「このチームなら、もっとチャレンジができると思える」ように 〜マネーフォワード リーガルソリューション本部の組織効力感を向上するための取り組み〜
私たち、リーガルソリューション本部が提供する『マネーフォワード クラウド契約』は、マネーフォワードの新規事業として2021年5月にサービス提供を開始しました。そしてサービスローンチからこの3年余りの間に、組織はさまざまなフェーズを迎えてきました。
このnoteでは、リーガルソリューション本部の責任者として見てきた、事業成長に伴う本部の変化と「このチームなら、もっとチャレンジができると思える」という高い組織効力感を持つまでの取り組みについてお話します。
チームメンバーの皆さんには本部の歴史を知る一環として、そして、今後リーガルソリューション本部へのジョインをご検討いただける皆さんには 私たちが大事にしたいことについてのメッセージ内容です。
なぜ組織効力感の向上が必要だと思ったのか
組織は事業フェーズによって変化していきます。私たちリーガルソリューション本部も、さまざまな変化を経て現在に至りました。
サービスローンチから2023年2月頃までの1年半は、まさに「0→1」の立ち上げフェーズでした。当初の組織は、インサイドセールスやカスタマーサクセスなど役割分担された形で運営していましたが、各々に深い知見がある訳ではなく、ナレッジや人手が不足している業務は全員でフォローしていました。
例えば、展示会に出展した際には、マーケティングやセールスのメンバーだけでなくBizOpsやカスタマーサクセスのメンバー全員で参加し、全員がお客さまとコミュニケーションを取りましたし、また、商談生成に向けたリストへの架電対応では、全員で200件ずつ電話をかけ獲得数が多かった人を称え合うという取組みも実施しました。新機能をリリースする度に、全職種/全員でテストを行い、バグを発見した人を称えるというコンテストも実施していました。それぞれが未経験な事象に向き合いながらも、組織全員で「この事業を作っていく」という気持ちが前面に出ていたフェーズでもあります。
それから少しずつ成果が出てきて組織が大きくなり、ドメインを理解し、職種経験もある優秀なメンバーが徐々に加わる1→10のフェーズに移行しました。日々のオペレーションも、それぞれの人たちが前職などで経験してきた型を実行するように移行していきます。その頃から組織は少しずつ変化していきました。
印象的で今でも覚えているのは、私が「人手が足りないなら、以前のようにみんなで架電対応をしよう」と発言したときのことです。ミーティング後にメンバーから「架電はプロフェッショナルな仕事で、専門にその仕事をしている人たちに任せるべきです」と進言を受けたことがありました。組織が変わってきたことを実感した瞬間でした。専門の経験を積んだメンバーは業務水準が高く、すぐに成果を上げていきました。既存のメンバーはその様子を見て「すごいね」と見守っていましたが(素直にチームメンバーを称賛できる文化はマネーフォワードの良いカルチャーだと思います)、経験者からすれば「当たり前のことをやっているだけ」という感覚だったのではと思います。
私はチームが成長していくために日々のオペレーションレベルを上げ、成果を出した人を引き上げていきたいと考えていました。成功したメンバーの成果を祝い、そのメンバーのアプローチ方法が組織に共有され、チームとして目標数字を継続して達成するなかで、「私たちはもっとできる」というメッセージを伝え続けながら、この方法が正しいと思っていました。
ところが、チームは私が想像するものとは異なる方向に進んでいきます。成果を出しているメンバーは、自分の思う「べき論」を周囲にも求めるようになりました。そして、成長した業務レベルにまだ追いつけないメンバーは「やるべき」よりも「やれそう」な業務を拾いに行くようになり、結果として「自分は評価されていない」という想いを強くしていきました。メンバー間での溝が深まりはじめていました。
Missionの再定義、目標と役割の再設計、方針や重要アクションの整理、それにともなう中間指標の設定、進捗の可視化と行動評価、成果を出した若手メンバーの抜擢、そして高い目標を再設定し、その辿り着き方を全体会で共有し、、と、必要なことは自分なりに手を打ってきたつもりでした。それでも、チーム状況は芳しくなく、結果、マネーフォワードで半期ごとに実施する「MFグループサーベイ」の項目では「事業そのものや自身の仕事内容には満足していても、同僚にはリスペクトを感じていない」という結果が出るような状態になってしまいました。私自身が作ってきたつもりのモメンタムは「仮初めのモメンタム」であり、本当の意味でチームに自信を持たせるようなモメンタムには繋がっていなかったのです。
マネーフォワードのカルチャーのひとつに「Professional(プロフェッショナル)」があります。その定義は「絶えず成長し、最高の結果を出すために、プロとして高い意識をもってやり抜こう。」というものです。
この言葉自体には疑いの余地はありません。ただ、私が発信する「個がよりProfessionalとして成長してほしいし、その機会を提供できるよう事業規模を拡大したい」というメッセージと、メンバー各々が仕事環境に求める価値観に隔たりがあることを感じるなかで「Professionalというワードに代わる共通言語が必要だ」という思いを強くしていました。
そして決めた研修への参加
上記のような課題感を感じていたとき、人材育成・組織開発コンサルティングを行うMomentorの坂井風太さんの動画を観る機会がありました。
動画では「自己効力感」と「組織効力感」の違いが語られていました。
自己効力感とは、“自分なら”もっと高いチャレンジができると思える感覚です。一方、組織効力感とは、“この組織なら”もっと高いチャレンジができるという感覚。
語られていたのは、
という話でした。
この動画を観たときに、これだ、と思いました。私自身がこれまでメンバーに話し続けていたのは、「Professionalとして自分ができることを増やしていこう。チャレンジすることこそが大事だ」という各々の自己効力感を上げることだけにフォーカスしていたと気付いたのです(それ自体も自身の生存バイアスなのですが)。それぞれのメンバーの自己効力感が上がれば、総和としてのチームもいい方向に進むはずだと思っていたんですね。しかし、そこは繋がっていないことに気づきました。自己効力感の高いメンバーは事業成長が緩やかになった時点で退職し、残ったメンバーが業務負荷に耐えられずに脱落する・・・その未来をイメージして、チームが崩壊する恐怖を感じました。
まさに「メガベンチャー/スタートアップが陥りがちな組織衰退の罠」にはまっている状態なのかもしれないと思った私は、さっそく坂井さんに連絡を取りました。
研修実施にあたり
坂井さんに問い合わせをしてから数ヶ月後、私とリーダーの計8名で、全10回・半年間の「組織基盤構築研修」を受けることになりました。
その時に、参加するリーダーには私から、以下のように伝えました。
よく経営課題として「ミドルマネジメントの育成」という単語が使われることがあると思います。ただ、そう表現している経営陣自身も、またそう表現されるミドルマネージャー自身も、具体的に日々のアクションの何を変更すれば良いのか分からないということもあるのではないでしょうか。「KPI管理とWillと愛とセンスと飲み会」のキーワードだけでチーム運営しないためにはどうしたら良いのか、「とりあえず1on1やろう、コーチング受けよう」というような方法論だけが独り歩きしないためにはどうしたら良いのか、リーダーのみんなと一緒に考えたいと思いました。
この2つを合言葉に、リーダーのみんなと一緒に半年間、向き合っていきたいとの思いで、研修に臨みました。
印象に残った研修コンテンツ
①人と組織の固定観念を解きほぐす技術
研修を受けて、特に印象に残っている学びが三つあります。一つ目は「人と組織の固定観念を解きほぐす技術」です。
人にはそれぞれ大切にしている価値観があり、それは時に凝り固まった観念となることがあります。その結果、目の前で起きている出来事に対して、各自の判断軸に基づいた結果、異なる解釈をしていることも一定あります。仕事にどう取り組むべきかという考えには、人それぞれの正義があると言ってもいいでしょう。その人にとっての「こうやるといい」という成長を支えてきた考えが無自覚に「こうやるべき」「それ以外は認めない」に変わった場合に、「べき論」を発動することで他者の効力感を摘み、時には組織の成長をも止めてしまいます。
常にアップデートする組織でいるためには、今の自分の武器である正義を手放す勇気を持つことが大事だという気づきがありました。自分と違うアウトプットを出す方がいたときに、感じる違和感のまま「観察と評価を同時に行う」のではなく、いったんそれらを手放して、相手の正義の背景(幼少期の体験、社会人としての成功体験や挫折体験)を、まずはただ知ろうと努力することが大事だという学びです。
その理解を促進するために、「9ブロックス」と「アンガーログ」という手法を学びました。9ブロックスは、自身を形作っていると思う大事なキーワードを9つ挙げて価値観の棚卸しを行うワークです。自らの棚卸しをすると共に、ワークを行う相手とキーワードの選定理由や背景を話すことで、互いの価値観の理解につながります。このワークは参加者全員と行うことで、仕事に対して何を求めているのか(何が譲れないことなのか)を再確認できました。
アンガーログは、自分のモヤモヤやイライラを書き出すことで自身を俯瞰する方法です。怒りの感情は他者への不満や憤りの気持ちであることも多いため、怒りを俯瞰することは自分の「べき論」を探る糸口になります。自分のもつ「べき論」に気付けたら、同じ出来事を相手側の視点(正義)で捉え直してみることで、自分の学びとして記録して学習していきます。仮に相手の行動が全面的に正しいとしたら、なぜ相手はそんな発言や行動をしたのかを一度考えてみることで、すれ違いやすいポイントがどこにあるのかを整理することができます。
これらのワークで得られたことは「私自身の正義はその当時の状況において最適なものであり、現在のチーム状況のなかで最適ではないかもしれない」ことを自覚できたことです。自身に点検できる余地があることをオープンにして、一緒に変わっていきたい、とチームに伝えられたことが、チーム全体の「私たちは変われるかもしれない」という空気の醸成に貢献できたのかなと今では感じています。(と、綺麗に書いていますが、事業計画と日々のオペレーションの狭間で、常にストレスを抱え自問自答しながら過ごした日々でした。温かく見守ってくれていたチームメンバーや経営陣に感謝です)
②成人発達理論と、リーダーシップの階層的な育成
二つめは成人発達理論です。子供が大人に成長していくのと同じように、成人してからも知性や意識は発達できる、その成長には段階があるというものです。
大人になり社会に出た当初は、自身に与えられた仕事をこなしながら、やがて成果を出す過程で自分の軸を持つという成長を遂げていく訳です。成長した結果、リーダとしてチームを背負ったり、メンバーの壁打ち相手になるポジションに就く方も多いと思います。そこで自分が成果を出してきた際の軸に固執しすぎることで相手の意見をオープンに受け入れられないと、次にリーダーに上がっていこうとする人たちの芽を摘んでしまうんですね。そうすると、組織としての実行力を作れなくなり事業の成長が止まってしまいます。
もちろん軸を持ちながら、時には厳しい意思決定もできなければリーダー足り得ない訳ですが、常に自身のべき論を持ち出すのではなく、出す時と出さない時をコントロールできること、出さない時に ある種の「居心地の悪さ」に留まれることも能力なんだということを学びました。
③経験学習理論
三つめが、個人および組織にとっての「経験学習理論」です。
よく「高い目標にチャレンジしよう、ムーンショットしよう」ということが語られますが「コンフォートゾーンから出よう、チャレンジしよう」と言って人が変われるのであれば それはその人の性質の賜物です。「今の自分ならチャレンジする意義があり、できそうな気がする。なぜならば~」という「経験してできるようになったことを『コツ化』することが次の機会に繋がる」ということが個人としても組織としても大事だと学びました。
<参考>経験学習とは?
この点も私自身 大いに反省することばかりです。
目の前の課題を解く際に、今の自分でできなければ「有識者に聞く(連れてくる)」「書籍を読む」「まずは小さく実践してみる」こと等が大事だと私は思いますが、それができるのは「過去にそのプロセスを回せたことでの自分への自信」がベースにあるんだという気付きです。有識者に聞くことができた環境であったり、実践期間を見守ってもらえたという、周囲の方の支えがあったからこそ身に付いたことでした。その理解もできていないまま「次はこういう課題を解きにいってみようよ」というコミュニケーションをしていたことは恥ずかしい気持ちです。
当人にとって当たり前のようにできていることが「実は周囲から見たらすごいこと」ということは往々にありますが、その言語化に日々向き合っている人は多くないのではと思います。「今月が先月よりうまくいった部分は何で、何がうまくいったことか」というコツの言語化をサポートし、その人が輝きやすい領域を明らかにしていくこと、また、組織全体として「当該期間で獲得できたケーパビリティは何で、何がうまくいったことか」ということの言語化、この点は今後も意識していきます。
研修によって変わったこと
まず何よりも、私自身がさまざまな気づきを得て、マインドや行動を変えられたことが大きかったと感じています。前段でもお伝えした通り、全10回の研修すべてで新たな気づきやこれまでの自分への反省点が見つかり、これからの道筋が見えた研修でした。
さらに、研修を通じて得たチームとしての大きな収穫は、参加したリーダー陣全員がお互いへの理解を深め、「組織効力感の高いチームを作っていこう」という共通言語を持てたことでした。
それぞれが入社後に獲得したことや価値観を棚卸し、それを相互理解することで、関係性がより深まったと感じています。何より、お互いを理解しようとする姿勢から「私たちはより良い方向に変化できるはず」という認識を共有できたことで、組織効力感が向上したと感じています。
ちなみに、全10回の研修は坂井さんに講師を担当いただきオンラインで実施しましたが、毎回チーム内で「振り返り会」を行いました。振り返り会は手を挙げてくれたリーダーにファシリテーションをお任せしました。振り返り会は、①各自が得たこととこれから活かしたいことを話す、②みんなに聞きたいことを聞く雑談タイムの二部構成です。
振り返り会を通じて目に見えるリーダー陣の変化としては、発言量が増えたと感じています。セクションごとに役割分担をしているなかでは、時に意識が閉じているとちょっとした衝突が起こることもあります。しかし、対立しそうな出来事があったときに、相手の行動の背景を慮って発言をする場面が増え、その変化を実感することがありました。
お互いに「ちょっと理解が難しいな」という瞬間が起きることは勿論ありますが、そのときは研修で学んだアンガーログなどの手法を積極的に活用し、建設的な方向に進もうという意識の変化が生まれたように感じます。
ちなみに、先述の「MFグループサーベイ」ですが、半年後の結果は改善した結果となりました。今後チームが大きくなっていくなかで、また新たな課題は出てくると思いますが、今回の取組みで「私たちのチームは変われる」ことの組織的な成功体験と実践のコツは持てていると感じており、この組織効力感をもとに日々発生する出来事に対して向き合っていきます。
講師の坂井さんにいただいたフィードバック
そして全10回の研修が終了したあとには、講師の坂井さんから振り返り会を打診いただき、追加開催しました。
その場で、坂井さんからは、以下のようなフィードバックをいただきました。
ちなみに、「知的謙虚さ」は、私たちとの研修を通じて坂井さんが論文から見つけて整理してくださった概念とのお話で、要素としては、①自分が絶対とは思わず、②学習愛(全員師匠化戦略)があり、③違和感を覚えたとしても本質的な目的のために自分を変える葛藤ができること、とのことです。
坂井さんには、挙げていただいた 3点により、「メガベンチャー/スタートアップが陥りがちな組織衰退の罠などを巧みに回避しているのが特徴的」とお話をいただきました。
「知的謙虚さ」を持てていたのは、チーム状況が良い状態ではなかったという危機感が背景にあったことは間違いありません。ですので、チーム状況が上向いて見えている状態であってもその状態を継続できるよう、自分たちを定期的に見つめ直しながら、引続きより良いチームづくりを行っていきたいと思います。
最後に
今回の研修を通じて、いいチームを作るには、なんといっても、まず自分から認知と行動を変えていくことの大切さ、そして、チームの構成員一人ひとりがいいチームを作ることを自分ごととして捉えることが大事だなと改めて痛感しました。
文字で書くと、何を当たり前のことを、結論がそれか、という声をいただくかもしれません。ですが、大事なことなので、改めてお伝えします。自分がいる環境を良くするためには、まず自分が変わることが最も大事です。そして、その自身の変化をもとに、相手にも一緒に変わってほしいことを伝えることも重要です。
「そんなことを考えているんだ」「そんな程度なんだ」と思われてしまうかもしれないのは怖いし、自身がなぜそれを正しいと思えるのかの言語化に向き合うことが辛いこともあります。私自身はシード期やシリーズAのスタートアップにいた時に自己開示できずに苦しんだことがあり、その時のことを思い出すのは正直に言うと苦痛でした。ただ、そこに向き合って、まず自分からオープンにしていくことから全ては始まったと感じています。
少し話題がそれますが、これまでお話した研修とは別の取り組みとして、今年は海外エンジニアとのチームビルディングにもトライしてきました。
日本と海外との物理的な距離によって、それぞれのメンバーがどんな人でどんな仕事をしているかわからないという状況を解消するべく、月に一度、日本と海外拠点のメンバーがお互いの状況を理解する場を持つことにしています。その一環として、先日は『マネーフォワード クラウド契約』の開発に関わる海外拠点のメンバー20名以上が日本に一週間滞在し、一緒にチームビルディングを行う機会をもちました。
お互いに顔を合わせて交流できたことで、「このメンバーで一緒に事業をしているんだ」という気持ちを新たにしましたし、ここでも、チーム全員がそれぞれに、いいチームを作るんだという気持ちで参加することが効果を最大化するんだなということを実感する機会にもなりました。
恥ずかしながら、私自身はチーム作りが得意ではなく今でも難しいと常々感じていますし、視野が狭くなっている時に「自分なりの正義」を持ち出しそうになってしまうことも往々にあります。そして「自分たちは一度 良い方向に変わることができたし、次も変われるはず」という根拠のない自信が、もしかすると組織の硬直性を生んでしまっている可能性もあるかもしれません。今回の記事制作にあたり、改めて自身とチームを点検する機会をいただくことで、少し冷静に自分たちを見直すことができました。
もし私のように、組織づくりへの苦手意識があるけれども、もう一度チームで働くことにチャレンジしたい、そんなリーダー経験者の方がいらっしゃるのであれば、新たなチャレンジの場として私たちと一緒にチームを作っていきませんか?リーガルソリューション本部の取組みが気になる方がいらっしゃれば、ぜひお話をさせてください!