【ショートショート】隠れた迷店

 都内某所。
 今にでも、潰れそうな古びたラーメン屋が一軒あった。
 本当なら、人気のラーメン店に行きたかったのだが、何故か、私はこの古びたラーメン屋が気になる。
 小綺麗な店よりも、こういう年季の入った店構えのラーメン屋の方が美味しかったりするのだ。
 私は好奇心と冒険心から、店内に入ることに。

「……らっしゃい」

 店の中に入ると、店主らしき男性の声がした。
 床がよく掃除がされていないのか、まるで粘着テープでも踏んでいるかのように、靴が油でくっついては剥がれ、ペタペタと音がする。
 私はカウンター席に座った。
 テーブルも掃除がされていないのか、埃と油まみれだ……。灰皿があり、そこにはタバコの吸い殻が沢山あった。

 ……。

 しばらくすると、元は白だったかもしれないが茶色く汚れたTシャツと前掛けをし、髪の毛はボサボサで無精ひげを生やした中年男性が、濁った水の入ったコップを持って厨房から出てきた。
 どうやら、この男性がこの店の店主のようだ。
 店主はコップを私の前に置く。

「……ご注文は?」

 ……。
 注文を聞いてきた店主の声は、なんとも精気のない声だった。
 聞いているこちらの精気まで吸い取られてしまいそうだ……。
 私は、

「醤油ラーメンをひとつ……」

と注文した。
 店主はボリボリと髪をかきながら、「はいよ」と言って、厨房に向かって行く。
 ……。
 気の抜けたような店主。掃除がされていない店内。濁ったお冷。

 どこをどう見ても、良い店とは言い難い……。

 怖いもの見たさで入った店とはいえ、実際に入ってみると、想像以上に厳しいものがある……。
 私は後悔した……。
 ……だが。こういう店だからこそ、どんなラーメンが出てくるのか、私は気になっていた。
 あの覇気がなく、精気もない店主から、一体どんなラーメンが出てくるのか?
 すると、厨房から店主が出てきた。
 早い。
 まだ、1分か、2分経った程度の時間なのに……。

「おまちどう……」

 店主は覇気のない声で、私のテーブルにそれを置いた。

「……」

 カップ麺だ。
 醤油味の。

「お湯はセルフサービスですから……。好きなだけ入れて下さい……」

 店主は頭をボリボリ書きながら、厨房へ行く。

「……」

 私はカップ麺の蓋を開けた。

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taka田taka夫
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