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[立ち止まる勇気] 僕がハーバードに行く前に半年ニートになったワケ

2016年4月、僕は新卒で3年間勤めた外資系投資銀行を退職し、ニートになった。

同年8月末からハーバード大学デザイン大学院への進学が決まってはいたものの、出発まで勤め続けることだって出来た。なんたってハーバードの学費は年間700万円弱、生活費も入れると2年間の留学で約2,000万円の出費にもなる。僕は私費留学だったので、本来であれば働き続け、少しでも大学院留学費用を稼いだ方がよかったのかもしれない。投資銀行で昼夜、平日・週末を問わずがむしゃらに働き、堅実に留学費用を貯めてきたとは言え、必要とされる2,000万円は手元には無かったのだし。

また、周囲からは「将来のキャリアのためにもレジュメに空白の期間は作らない方がいい」、「留学まではきちんとフルタイムで働き続けた方がいい」と言われもした。

それでも、僕は約半年間ニートになることを選んだ。そのワケは3つある。

①登り続けることに疲れた

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昨年、日本の大学生の方々を対象としたセミナーで"Live like climbing a down escalator (下りのエスカレーターを登るように生きる)"というテーマで、自身のこれまでの歩みについて話す機会を頂戴したことがある。その時に強調したのは、「自分自身にチャレンジし続けること」、そして「経験をアップデートし続けること」の2つ。

今読まれている方の中に当時の僕の話を聞いた方がいらっしゃったら、「あれ?立ち止まれなんて言ってなかったぞ」と思われるかもしれない。

でも、この話には続きがある。

好きな言葉の一つに"Stop and smell the roses"という言葉がある。直訳すると、「立ち止まってバラの香りをかいでごらん」。忙しない毎日、時には立ち止まり、花の香を楽しむ余裕を持つように、今という瞬間を大切に生きようという意味が込められた言葉である。

エスカレーター校で周囲がそのまま系列大学に進む中での他大学受験。日本生まれ日本育ちなりにもがき苦しんだイギリスへの交換留学。3カ月の長期インターンを経て勝ち取った外資系投資銀行への就職。投資銀行で働きながらの米国大学院への出願。それまでの僕は誰に言われるでもなく、常に下りのエスカレーターを登るように生きてきた。

でも、社会人3年目の時、ふと休憩が必要だと思った。自分でも気付かない内に心が摩滅してきていたのだと思う。エネルギーのチャージが必要だった。

そこで僕は一度立ち止まり、自分の人生と向き合う時間をとることにした。

②「本当に自分のやりたいことは何か」と向き合う

登り続けることに疲れたら、少し立ち止まってみればいい。立ち止まることは、これまで登ってきた高さ、即ち現在の自分の立ち位置がどれくらいなのかを俯瞰することでもある。  また、自分の心の声にゆっくりと耳を傾ける機会でもある。

僕は人が本当にやりたいことや好きなことは、どこか直感的に感じるところがあると思っている。とりわけ、ストレスフリーな状態、かつ感覚が研ぎ澄まされているときに。僕の場合、それは旅をしているとき、一人で静かに思索にふける時間を意図的に設けるとき、雄大な自然に身を委ね没入していくときに多く起こる気がしていた。だから、これまで訪れたことの無い場所へ旅に出ることにした。ソローが自分と向き合うためにウォールデンの森に入ったように、自然溢れる場所を旅することにした。

ハーバードへの進学は決まったし、もちろん都市計画やまちづくりへの熱量はある。とは言え、ひょんなことから留学までの半年間で他にやりたいことが出てくるかもしれない。そうなればハーバードへの進学も辞め、違う道を歩めばいい。そう思っていた。もちろんバックアッププランなんて無かったけれど。

半年の間で色々なところを訪れた。

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伊勢神宮にお参りし、その傍を流れる五十鈴川のせせらぎに耳を澄ませた。心が洗われ、身が引き締まっていく感覚があった。

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青森の秘境、電波も入らないような山奥にある青荷温泉に浸かり、ただただ残雪と流れゆく雲を眺めていた。そんな中、雪の下から少し顔を出し始めたフキノトウを見て、生命の神秘とその力強さに胸を打たれた。

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屋久島では深い森に入り、もののけ姫の世界に身を委ねた。美しい苔がうっそうと茂る白谷雲水峡に樹齢7200年とも言われる雄大な縄文杉。まるで太古の自然の中にいるかのような錯覚と共に、自分がどれだけちっぽけで、いつもの悩みがどれだけ小さなことかを思い知らされた。

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広島の尾道からは、対岸の愛媛・今治を目指し、しまなみ海道を自転車でひた走ってみた。サイクリング経験なんて全くなかったけれど、デニムをはいたまま、気合いだけで何とか80kmの道のりを4時間半で走り切った。「しまなみ海道」というそのひらがなの優しい響きから、単調で平坦なルートだと思っていたら、これが大間違い。島と島を結ぶ橋に上る坂道、峠道のドラマチックなこと。終わりの無いアップダウンの繰り返しを、これこそまさに人生の縮図だなんて思えたのはもちろん走り終わった後のこと。

傍から見ればただ単に都会の喧騒を離れるための旅に見えるかもしれない。でも、そうこう旅をする中で人としての本能、直感が研ぎ澄まされていく感じがあった。そして思索にふける中で得たのは、自分はやっぱりまちとひとを育む仕事をしていきたいという気付き、確信だった。都市に、デザインに終わりは無い。こういう美しい日本の景色、文化を次代に遺しつつ、新しく、面白い付加価値を見出せないかと。そのためにまずは存分に学ぶのだと。

③家族や大切な人との時間を持つ

忙しない世の流れの中で、人はいつしか急ぎ足になる。投資銀行に勤めながらの大学院留学出願は想像を絶するもので、正直一杯一杯になっていた。余裕も無く、感謝を忘れ、当時支えてくれた大切なはずの周囲の人々に当たってしまったこともあった。このままでは自分らしさを失ってしまうことになるという危機感があった。

そこで自分らしさを保つためにも、「自分にとって何が一番大事か」を考えた。その答えは、自分にとって大切な人たちと過ごす時間だった。僕は大学から東京に出て、イギリスに留学し、大学卒業後も東京に残って働く道を選んだ。例えば時間を見つけては地元に帰って家族との時間も持っていたが、激務の中でそんなに自由に時間をとることができていなかった。その反省があった。ならば仕事を辞め、アメリカに行く予定の8月まで、自分と向き合うことに加え、大切な人たちとの時間を最大化しようと考えた。

大切なものは失って気付くとはよく言うけれど、本当にそうだと思う。自分にとってかけがえのない人たちとの時間は惜しみなく作り出した方がいい。また今度と言っている内に、もう今度は来ないかもしれない。自分にとって大切な人を大切にすることに躊躇しちゃいけない。

立ち止まる勇気

最近、色んな方から留学やキャリアに関する悩み相談を受ける機会が増えてきた。ついこの間も後輩の相談に乗った際、「井上さんて悩みの無い人だと思ってました。全てが順風満帆なように見えてたので、井上さんも苦労されてたんだと知ってどこか安心しました。」と言われた。

傍から見たら順風満帆に見える人でも、自分の生き方や将来について考え、悩んでいる。誰だって悩む。僕自身、時には見えない不安に押し潰されそうになることもある。

つくづく、人生というのは車を運転するのに似ていると思う。車の免許を持っている人なら分かって頂けると思うが、免許講習ではアクセルのかけ方のみならず、ブレーキについても習う。でも、生きるということについて同じようなことを学ぶ機会はめったにない。小さな頃から前を向いて走ること、周囲と競争することは習っても、どう止まるかなんて習ったことの無い人が大半だろうと思う。当然、どっちに走ればいいかを示す標識なんて無い。そして、そうこう暗中模索しながら走り続けている間に気付けば燃料が切れて動けなくなる。これは当たり前のことだ。

「あーダメだ。」と一杯一杯になりそうなとき、煮詰まりそうなとき、一歩立ち止まる勇気を持って欲しい。

立ち止まることは逃げじゃない。  立ち向かうことだ。

立ち止まることは守りじゃない。攻めだ。

充電が完了したら、あるいは進む先がうっすらとでも見え始めたら、また一歩ずつ着実に歩き出せばいいのだから。

おわりに

この記事を書いたのは、よーいどんで走る必要は無いのだということ、疲れたら休んでいいのだということをお伝えしたかったからに他なりません。学校、キャリアや恋愛・結婚。日本ではレールから外れること、平均から乖離することは「負け」、あるいは「能力不足」と同義的に捉えられがちですが、それは違います。色んな歩み方があっていいんです。

人生は短距離レースではなく、マラソンです。走り続けると体が水を欲するように、心もエネルギーやモチベーションを必要とします。自分のペースで進めばいい。頑張りすぎて、無理しすぎて自分らしさを失くすことほど寂しいことはないので。少しでもそんなメッセージをお伝え出来ればと思い長々と書きました。 (思いのままに書いていたら、取り留めのない文章になってしまいました。長々とすみません汗)

最後までお読み頂き有難うございました。

自己紹介

井上貴文。2013年に慶應義塾大学総合政策学部を首席にて卒業後、メリルリンチ日本証券に新卒入社。投資銀行部門で企業の資金調達やM&Aのアドバイザリー業務に従事。大手デベロッパーの資金調達業務を通じ、従来からうっすらと抱いていた「日本や世界の都市計画、まちづくりに携わりたい。」との自身の強い思いを再認識し、3年勤めたメリルリンチを退社。2018年、ハーバード大学デザイン大学院(都市計画学)修了。現在は米国ボストンに本社を置く都市計画・デザイン事務所Sasakiに勤務し、世界の都市(主に途上国)やキャンパスプランニング、コミュニティ・エンゲージメント等に従事。デザイン、政策、金融、テクノロジー等のアプローチを駆使しながら、アーバンプランナーとして都市が抱える問題解決に取り組んでいる。米国都市計画家協会所属。

一言で言うと、まちとひとの未来を育む仕事をしています。  尚、留学やキャリア形成について書いているブログはこちら、Twitterはこちらから。よければどうぞ。

今後もたまーに書いていこうと思うので、皆さん応援して頂けると嬉しいです!

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