【小説】「山城五判は動きまくる ー納得行かない結果発表ー」
※この作品に登場する人物、及び、作品、場所など、すべて架空のものです。
「もうやってられるか!!こんな漫画ぁあああーーーー!!!」
週刊少年ダンプで連載中の漫画『恋するサイコキラーちゃん』の作者、山城五判《やましろ ごはん》は、自宅の作業部屋で発狂し、自身の描いた漫画の原稿用紙を床に投げ捨てる。
山城五判は白紙の原稿用紙や資料集、ペンや定規などを次々と床に投げ捨て、作業部屋は惨状と化した。
黒いインクが床に落ち、辺り一面が黒く染まる。
「落ち着いて下さい!五判先生!!」
山城五判の担当者である弘前浩二《ひろさき こうじ》は、暴れる山城五判を羽交い締めにした。
だが、それでも山城五判は暴れるのをやめない。
「離せ!!離すんだ!!この資本主義のブタめ!!僕は今から、原稿用紙にあの世界一有名なアメリカネズミの絵を描いて、この漫画を終わらせてやるんだ!!!」
「やめてください!それだけは、やめてください!!本当に、マジで!それだけはやめてください!!いろんな意味で終わっちゃいますから!!!マジで、アメリカネズミだけはやめてください!!」
荒れる山城五判。
弘前は仕方なく、山城五判の首にネックロックをする。
ゴキッと鈍い音がすると、山城五判は落ち着いて床に倒れ込む。
高校時代の弘前はレスリング部だった。
……。
なんとか落ち着いた山城五判は、作業部屋にあるソファーに腰深く座り、不満げな表情をしている。
弘前は床に散らばるインクで染まった原稿用紙や資料などを拾い集め、床に置く。
弘前は山城五判に目を向けた。
「一体なにがあったんですか、先生?なんで、一人で大暴れしていたんですか?」
罰の悪そうな顔をする山城五判。
「なにが不満なんですか、五判先生ー。先生の漫画は今、大人気じゃないですかー。単行本の売り上げも好調。雑誌のアンケートでも上位。絶好調じゃないですかぁー。それに今、TVでアニメも放送してますしー。それに劇場版だって決定して……」
弘前の言葉を聞いた山城五判は額に青筋を浮かべ、勢いよく立ち上がり、
「貴様!この山城五判が、金や名誉、アニメ化、そして、チヤホヤされるために漫画を描いていると思っていたのかぁああーーー!!?」
と、大きな声で叫んだ。
「はい、思ってます。世の中、金だし。金で解決できないことはないし」
弘前はえらく冷静に答えた。
山城五判はもうそれ以上なにも言えず、立ちすくむ。
「だから、五判先生ー。一体、なにがそんなに不満なんですかー。まずは、先生が暴れていた理由について話してくださいよー」
「……うるさい。黙れ、資本主義のブタ。貴様なんぞに、俺の苦しみがわかるか……」
「そんなこと言ってると、原稿料、渡しませんよ」
「わかった。話す。話すから。お願い。それだけはやめて」
山城五判は必死だった。
「じゃあ、話してください。なんで、暴れてたんですか?」
「……こないだ、読者投票によるキャラクター人気投票をやったろ……。その結果が納得いかなかったんだよ……」
舌打ちをしながら、山城五判はソファーに座る。
不思議そうな顔をする弘前。
「ええ。確かにやりましたよね、人気投票。その結果が気に入らなかったんですか?」
「気に入るわけないだろ、あんな結果!!バカか、貴様は!!」
山城五判は、ソファーにあった週刊少年ダンプを弘前に投げつける。
素早い反射神経で、週刊少年ダンプをキャッチする弘前。
表紙には『大人気連載中!恋するサイコキラーちゃん!キャラクター人気投票の結果発表!!』と書かれていた。
「これは今日発売の最新号のダンプじゃないですかー。確か、サイコキラーちゃんの人気投票の結果が載っているんですよねー」
弘前はパラパラとページをめくり、『恋するサイコキラーちゃん!キャラクター人気投票、結果発表!!』のページを開く。
そのページを見て、またもや不思議そうな顔をする弘前。
「……先生。これのなにが不満なんですか?」
またもや、山城五判は額に青筋を立てた。
「貴様の目は節穴かぁ!!納得いくわけないだろ、こんな結果!!」
弘前は人気投票の結果を見る。
「えーっと、1位が、主人公・サイコちゃんのライバルキャラのメンヘラちゃん……あ!」
弘前はなにかに気づく。
「ああ、そういうことかー。わかりましたよー、先生ー。この人気投票の結果が気に入らなかったんですねー。主人公であるサイコちゃんが1位じゃなく、ライバルのメンヘラちゃんが1位だったのが面白くないんですねー。なんだ、そういうことかー」
山城五判は露骨にしかめっ面をした。
「それで、主人公のサイコちゃんは4位か……。まあ、仕方ないんじゃないですかー。他の漫画の人気投票でも、主人公が1位じゃなかった漫画なんて沢山ありますよー。それに、ぶっちゃけメンヘラちゃんは人気ですからねー。メンヘラちゃん登場回だと、アンケート結果も良いんですしー。まあ、それだけ、メンヘラちゃんが人気ってことで……」
「そっちじゃないんだよ!!たわけが!!」
山城五判は大声で叫ぶ。
驚く弘前。
イライラしながら、山城五判は唾を飛ばす。
「いいか!主人公のサイコちゃんが1位じゃなかったのは、別にいいんだよ!!主人公が1位じゃないってことは、それだけ主人公以外のキャラが良く出来ているってことだから、むしろ嬉しいことなんだよ!!」
うんざりした表情の弘前。
「……それじゃあ、一体なにが不満なんです?そんなに叫ぶと、身体に悪いですよ、先生ぇー……」
「お前は、本当に物事がわからない男だな……。2位と3位を見てみろ……」
弘前は言われるがまま、再び、結果発表に目を向ける。
「えーっと……。2位は、サイコちゃんのお母さん……。3位は、『まさし』……」
山城五判は立ち上がった。
「納得いくか、ぼけぇええーーーー!!!!!」
鼓膜を破かんばかりの大声を放つ山城五判。
弘前は思わず耳を塞ぎ、持っていた週刊少年ダンプを床に落とす。
「なんで、主人公の母親が2位で、第一話に一コマだけ出てきたモブの『まさし』が3位なんだよ!!なんで、主人公が自分の母親とまさしに人気で負けているんだよ!!納得できるかぁ!!」
そう叫びながら、山城五判は髪の毛をかきむしる。
まるで頭皮を剥がさんばかりの勢いで髪の毛をむしる山城五判の両手を、弘前は掴む。
「ちょっ!落ち着いて下さい!五判先生!!」
「うるさい!納得行くか!!ライバルキャラに負けるんならまだしも、母親キャラと一コマしか出ていないモブに主人公が人気で負けるとか、ありえないだろうが!こんなん納得できるか、ボケ!!!」
「落ち着いて下さい!!今はそういう時代なんですよ!!少子高齢化の影響で読者が高齢化しているんで、主人公の女の子よりも、その女の子の母親の方に読者は魅力を感じるようになってしまったんですよ!!戦車をテーマにした某アニメだって、主人公の母親の方が主人公より人気が出ちゃって公式でグッズを出したり、フィギュアを出したりしているんですよ!!」
「百歩譲って、主人公の母親に人気が出たのはまだ許せる!!しかし、なんで一コマだけしか登場していないモブの『まさし』が主人公より人気なんだよ!!そんなん納得、行くかぁあああーーー!!」
山城五判はもはや発狂寸前だった。
「し、仕方ない……」
弘前は山城五判の首に両腕を絡める。
すると、ゴリッ!と鈍い音がした。
山城五判は泡を吹き、そのまま気を失って床に倒れる。床に溜まったインクの湖にダイブした山城五判の顔は真っ黒に染まった。
「はぁ……はぁ……」
弘前は肩で息をし、膝を床に付ける。
「こうするしかなかった……。もはや、こうするしかなかったんだよ……」
弘前は床に落ちている週刊少年ダンプを拾い、再び、人気投票結果のページを開く。
「3位が『まさし』なのは……たぶん、妙に印象に残るキャラだったんで、SNSなどでカルト的な人気が出たんでしようね……。この人気投票は制限を設けてなく、一人の読者がどのキャラクターに何票でも投票できるシステムになっていたから、一部のファンが集って悪ノリでまさしに大量に投票したんでしょう……。それで、こんな結果になったんでしょうね……」
息を切らしながら、弘前は言う。
「……そして、主人公・サイコちゃんのお母さんが2位なのは……実に、実にシンプルな理由だと思います……」
弘前は息を大きく吸った。
「……この漫画の中で、一番、エッチな身体してるもん……」
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続編
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