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小さな自殺報道の記事と相談ダイヤルの扱い
9月2日の東京新聞の社会面に小さく掲載されていた以下の記事。東京新聞Webで見つけられなかったので朝日新聞のを引用します。
17歳の女の子が12階から飛び降り、落ちた先にいた女性も死亡した非常にいたたまれない事件。
1週間に10人の小中学生が自殺している
日本は年間約500人の小中学生の自殺者数、10代の自殺者数は約700人となっています。これは1週間に約10人の小中学生が自殺していることになります。
今回のケースは、巻き込まれて死亡したこともあってニュースとして(それもとても小さくですが)取り上げられたのだと思いますが、このいたたまれない事件のようなケースは新聞やニュースで見ないだけで、実はたくさん起きている状況があるのです。
日本の子どもの精神的幸福度は、ユニセフの2020年の報告書によると、38カ国中37位という非常に低い評価を受けています。この評価は、生活満足度と自殺率を指標にしたもので、日本は身体的健康に関しては1位であるにもかかわらず、精神的幸福度においてはほぼ最下位となっています。
よく見かける相談ダイヤルの紹介
そして、引用の朝日新聞の記事にもありましたが、東京新聞にも、記事の紹介の隣に、各種相談ダイヤルの掲載がされていました。
例えば、日本新聞協会が定める「自殺報道に関する指針」では、自殺に関する報道の際は、必ず相談先の電話番号を掲載するよう求めているそうです。2006年に「自殺対策基本法」が定められ、国や地方公共団体が自殺対策を総合的に推進することが決まったことで、自殺に関する報道機関の在り方は、新聞に限らず、テレビやラジオなど、様々なところで見直されてきています。その結果、自殺等の報道の際には、度々相談機関の名前を見かけるようになりました。厚生労働省もこれを機に、足りない相談先を増やすために、民間団体などへの補助・助成を増やしてきた背景があります。
ずらりと並んだ相談先の違い、判別できる?
朝日新聞には以下のように掲載されてありました。これ、こんな形で書いてあって、みなさんだったら、どこに相談するかどうやって選びますか?
おそらく24時間なのか、LINEなのか、とか手段で選ぶしか方法がないように思います。
【#いのちSOS】0120・061・338 24時間受付
【いのちの電話】0120・783・556 毎日午後4~9時
【チャイルドライン】0120・99・7777 毎日午後4~9時 対象は18歳まで
【24時間子供SOSダイヤル】0120・0・78310 毎日24時間
【生きづらびっと】LINE @yorisoi-chat
【あなたのいばしょ】チャット相談(https://talkme.jp/)
そもそも自殺報道の際にこういった相談機関を記載するのは、他人の自殺報道は、非常に刺激としては強く、自殺願望が誘発される可能性があることからだといわれています。
特に芸能人等が自殺した際には、自殺者数が増加する可能性があるとされており、心理学や社会学の観点から「模倣自殺」や「後追い自殺」として知られています。この現象は、著名人が自殺した場合、その影響を受けて同様の行動を取る人が増えることを指します。
こういった報道による自殺促進を阻止するための取り組みでもあるのです。
しかし、上に並んだ相談先はそれぞれに個別の特徴があり、それらについてはあまり紹介されていません。もしかしたら、あまり書きすぎてしまうとかえって躊躇させてしまうからなのかもしれません。
行政主導の相談ダイヤル、民間主導の相談ダイヤル
例えば、【#いのちSOS】0120・061・338 24時間受付 は、厚生労働省が自殺対策の一環で立ち上げた法人が運営しています。HPを見ると、「厚生労働省指定法人」と記載がされていることからもわかります。
一方で、名前の似ている【いのちの電話】0120・783・556 毎日午後4~9時 は、日本いのち電話連盟が運営していて、全国50か所の地域拠点と連携しながら、無償のボランティア相談員による市民活動となっています。
この2つは、自殺相談のダイヤルとして、それぞれ行政主導・市民主導とまったく異なる形で立ち上がった取り組みです。自殺相談ダイヤルなので、子どもや若者に相談相手を限定しておらず、実際の利用者は高齢化している現状があります。それらに対応すべく、LINEや、メール相談等の導入もしたりしていますが、子どもの相談に特化しているわけではないことは変わりありません。
一方で、以下の2つは自殺相談に限らず、子どもの相談を幅広く受けている相談ダイヤルです。
【チャイルドライン】0120・99・7777 毎日午後4~9時 対象は18歳まで
【24時間子供SOSダイヤル】0120・0・78310 毎日24時間
チャイルドラインはこれもいのちの電話相談のように、ボランティア相談員が相談に乗ってくれるものになっています。全国各地にあるチャイルドラインの拠点を一般社団法人チャイルドライン支援センターが統括している形になります。
一方で、24時間子供SOSダイヤルは、文部科学省が立ち上げたものになります。相談主体も、全国の教育委員会となっており、もともと教員や校長だった人たちや、教育委員会が採用している心理士等が相談を受けています。
教育委員会が主導で、どこまで子どもの相談に幅広く乗れるのだろう?とお思い、3keysでもその実態を把握するために全国調査を行いましたが、つながるエリアによって、対応できる相談内容にばらつきがあります。基本的には、いじめ相談のダイヤルになっているので、自殺よりもいじめの方が強くなっている相談ダイヤルだと推測できます。
このように、相談ダイヤルごとの特色がそれぞれ違っていて、行政だったら相談したくないとか、ボランティアは嫌だとか、それぞれあるのではないかと思います。ただ、やっぱり情報が多いとよいかというと、相談のハードルを上げてしまいかねないので、このあたりのバランスは難しいなと思います。
一方で、上記の24時間子供SOSダイヤルの調査結果がそろって、各メディアにお知らせした際に、その関心の薄さというか、いつもに比べて取り上げていただくことがほとんどなかったことがとても印象的でした。
結局掲載されたのは朝日新聞系列のこちらのみ
最終的にどのような情報を乗せるかについては様々な意見があるとは思いますが、少なくても掲載する情報について正しく知った上で掲載する責任はあるように思います。何社かと実態調査を一緒にしてほしいと話しましたがそれもなかなか叶わず。
日常的にファクトチェックをおこなっているか否かの調査では、22社中、8社(新聞5社、テレビ3社)が「おこなっている」という結果にもなっており、まだまだ紹介すればOKという状況になっているのではないかと推測します。何を掲載するのか、その掲載するものは本当に役に立つのか、大変だとは思いますが、とても大切な取り組みではないかと考えています。
手前味噌ですが、10代向けにこんなサイトを運営しています。相談機関ごとに微妙に異なる違いを悩みの種類や、利用方法、対象エリアなどで検索できるようになっています。こどもひとりでも相談できる相談機関が全国600箇所ほど紹介しています。意外と多いですよね。
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