Parametric Swimming - 巨人のプールを泳ぐ
この Zine には、筆者がフィルムカメラで撮影した写真と、プログラミングによるスケッチ、またそれらを画像生成 AI を使って合成・改変したものが掲載されています。
5 年ほど前にフィルムカメラを購入しました。友人に勧められ半ば無理やり始めたのですが、その写りと機械式のシャッター音に感動してからというものの、どこかに出かける際には必ず持ち歩くようになりました。
カメラを持って歩くと、日常の風景がいつもと違って見えます。フィルムなのでその場で写りの確認ができません。枚数も限られています。自然と、うまく撮るために、構図や光を意識するようになりました。虫カゴと網を持って遊びに行くような気分でした。
街を歩いていると、色々な形が目に入ってきます。規則正しく並んでいるもの、そうでないもの、有機的な自然のパターン、人の動き。
こういった「かたち」や動きをプログラミングを使って表現する営みに、Creative Codingというものがあります。p5.js や Processing といったツール、それと Web ブラウザと少しの数学の知識さえあれば、繰り返しやパターン、ノイズを使ってスケッチが描けます。花の形や波の動き、山の曲線に感動したら、それを再現しようとすることもできるのです。
Creative Coding の表現では写真を活用することもあります。例えば風景写真の色をカラーパレットとして使うと、見慣れているためか統一感が出ます。また画像のピクセルを改変するのも面白いです。モザイクやドット絵のようなものを作れます。
ではそのように写真をスケッチに活用するだけでなく、スケッチの「かたち」を写真に取り込むことができないか。この Zine では、画像生成 AI である Midjourney を主に使って、それに取り組んでみました。
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現状の画像生成 AI は「プロンプト」と呼ばれるテキストを使って指示をするものが多いですが、画像で指示を出せるものも出てきています。今回は Midjourney の blend コマンドを使い、写真とスケッチから新たな画像を合成するところから始めました。
是非ページをめくって結果を見てみてください。うまくいっているかは意見が分かれると思いますが、面白い画像がいくつも生成されました。コントロールにはコツが要る一方、予想外の画像が次々と出てくるため、ついつい夢中になってしまいました。
しかし 0 からつくるのとは違う感覚があった気がします。例えるならば、意味の海に写真を投げ込む「釣り」のような、もしくはもう少し能動的に「泳いでいる」ような気持ちです。目の前に広がるのは先人達の知恵と感性です。これは誰の作品なのでしょうか。
考えてみればカメラで気軽に撮影できるのも、コードで絵を描くことができるのも、AI で 魅力的な画像が生成できるのも、その実現の裏には高度な技術があります。それに情熱を注いだ技術者達がいます。さらに画像生成 AI は、たくさんの芸術家の絵や写真によって成り立っています。
自分(だけ)の作品はあり得ません。しかし、先人と戯れることには意味があるはずです。「巨人の肩の上に立つ」という言葉がありますが、ただただ 「巨人の海」あるいは「巨人のプール」を泳いでる感じでしょうか。肩から遠くを見渡そうなんては思っていなくて、ただ漂っています。泳いでいます。そこに生まれる感性や身体感覚は自分だけのものです。
泳いでいるうちに、筋肉がついたり、どこかに漂流したりするかもしれません。
(Zineの序文として書いた文章です)
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