【ショートショート】覆面レスラー!アボガド・ワンチョイ!!
「ぼ、僕と付き合ってください!」
会社の屋上。僕は同僚の野村凛子さんに告白した。
彼女の黒く長い髪の毛が風になびく。
僕のいきなりの告白に驚く凛子さん。数秒の間があった後……。
「はい。喜んで」
凛子さんは笑顔で答えてくれた。
僕は思わず、ガッツポーズで「よっしゃ!」と叫んでしまう。
……。
それから、数日後の日曜日。
僕は凛子さんとデートをしている。
夏真っ盛りの公園を、二人で会話しながら歩く。
幸せだ……。
しばらく公園内を歩いた後、僕と凛子さんは近くの喫茶店でランチをすることにした。
窓際の席に座る僕と凛子さん。
食事を終えた後、アイスコーヒーを飲みながら、僕と凛子は語り合った。
「僕は納豆にはネギと卵、両方入れます」
「私も納豆にはネギと卵を入れます。美味しいですよね」
「ええっ!?凛子さんもそうなんですか!気が合いますね!」
些細なことで喜ぶ僕を見て、凛子さんは微笑んでくれた。
他愛のない会話だが、楽しい。本当に楽しい。
こんなに素晴らしい女性と今、一緒にこうして会話をしているなんて……。
ずっと、この時間が続けばいい……。
そう思った時だ……。
喫茶店のドアが開き、ガランガラン!とベルの音が鳴る。
思わず、僕と凛子さんは、ドアの方に顔を向けた。
すると、そこには身長200センチ以上はあるであろう巨漢が居た。
その男は夏だってのに長袖長ズボンの白いスーツを着ており、更にはプロレスラーが被るようなマスクを被っている。
な、なんなんだ、あの男……。
喫茶店のウェイトレスさんも、その巨漢におっかなびっくりしている。覆面を被った大男が突然、店に入ってきたのだ。驚かないわけがない。
覆面の男は、店のカウンター席に座る。
座っている椅子が壊れないか不安になるぐらいに男は大きく、着ているスーツもパツンパツンで生地が今にでも破れそうだ。
店内に居るお客さんたち全員が、その覆面の巨漢を見ている。
僕も覆面の男から目が離せないでいた。
「だ、誰だろ……あの人?覆面被ってるし……プロレスラーかな?」
すると、凛子さんは男を見つめながら口を開く。
「あ、アボガド・ワンチョイ……」
へ?
いきなり聞いたことのない言葉を言う凛子さん。
アボガド……ワンチョイ?
凛子さんはそう言いながら、大きく目を開け、身体を震わせる。
「あ、アボガド・ワンチョイ……。アボガド・ワンチョイ!!」
謎の単語を叫びながら、物凄い勢いで椅子から立ち上がる凛子さん。
「え!凛子さん、どうしたの!?」
さっきまで穏やかな雰囲気だった凛子さんが一変。
急に必死な表情で店内を走り出す。
な、なんだ!一体、どうしたんだ!?
「アボガド……アボガド・ワンチョイ!!」
凛子さんはアボガド・ワンチョイと何度も叫びながら、覆面の男の近くに立つ。
覆面の男は声に気づいて、凛子さんの方に顔を向ける。
すると、覆面の男は、
「り、リンコ……!」
と、かなり低い声で言った。
覆面で表情はわからないが、男は凛子さんを見て驚いているようだ。
え?どういうこと?2人は知り合いなの!?
ていうか、凛子さん、あの覆面の男を知っているのか!?
僕は呆然と、凛子さんと覆面の男を見つめた。
「アボガド……アボガド・ワンチョイ!!」
凛子さんは、またアボガド・ワンチョイと言った。
……もしかして、アボガド・ワンチョイとは、この男の名前なのか?
しかも、何故か、凛子さんの目から涙が流れている。
覆面の男は椅子から立ち上がり、
「リンコ……、リンコ!!」
と、凛子さんの名前を叫ぶ。
一体、どういう関係なんだよ、あの二人は!?
ていうか、なんなんだよ、あの男は!?
なんで、覆面を被っているんだよ!?
僕が、あの二人は一体どういう関係なのかを考えていると……。
「あ」
覆面の男と凛子さんは、その場で抱き締め合った。
まるで、アメリカ映画のクライマックスによくあるラブシーンのように。
大きな男の身体に包まれる小柄な凛子さん。
それを見て、僕の思考は停止した。
「アボガド……アボガド・ワンチョイ!!」
「リンコ……!リンコ!!」
二人は互いの名を呼びながら、抱き締め合い、そして……。
「あ」
覆面の男と凛子さんは、唇と唇を重ねた。
まるで、アメリカ映画のクライマックスによくあるラブシーンのように。
僕の脳は今、なにが起きているのか理解できなかった。
すると、いきなり店内に居る人々全員が立ち上がり、大きな拍手をし始める。
「おめでとう!おめでとう!!」
「絶対に、幸せになりなさいよー!!」
「末永くお幸せにー!!」
「若いって、いいのう……。なぁ、ばあさんや……」
「ええ……」
僕以外の店内に居る人々全員が、次々と二人に祝福の言葉を送る。
唇を離す二人。
「リンコ……」
「アボガド・ワンチョイ……」
凛子さんは、そのまま覆面の男に持ち上げられ、お姫様だっこの状態になった。
覆面の男は、凛子さんをお姫様だっこしながら、店のドアへと向かう。
僕以外の店内に居る人々は、まだ拍手をやめない。
覆面の男と凛子さんは、ドアを開け、そのまま店から出て行った。
店内にはまだ拍手が鳴り響く。
……。
なんだ、これ?
完
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