕弥がやったんですよ。」
西原「まじで?」
吉岡「うわーバカだー(笑)」
三笠「何その微妙なボケ。」
高橋「裕弥らしー。」
峰岸「先生にバレたら殺されるよ(笑)」
鵜飼「あの頃から裕弥、教団がああなるって、わかってたんすかね。」
西原「ああなるもなにも、はじめから無理あったんだって。地球の危機を救うとか。」
高橋「叩かれるなんてさ、はじめからわかりきってるじゃん。」
鵜飼「皆さん、最近は全然使ってないんですか。力は。」
高橋「いや、使わない使わない!使い道ないし。え、使ってるの?」
鵜飼「いや…。」
高橋「使わないよ。皆もそうでしょ。まじめにあれよ、働いてんだから。」
吉岡「そうそう。」
三笠「あたしは主婦ですけど。」
高橋「それだってあれよ、大変なんだから。」
吉岡「みどりちゃんどうしました?」
三笠「今日は姑んとこ預けてきちゃった。」
吉岡「大丈夫なんですか?」
三笠「教団関係ってことは言ってないし。まあ、またブツブツ言われるかもだけど。」
高橋「みんな教団ぬけてからは、それぞれの生活してんだから。」
鵜飼「(立ち上がって改まり)ありがとうございます。」
三笠「ううん全然。むしろ知らせてくれてありがとう。」
鵜飼「いや、俺もおばさんから連絡もらったとき、どこまで連絡すればいいかわからなくて。」
高橋「うん…。」
鵜飼「いろいろ、思い出したくない人もいただろうし…。でもみんなにはやっぱ、連絡しなきゃと思って。結果来れなくてもいいからーっていう…。」
高橋「ま、それでね、結果みんな集まったわけだから」
三笠「うん、ありがとね。」
鵜飼「…はい。」
吉岡「かっちん先輩も来ますしね…。」
西原「神の子、全員集合じゃん。また地球の危機救っちゃう?」
高橋「ふ、やめてよ。」
三笠「あとはこれでね…」
吉岡「四方田さんですか…」
鵜飼「あ、まあ…四方田さんは…」
高橋「いや、まあいいのよ?」
三笠「いいいい!」
鵜飼「そう、ですかね?」
西原「いいだろ。」
吉岡「四方田さんはね。」
西原「あいつだって、今更俺らとはなしたくなんてないだろ。」
高橋「てか、顔出せないでしょ。どの面下げてっていう。」
鵜飼「ですよね。」
西原「そうそう、いいのいいの。」
峰岸「え、僕呼んじゃった…。」

皆、ぎょっとした顔で峰岸を見る。

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