ベトナムで生春巻きを食べまくる
開高健が著書内で旅先では同じものをひたすら食べるというようなことを書いていた(気がする)。それを真似たわけではないが、ボクは生春巻きだけをベトナムで食べ続けていた時期がある。当時はフォーをあまり評価していなかったこともあるし、「生」と名称につくものがボクは好きだったから、生春巻きにターゲットを絞った。
生春巻きの魅力は、なんと言ってもあの食感だ。ベトナム語ではゴイクオンとか発音していたと思うこの生春巻きは、米粉から作ったライスペーパーで微発酵した麺やエビ、香草などを包んでいる。
ライスペーパーも一見硬そうイメージがあるが、食材を包むとその水分でしっとりとなって、ほどよい弾力を持って食べやすくなる。
ベトナムの生春巻きは野菜もたっぷりで、ヘルシーなのも大きなメリットだ。ビールに合うし、元々常温の料理だから、急いで食べなくてもいいのもおすすめだ。ボクは熱いものは熱く食べたい。料理が目の前に来たら、なくなるまで一気に食べてしまいたい。生春巻きにはそんな焦りも必要なく、ゆっくりとビールを楽しめる。
ちなみに、ライスペーパーそのものを見たことがあるだろうか。タイもそうだが、ベトナムのライスペーパーは円形のシートになっていて、縦横に十字の模様がついている。工場で作っているのはもしかしたら意図的にやっているかもしれない。しかし、昔ながらの製法のものは、どうしてもこの模様がつくようだ。
ホーチミン近郊にあるベトコンのトンネル跡地でライスペーパーを作っているのを見かけた。ぐらぐらと湯を沸かした鍋の上に布を張り、そこに薄く米粉を溶いた液体を薄く塗る。クレープの生地を鉄板で火を通すのではなく、布の上で蒸すという製法なのだ。
こうすると、生春巻きの皮は自然と円形になる。それを剥がして天日に干すとき、カゴなどの上に載せる。竹などを編んだカゴなので、そのときの接地面が十字状にになって跡が残ってしまう。だから、ライスペーパーはああいった模様になるようだ。
南部のカンボジアに近い、メコン河などが流れるメコンデルタはベトナムの米所だそうで、この辺りはライスペーパー工場が多数あるのだとか。この地域で大きな街のカントーからは水上市場のほかライスペーパー工場も巡るツアーがある。ライスペーパー工場は観に行っていないが、水上市場には行った。そのことは以前、下記でアップしている。
このメコンデルタでも生春巻きを食べた。この店だけなのか、ほかもそうなのかはわからないが、ベトナム国内でよく見かける生春巻きはライスペーパーが白っぽいのに対し、茶色っぽい色合いをしていた。
生春巻きはどこで食べても基本的には中身は同じだ。メインがエビで、野菜とブン(微発酵した米粉麺で、見た目は日本の素麺っぽい)、香草各種だ。たまにソーセージのようなものや、茹でた豚肉が入っているケースもある。香草は稀に香りがきついモノもあるので、食べにくい人もいるかもしれないが、一般的にはどこも無難だと思う。
ベトナム料理ではライスペーパーは頻繁に出てくる。焼肉や茹でた肉などの料理では、韓国料理のサンチュのような役割としてライスペーパーが供される。シーフードでも出てくる。だから、ベトナムではライスペーパーはものすごく普通の食材だ。
そんな生春巻きが店によって違う個性を出す場合、主にタレにそのアイデアが見え隠れする。ニョクマム(魚醤)をベースにしたシンプルなタレ、パクチーなどを入れたもの、甘辛系、酢が強いモノ、味噌のようなタレなど様々なものがある。
ホーチミンは味噌系が多かったような。ボクはどちらかというと味噌系よりは甘辛系、甘辛よりは酢が強い系、それよりはニョクマムが強いのが好きだ。要するにシンプルな方がいい。なんならなにもつけなくてもいい気すらする。
いずれにしても、どこでも生春巻きはあるので、ひたすら食べるには麺料理くらい頼みやすいメニューだ。料金も大体1本あたりで設定されていることも多く、少量から注文できていい。店によるが、確か1本が2万ドンとか3万ドンくらいなので、1本あたり100円というイメージか。この価格帯もまたいい。
ひたすら生春巻きだけを食べる旅で果たして開高健のようにボクはなにか得るものがあっただろうか。まあ、店によってタレが違うことと、基本的に生春巻きでハズレを引くことはないということはわかった。
あと、ヘルシーなメニューなので、やっぱりこれだけをひたすら食べていると痩せる。取材旅行の場合、ボクはタクシーを一切使わない。歩いて見て回ることで得られるものが多いので、頑丈なトレッキングシューズが取材旅行2回くらいでだめになるほど歩き回る。だから痩せたのかもしれないってのもあるが、生春巻きダイエットは効果的なのではないかと思っている。