実録「夜逃げ屋(後編)」 債権者が自宅に押し掛けてくることはないーー
【前編から続く】
このため、夜逃げは債務整理に入ったという通知を債権者に送った時点で完了、ということになる。
「さきほどの例でいうと、月末を何も払わずにクリアしますよね。その後、外部からの接触を避けるために電話番号やメールアドレスを変えます。それと並行して、連絡先や金額を書いた債務一覧表を作るよう指示します。そして2延ばしてもらった支払い期限の10日くらい前に、債務一覧表を持って、『受任通知』という、債務整理を依頼したことを知らせる文書を弁護士さんに作成してもらいます。この手続き自体は即日で終わるので、翌日か遅くても3日程度で弁護士さんから債権者に受任通知が渡る。それが届く頃にはもう事務所にはいない、という算段になります」
経営コンサルタントとして他にやることといえば、話をつけに債権者や保証人に対してお詫び行脚のアドバイスをするくらいだ。小さい額や身内からの借金の場合は電話で、債券額の大きいところの場合は本人が出向いて頭を下げる。むろん破産なのだから、弁済予定の話をするのではなく、素直に謝ることだけが目的だ。その際、関根は近くまでついていったうえで「絶対にサインはするな」と念を押す。サインをした覚え書きが裏社会に回ってしまうのを防ぐためだ。
「でもね、半分くらいの確率で書いてしまいます。知能が低いんでしょうかね。免責になるってことは返済する必要がないということなのに、情が残っているのかサインしてしまうんです。彼らたちは自分のことだけで精一杯のはずなんです。それなのに土壇場に追い込まれても、個人的なつながりのある人に対しては、どこまでもいい格好をしてしまう。返すあてはないのに『ちゃんと返します』なんていい加減なことを言ったり、ね」
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