仕事が途切れないマーケティングライターの制作術#007 【オフレコトークに持ち込む取材力】
たった60分で初対面の相手から信頼されなければならない
今回のテーマは「相手の懐に入り込み、本音を引き出す取材力」です。私の中では、マーケティングライターの肝は、これじゃないかって思っています。
我々の仕事って、基本的に取材で得た素材をもとにコンテンツをつくるので、一番重要なのは取材力だと思います。私が受けている仕事はいろいろありますが、取材対象は業界の一線でバリバリ仕事をしている人とか、大手企業のトップとか、非常に多忙な人が多く、あまり取材時間をいただけません。基本的には60分、長くて90分です。
当たり障りのない質疑応答だけなら60分あれば十分かもしれません。例えば、ホームページで公開済みの内容とか、オフィシャルな経営方針とか、ニュースリリースした商品やサービスについて教えてもらうだけとか。そうではなく、他の記事には書かれていない開発の裏話とか、失敗談とか、本人さえ気付いていなかった本質的な答えとか、そういう濃くておもしろい話を聞き出せるかどうかが、マーケティングライターの腕の見せ所と言えます。
取材相手にオフレコトークをさせるには「この人なら、ここまで話してもいい」という信頼を得る必要があります。たった60分で、どうやってそこまで深い信頼を得られるか、そこにマーケティングライターのスキルとノウハウが凝縮されています。
信頼を得る方法は、それぞれのライターで異なると思いますが、ここでは私が実践している方法をお教えします。
オフレコトークを引き出す6つのテクニック
①相手を知る
当たり前かもしれませんが、取材の前に相手の情報を広く深く調べることが大切です。ビジネスパーソンであれば、その人の名前で検索をかけ、過去に受けた取材記事、経歴、SNSでの発信などにできる限り目を通します。大学教授や研究者であれば、どんな研究をしてきたのか、論文のタイトルなどを調べます。企業の場合、決算書、中期経営計画、IR情報、さらに競合他社の動向、マーケットシェア、ユーザーの評価なども総合的に頭に入れ、取材に臨みます。
②不安を取り除く
取材で緊張するのは、相手も一緒です。会社員であれば(経営者でも同じですが)、何か失言したら変な記事が世に出て立場が危うくなるかもしれないから、余計なことは話さないようにしようと思うのは当然のこと。そんな状態で取材を始めても、深い話が聞けるはずありません。
なので、最初に不安を取り除く言葉から取材を始めましょう。この記事は公開前に確認することができ、失言は削れるし、言い足りなかったことは捕捉できるから、ざっくばらんに話してくださいと。最初にそう宣言するだけで、現場の空気はガラッと変わります。
③信頼関係を築く
いかに早く相手の信頼を得るかは、取材の成否を左右します。私の場合、最初の10〜15分を信頼関係構築タイムと位置付けています。
まず、いきなり難しい質問をしないこと。相手が話しやすい話題を振り、たくさん話してもらいます。その際、なるべく口を挟まず、頭をフル回転させて、その人の話を最大限に理解し、目を逸らさず、大きく相槌を打ちます。
重要な言葉が出てきたら、その言葉をおうむ返ししながら再確認します。例えば「先ほど、ユーザーの低年齢化が進んでいるとお話しされましたが、それはあえてターゲットを下げた機能を盛り込んで戦略的に低年齢層へアプローチしたと言うことですね?」といった具合です。この「先ほどお話しされた○○○は、△△△ということですね」と最適な置き換えを行なった上でのおうむ返しをすることで、相手は「ああ、この人は自分の話をわかってくれている」と思い、これが信頼の第一歩になります。
④キーワードを盛り込む
先ほど「この人はわかってくれている」が信頼の第一歩になると話しましたが、それをどんどん深めて、信頼を強固にすることが、取材を成功に導くポイントです。
そのために必要なのが、業界人や専門家しか知らない「キーワード」を質問の中に組み込むテクニックです。
専門家に取材すると「素人のライターに専門的な話をしても理解できないだろう」と判断され、肝心な話を一切してくれないことがあります。この壁を突破するには「こいつわかっているな」と思わせる方法が有効です。
例えば、「ところで、製薬業界ではオンコロジーケアからスペシャリティケアへ市場が移行しつつありますが・・」みたいなキーワードをさりげなく使って質問すると、相手の態度が変わり、どんどん取材内容が深まり、オフレコトークまで持ち込めることが、よくあります。
ただ、「私は素人なので、間違った理解をしているかもしれませんが」と枕言葉をつけることを忘れてはいけません。そうしないと、本当に専門的な話に突き進まれてついていけなくなり、逆に信頼を失い、取材が失敗に終わるリスクがあるからです。
⑤豪速球あるいは変化球を投げる
話が深まってきたところで、核心をつく豪速球や変化球を投げることで、他では聞き出せない本音を聞き出せることがあります。
豪速球(変化球)とは、相手が聞かれたくないと思っている「痛いところ」をつく質問です。例えば「御社の製品の性能は世界トップレベルですが、通信機能が5Gに対応していないのは、戦略的な意図はあるのですか?」といった具合です。
この質問は、信頼関係ができていないと相手を怒らせてしまうリスクがあるので、しっかり相手との距離を見極めた上で投げ込まなければいけません。また、明らかに相手が答えたくないという態度を示したら、速攻で違い話題にすり替える技も必要です。
豪速球がハマると、記事全体のインパクトが高まるので、このテクニックはぜひ身につけたいものです。
⑥雑談にお宝が眠っている
「これで取材は終了です」と言ってICレコーダの電源を切ってから始まる雑談に、お宝が眠っていることがあるので、ここを蔑ろにしてはいけません。
このアフタートークで、公式には聞けない個人的な質問を投げかけてみると、予想外の本音が顔を出すことがあります。その言葉が記事に使える場合は「今の言葉、すごくいいので記事に使っていいですか?」と必ず断ってから使いましょう。
このアフタートークの言葉を黙って記事化する行為は、信頼関係を壊し、クライアントにも迷惑をかけるので絶対にやってはいけません。マーケティングライターがマナーと言えます。
いかがでしょうか?多分私の仕事が途切れない理由のひとつは、この取材力にあると思うので、このスキルを身につければ、きっとたくさん仕事がくるマーケティングライターになれると思います。
また、発注側の方は、あなたが依頼したライターの取材でここに書かれた内容ができているかチェックしてみると、力量を測ることができると思います。
実は、この技術やノウハウってマーケティングライターだけに通用するものではなく、さまざまな商談や面接、調査などにも応用できるので、ぜひ参考にしてくださいね。
次回は番外編として、私がこの「仕事が途切れないマーケティングライターの仕事術」を書き続ける本当の理由を、暴露しようと思っています。
よろしくお願いします。
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