【ショートショート】事件現場

※流血、グロテスクな描写ややあり。

 殺人事件が起きたとの連絡を受けた。
 刑事である私は新米の刑事・中村を連れて、現場に向かう。
 中村はまだ20代の若い女性だ。
 今回、彼女にとって初めての殺人事件となる。

 移動中の車の中。
 運転は彼女。私は助手席に座っていた。
 中村は昼食がまだだったのか、ハンバーガーを食べながら運転している。
 それを見て、私は声をかけた。

「中村。お前、死体を見るのは?」
「はい!今回が初めてです!!」
「そうか……。食事は控えておいた方がいいぞ……」
「いえ!大丈夫です!」

 私は長年、刑事をやっており、いろんな死体を目にしてきた。

 初めて死体を見た時。
 情けなく現場から飛び出し、木の影でゲーゲー吐いて苦しんだ。
 あまりにも強烈だったのか、数日間は食事がのどを通らなかった。

 だが、何度も何度も殺人事件が起き、死体を見ていく内にだんだん吐き気を感じることはなくなっていった。
 今では死体を見たばかりか、死体の写真を見ながらでも、食事が出来る。

 死体を見ることに慣れてしまったのか?
 それとも、殺された仏さんに対して、なにも感じなくなってしまったのか?

 どちらにせよ、この仕事は何故、人が殺されたのかを明らかにしなければならない仕事だ。
 だから、余計な感情はない方が仕事がスムーズにできる。

 ただ、心配なのは、隣でハンバーガーを食べている新人が現場で嘔吐しないかだけだ。

 現場に到着。
 高層のマンションだ。
 車から降り、私と中村はマンションのエレベーターに乗った。

 ……。

 ……中村はまだハンバーガーを食べている。
 アレ?まだ食べきっていないのか?
 エレベーター内にクチャクチャという音が響く。

 エレベーターから降り、殺人が起きた部屋へと向かう。
 鑑識や警察官たちが次々と私に敬礼する。
 警察官の一人が、私に近づく。

「今回の遺体は相当酷いですよ……」

 私と中村は遺体のある部屋へと向かった。
 部屋中に血が飛び散っており、強烈な臭いが。
 遺体は床の上にあり、ビニールシートがかけられていた。
 隙間から真っ赤な鮮血が流れている。

 私は手を合わせた。
 そして、ビニールシートをめくる。

 ……。

 これは確かに酷い……。
 一体、犯人はどれだけこの被害者を恨んでいたのだろうか?
 あまりの惨さに、近くの警察官は口を押さえていた。
 中村は大丈夫だろうか?
 ふと、中村の方に目をやった。

「……こ、これは酷いですね……。こんな風に人を殺めるなんて……」

 ……。
 中村はハンバーガーを食べながら、死体を見ている。
 その場にいた全員が呆然とした。

「いや、本当に酷い。なにを思って、こんな残酷なことが出来るんでしょうか?」

 中村はじっくりと死体を見つめて、ハンバーガーを食べている。
 しかも、シェイクまで飲み始めた。いちごシェイクだ(容器が透明だからわかる)。
 この場に居る全員が顔を真っ青にして、口を押さえる。

「一体、犯人はなにを考えて、こんな風にグチャグチャになるまで人を殺したのでしょうか?まるで、悪魔です!!」

 ハンバーガーをガツガツと食べ、ジュルジュルとシェイクを吸いながら、中村は言う。
 私にはお前の方が悪魔に見える。

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taka田taka夫
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