【凶悪事件】ナコンラチャシマーの大量殺人事件【銃社会タイ】
2月8日にタイ東北部の玄関とも呼ばれるナコンラチャシマー県で、陸軍兵士による凶行があり、29人の死者、負傷者58人を出す事件が起こった。
ナコンラチャシマーは元々あった地名の関係で、タイ人からはコラートとも呼ばれる。ボクの妻の故郷であり、ボク自身も妻と出会う以前からコラートには縁があったので、愛着のある街だ。
そんな場所で起こったこの事件に、一般のタイ人の感情と同じようにボク自身も怒りを覚える。身勝手な行動で、到底許せるものではない。一方で、こういった国なので、起こるべくして起こったとも思える。
事件が起こったのは、コラート市街地の「ターミナル21コラート」だ。
ちなみに、タイの地方で「市街地」というと、それは県庁所在地を指す。つまり、その県の中心地だ。アンパー(郡)の名称でいうとどの県も必ず「ムアン」という名前になっている。バンコクは行政が違う形なので、郡がなく、ケート、すなわち区になる。
実はこの日、ボクの妻が叔母と共に帰省していた。その数日前に祖母が倒れて、そのときに骨折もしてしまった。しかし、祖母はすでにタイの平均寿命を大幅に超えていることから体力的に手術もできないので、さてどうするか、と。そして、その夕方に電話があり、「コラートが大変なことになっている」と言われた。その時点ではまだニュースになっておらず、ボクとしてもなんのことやら、だ。
しかし、その犯人の凶行は実際に始まっていて、不動産売買を巡って上官とトラブルになり、上官とその義母を射殺していた。そして、基地に戻り車と機関銃、銃弾などを奪ってターミナル21で撃ちまくった。
近年のコラートは外資の製造業などの進出で意外に潤っていて、大きな街になっている。よくタイ第2の都市はチェンマイだと思っている人に会うが、面積や人口的にはコラートの方が大きい。そんな街に以前は「ザ・モール」しか大きなデパートがなかった。地場のデパート「クラン・プラザ」はあったけれども、日本でいうイトーヨーカドー的なレベルだ(数年前に大幅にリニューアルしたけれども所詮・・・・・・)。
そして、満を持して登場したのがターミナル21だった。2016年の12月くらいだったはずだ。バンコクならアソークにあり、コラートのあとにパタヤにもできている。そして、コラートはその後「セントラル・デパート」もできたので、本当に街として大きくなった。
とはいえ、正直、田舎町である。だから、週末の昼間から夕方はだいたいみんな行くところが同じだ。この3大デパートのいずれかになる。そんな人が多いところを狙って、この犯人は来たのだ。最初から人を何人も殺すつもりだったに違いない。
ターミナル21はその名称どおり、空港をイメージした造りになっている。特にコラートはより空港感があって、バンコクにはない、管制塔を模した展望台まである。
市街地の周囲にはなにもないので、展望台からなにを見るのかはわからないが、少なくともオープン当時は無料で展望台に入ることができた。今はどうなんだろうか。
今回貼っている画像は、オープンしたばかりのときにたまたまコラートにいたので寄ったものだ。この中で凶行が行われたのだ。
こういった、吹き抜けをふんだんに使ったデザインになっている。これはタイの商業施設だとどこにでもあるスタイルというか、この吹き抜けはなにか理由があってどこもこうなっているのだろうか。
最終的に犯人は射殺されたが、実際的にそうするしかなかったという印象だ。日本だったら「射殺なんて!」と騒ぐ輩が現れそうだが、タイではこの射殺に関しての批評は一切ない。むしろ、この点に関してはなんら話題に上らない。
ボク自身も、ターミナル21に立てこもった時点で結末は見えていた。というのは、タイの場合、死刑判決があっても、恩赦・特赦が多いので、殺人だとせいぜい15年くらいで釈放されてしまう。それでは国民感情が追いつかないでしょう。
それに、今現在、タイはいまだ軍政でもある。軍人が起こした大不祥事だ。生きて捕まえて裁判をやってしまったら、いろいろとまずいことも起こる。きっかけとなった不動産売買も副業とされるのだけれども、上官が絡んでいる点や、コイツがぶち切れてしまった事情など、タイの公務員が抱える闇の部分がある。それら本当はみんなが知っていて、見て見ぬふりをしてきたことが改めて表に出てきても、ということなのだ。
そのあたりの話はハーバービジネスオンラインでも紹介した。
タイは銃社会だ。とはいえ、連射可能なマシンガンは一般には出回らないし、軍人でさえ個人所有は本来は難しい。それなのに起こってしまったのは、タイの軍の規律の甘さというか、稚拙さだろう。だから、起こるべくして起こった事件とも言える。
そもそも、まず軍の施設で防げた話である。一兵士が銃を盗み出すことを防げないとはなんともレベルの低い軍隊だこと。12日には軍司令官が「軍を責めずにワタシを責めてくれ」と記者会見をした。
寝ぼけているのでしょうか。オマエも責めるし、軍も責めるし、軍政も責めるだろ、これ。司令官がひとりで受け止めることができるとでも思ったのだろうか。結局、トップがこのレベルだってことでしょう。だから、こんな事件が起こったのでしょう。
もちろん、犯人が一番悪いのだが、ただ普通の土曜日を過ごしていただけなのに、突然殺された29人の遺族や友人たちの気持ちはやり場がない。
タイの刑法ももう限界に来ている気がする。今回のような殺人事件は今後も起こるだろう。そのときに、被害者、遺族、国民感情が納得のいく刑罰を与えられるといい。
今回の犯人は最初から射殺されるつもりでいたはずだ。これでは罰ではなくご褒美になってしまう。苦しんで苦しんで、そして刑務所でのたれ死ぬような、そんな刑法があってほしい。
すでにタイの刑務所は環境が悪化しているという。現国王になって恩赦が激減したので受刑者たちがなかなか釈放されず、刑務所が満杯状態だそうだ。中には、そんな劣悪な環境に同情する人もいる。
しかし、批判を怖れずに言うなら、ボクはそうは思わない。劣悪でいいじゃないか。罪を犯したのだから。
冤罪もありうるだろう。ただ、受刑者が100人にて99人が冤罪ならともかく、いくらタイでも言うほど冤罪は多くないと思う。
だから、刑を受ける人はそれなりの環境でいい。ボクは仕事柄何人も犯罪者や受刑者、元受刑者に会ってきたが、多くが反省なんかしていなかった。反省できないからこそ人を殺したり騙したりできるわけだが、ならばもう懲り懲りだと思わせる環境に置いて、十分に苦しませるべきだと思う。
とにかく、今回の事件はタイ人にもかなりのインパクトを与えた。日本人旅行者の中には「こんなこと、タイならいつも起こっているんでしょ?」と言った。たまたま来たときにこんなニュースが流れては、いつも起こることに思うかもしれない。
そんなわけはない。タイは銃社会ではあって、こういったことが起こる可能性は日本の数十倍はある。しかし、だからといって、今回の事件はタイ全土に衝撃を与えたほどの珍しい事件でもある。
だから、新型コロナウィルスならともかく、凶悪事件が起こりそうだからとタイのことを見るのはやめてほしいと願う。そう起こることではないのだから。