タイのATM、怖い
ボクが初めて来た1998年の時点、つまり少なくとも20年前からタイ国内の銀行現金自動預け払い機(ATM)は24時間稼働だった。当時日本は24時間ではなかったので、日本よりも現金確保が容易で、いつでも引き出しができる便利さがあった。どの時間に引き出しても手数料は基本的にかからないし、他行のATMでも同じように利用できた。
しかし、利便性の高さの反面、信頼性はひどい。これは今もさほど変わらない。タイのキャッシュカードだけでなく、日本人が日本のキャッシュカードやクレジットカードで現金を引き出す際にも十分に注意しなければならない。今回はそんなタイのATMが怖い話をいくつかまとめてみた。
※今回の記事はハーバービジネスオンラインで公開した複数の記事をまとめた内容になっています。
現金が出てこない
タイのATMはとにかくよく故障する。画面にアウトオブサービスと表示されていることが多々あるし、表示されていればまだいい方だ。表示がないのに問題を抱えたATMが稼働しているケースも少なくない。
タイのATMで引き出せるのは1000バーツ札、500バーツ札、100バーツ札のいずれかだ。これらのいずれかが不足していればその趣旨が表示されるか、希望の金額を引き出せないということはある。顧客対応ができない場合にはATMは自動的に停止する。
ところが、そういった表示などが一切なく、見た目には完全に正常なのに現金が出ないということもある。紙幣が不足しているにも関わらず、入力が処理されてしまうのだ。
これはボク自身の実体験で、ある日街中のATMで数百バーツを引き出そうと操作した。ところが、現金の吐き出し口は開いたものの空っぽだった。そのままなす術もなく、口は閉じ、カードと、現金を下ろしたことになっているレシートが出てきた。
すべてのATMにコールセンターの番号が貼られているので、そこに電話をする。しかし、センターのシステム上では現金が出たことになっており、あくまでも通常の状態であるという。要するに「あなたが二重取りをしようとしているのではないか」というようなことを言うのだ。
そう言われてみると、受け取っていない証明が逆にできない。食い下がって状況を説明すると、最終手段としては管轄支店で月末に行われる集計で誤差が出るはずであり、そのときに受け取っていない金額が一致すれば、返還される「かもしれない」とオペレーターは言った。
結局、その金額は返ってこなかった。少額だったからよかったが、タイのATMは今最大で3万バーツまでおろせるので、その額だったらシャレになっていない。
カードが飲み込まれる
タイのATMでよく起こるトラブルのひとつは、カードの飲み込みだ。現金を取り出したあとに一定時間(数秒間)が過ぎても抜き取らないとカードがATM内に吸い込まれてしまう。タイと日本(少なくともみずほ銀行の場合)はカードと現金が出てくる順番が違う。タイでは現金が出てカードが出てくる。日本のみずほ銀行はカードが先で、現金取り出しは最後だ。だから、つい現金に気を取られてカードを忘れてしまいやすい。
とはいえ、この場合は自分のミスではある。しかし、タイでは機械故障で飲み込まれることもよくある。何度もボクが経験したのは、ATMのシステムエラーが突然発生するケースだ。前触れもなくATMが突如自動停止し、アウトオブサービスと表示が出る。操作中に発生すると、カードを吸い込んだまま停止してしまうのだ。
この場合、ただちにATMにある電話番号に連絡し、後日管理する支店に出向いて引き取るか、裁断破棄してもらうかを伝える。そして、引き取るなら、こちらが時間を作って行かなければならない。向こうのミスなのに、だ。
なにか緊急の支払いがあったとしても、こういうケースで銀行が責任を取ることはない。タイとはそういう国だ。そもそも「こういったトラブルがあることを前提に使ってもらっている」ということが前提なので、銀行側は「だからなに?」なのである。クレジットカードも盗難に遭って不正利用されたことが明確であっても、基本的に支払いの義務を負うのはカードの名義人だ。もっと言えば、銀行職員の手違いで振り込みを他人の口座に入れてしまった場合、まず職員がすることは振込先の口座停止である。タイの銀行っていうのはそういうところなのだ。
先のケースはタイの銀行キャッシュカードの場合だ。クレジットカードは銀行によって対応が違う。サイアムコマーシャル銀行は基本的に外国のクレジットカードは裁断破棄し、返却はしないというスタンスになっている。
ただ、タイ語ができれば交渉は可能だ。ボクは深夜に吸い込まれてしまい、電話で1時間も交渉するはめになった。引き取りに行った支店でも初めてのケースだったことから、カードが事務所に届いているにもかかわらず、誰もその存在を知らなかった。封筒そのものが放置されていたのだ。素晴らしい仕事ぶりである。ATMではなく銀行で盗難されればもっとひどいことになったかもしれない。
結局、窓口で1時間近くタイ語でまくしたて、支店長クラスまで繋げてもらい、なんとか棚の中から見つけだして返してもらった。旅行者が同じようにできるかというと、時間も言葉的にも困難を極めるだろう。
ATMのトラブルを極力避ける方法
こういったトラブルを回避する手段はないのか。ボクが提案できる対策はひとつしかない。
それは、銀行に併設されたATMで引き出すことだ。
もしなにかあっても、すぐさま銀行員に対処してもらうことができるからだ。もちろんパスポートなどの身分証明証は必須だ。タイは本来はパスポートなど身分証明書の原本を常時携帯していないと警察に拘束されることもあるので、持っていることは前提としたい。
ただ、市中に独立して営業する支店だと週末や15時以降は閉まっている。だから、使うべきは商業施設内の銀行前のATMだ。商業施設が営業していれば11時ごろから20時くらいまでは窓口も開いているので問題ない。
欧米などではATMのカード挿入口にスキミングの装置がつけられている場合もあるそうだが、タイではそこまでの話はあまり聞かない。とはいえ、可能性はあるので、やっぱり自衛手段として銀行併設のATMを利用したい。
カードキャッシングは現金両替より得!?
昨今はコロナ禍で海外に行けない人もいるし、日本に帰ってこられなくなった人もいるでしょう。そんなときに滞在費などを確保するのに手っ取り早いのはクレジットカードのキャッシングだ。あるいは、近年は日本の銀行のキャッシュカードでも上記画像のブランドが記載されていればタイのATMでもキャッシングできるようになっている。
ただ、キャッシングを躊躇する人は多い。ショッピングよりも金利が高いので、使わずに済むならその方がいいと思うのでしょう。カード会社によって違うが、年率15~20%ほど利息がかかる。しかし、最近の海外慣れした人はむしろ現地通貨調達はキャッシングを利用する。日本円を両替所や銀行で替えるよりずっと得になるというのだ。
そもそも現金両替は外貨現金がないといけないので、盗難や紛失のリスクが出てくる。クレジットカードにはそれがないというわけだ。さらに、返済方法によっては現金両替よりも手数料が安く済む。
キャッシングの利息は日割りで計算される。だから、締め日までの日数が少ないほど返済額を抑えることができる。さらに、カード会社によっては前倒しで支払う繰り上げ返済を利用すれば、思っているほど利息は取られない。
利息例を見ると、たとえば中央銀行などの表示が為替レートが1万円≒2980バーツとすると、市中の銀行では1万円で2922バーツ程度にしかならない。58バーツの差、すなわち200円近くの手数料が現金両替で自動的にかかっていることになる。大体2%というイメージか。
先のキャッシング年率を18%とすると、日割りは約0.05%。30日後に返済すれば、単純計算で1.5%だ。これだけで現金両替より得ということになる。
ATMでお得にキャッシングする方法
ATMでのキャッシングの際、ある操作をするとさらに好都合なレートで両替が可能になる。
外国のクレジットカード、喝取カードでタイのATMからキャッシングをする場合、利息のほかにいろいろな手数料がかかる。タイは基本どの銀行も引き出し1回につき220バーツの手数料を取る。およそ730円だ。
この手数料は避けられないので、より有利に引き出すには為替レートを有利にしたいところだ。かといって、現金を欲している日が為替レートがいい日とは限らない。その日の中で最も有利にするには、次の方法を使う。
それは、ATMの画面操作の最後の操作だ。諸々が終わると、最後に下記を聞かれる。
・両替をする(Conversion)
・両替をしない(Without Conversion)
と問われる。このときに選択するべきは「Without Conversion」だ。
というのは、通常、外国のカードでキャッシングすると、為替レートの確定は数日後になる。すると、利用者に対して為替リスクが発生し、変動が激しい国の場合は損をする可能性が高くなる(もちろん逆もあるのだけれど)。
そのため、「Conversion」を選択することで、その日その場で為替レートを確定させることができる。金額は操作画面にも出てくるのでわかりやすい。
ところが、タイの場合為替は安定しているので、あまり「Conversion」に優位性がない。しかも、「Conversion」のときのレートは基本、現地銀行に都合のいいレートになっている。つまり、市中の両替所よりずっとレートが悪い。
だから、日本人が海外でキャッシングを利用する場合は「Without Conversion」を選択するべきなのだ。もう一度言うが、この場合でも為替リスク回避はできない。ただ、少なくともタイでは「Without Conversion」でよりお得なレートになるケースが多い。
具体例を見てみよう。たとえばある日に1.7万バーツを引き出した。画面に出てきたレートは手数料220バーツ込み(つまり実際の引き落とし額は17,220バーツ)で63,634円だった。これは「Conversion」のレートになる。1バーツあたりは3.6954円だったことになる。
もし「Without Conversion」で同じ日に引き出すと、引き落とし額は58,489円になった。カード会社のレートは1バーツあたり3.3966円だ。ネット検索で見られる市場レートは3.37円だったので、1バーツあたり2.66銭の手数料で済んだということになる。「Conversion」のレートと比較すると1バーツあたり約30銭、1万バーツで3000円近くも手数料に差が出たことになる。
これを踏まえると、「Without Conversion」と繰り上げ返済を利用すれば、クレジットカードで現金紛失のリスクもなく、現地通貨を調達できる、ということになる。
これは日本のキャッシュカードをタイで使う場合でも同じだ。たとえば、ある日に2万バーツを引き出す(実際には手数料プラスで20,220バーツ)。画面には716.26米ドルと表示された(なぜドル建てなのかはわからない)。日本円だと77,413円相当になる。これを「Without Conversion」にすると、実際の引き落とし額は74,496円だった。つまり、1万バーツあたりで約1500円の差があったことになる。これは結構大きい。
このようにタイのATMは使い方によっては得になったり損をしたりする。注意して利用すれば問題ないでしょう。最近は信頼性の高いタイプも登場しているので、古いATMを使わないことも自己防衛の手段のひとつであると言える。
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