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意識高い系社長と迷惑な人事改革
趣味第一に生きる私にとって仕事は生活の糧でしかない。残業や付き合いはもちろん、昇格さえもむしろ迷惑。
雑用下請けみたいな仕事で、「内の会社の仕事がつまらない」と口にする同僚も多いが、私にとってはありがたい。
指示通りにやるだけで済むから、慣れてさえしまえば確実に定時で帰宅出来るし、楽だからだ。
だが、悲劇は突然訪れた。
◆
社長が脳梗塞で倒れ入院、コンサル会社出身の意識高い系の息子が急遽後継者として戻ってきた。
新社長就任の挨拶からして嫌な予感がした。
「ワクワクする会社に改革する!」
こんな馬鹿みたいな事を言い出したからだ。
私は不安で仕方なかった。
◆
1年後、私の不安は的中する。新社長が人事改革をぶち上げたのだ。
社員の意識改革が目的だそうで、社内キャリアカウンセラー制度がスタート。毎月のようにカウンセラーと面談をし、目標設定、目標管理、自律型人材育成の為のカウンセリングetc……。
迷惑な話だ。
こんな雑用下請けみたいな仕事で、どうやって成長志向を植え付け、自律型人材に育てるのだろうか?
だが、この人事改革、とてつもない効果を発揮したのだ。
◆
2年後、カウンセリングを通して覚醒した社員が次々とやり甲斐のある仕事を求めて転職していった。
20代・30代の、まだまだ未来がある若手社員の4割が一斉に辞めていったのだ。
お陰で人手不足になり、仕事が一気に忙しくなった。この会社の良さが一気に失われてしまった。お陰で、一番大事な趣味に悪影響が……。
面倒な話だが、私も転職を考えざるを得なくなった。
何しろ、私にとって、人生の最優先は趣味だ。仕事は生活の糧であり、趣味の為の資金集めの手段でしかない。にも関わらず、今は仕事に忙殺……。
◆
ある日、人事部の部長から、「話を聞きたい」と、食事に誘われた。
こんなの初めてだった。
部長から、「内の会社、何が問題だと思う? やる気が無いのに仕事だけはキッチリこなしてきた君の意見を聞きたいんだ」と質問された。
私は、もう辞めるつもりだったので正直に答えた。
部長も、納得の様子だった。後日、社長室に呼ばれ、社長の前でも同じ質問をされた。
私は遠慮なく答えた。
社長は驚いていた。
◆
翌年から元に戻った。
求人募集の広告も私が好むような文言ばかりになった。すると、昨年の3倍も、応募者があったそうだ。
後日の定例会で社長が「働き方改革を進める」と宣言した。
「社員の志向変容やモチベーションに頼るような旧式の人材改革は辞めます!」
高らか(?)な宣言から始まった。
その内容は、ズバリ、私みたいに仕事の優先順位が低い人間にとって働きやすい環境にするという事だった。
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【題】私にとっての良い会社。
この物語は事実を基にしたフィクションです。
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