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【タイ飯】ムーガタ=韓国式焼肉

 タイ語で焼肉はヌアヤーンという。日式の焼肉であればヌアヤーン・イープンだ。しかし、タイ料理にある韓国焼肉はムーガタと呼ばれる。ヌアヤーン・ガウリーと呼ばれないのはなぜなのか。

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 タイ人は今でこそいろいろな国の料理を楽しむが、案外、彼らの舌は保守的だ。最近まで、富裕層以外は家でも外でもタイ料理を食べてきた。国民食として定着している米粉麺クイッティアオだってアユタヤ王朝時代にはタイに入ってきたという話があるが、実際にタイ人がみんな食べるようになったのは太平洋戦争中の政策によってだ。

 一方で、日本人のようにタイ料理に外国料理を取り込むのもタイ人はうまい。クイッティアオのほかたくさんの中華料理発祥(主に潮州料理)のタイ料理メニューがある。先日書いたクレープの生地でカノム・トーキョーに触れたが、あれもいわばタイ人向けにアレンジされた和菓子であるし、錦糸卵のような菓子フォイトーンもポルトガルだか欧州方面から来ている(日本経由という説もある)。ドイツ料理の豚足から揚げであるシュバイネハクセもカームー・ヨーロマンという料理で定着している。

 今回紹介するムーガタもまた外国料理を元にしたものだ。すでに述べたように韓国が発祥である。

 カームー・ヨーロマンは直訳するとドイツの豚足だ。発祥がわかりやすい。カノム・トーキョーも日本発ということが名前からわかる。一方で、ムーガタは韓国ということがわかりづらい。なぜなのか。

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 ムーガタは直訳すると、鉄板の豚といった意味になる。実はこの呼び方が定着したのは2000年代に入ってからだ。あくまでもボクの知る限りだが。バンコクに食べ放題店が増えて学生を中心に人気が出た。そのときに使われた名称がムーガタだった。

 ムーガタの発祥はわからないが、おそらく東北地方だと思われる。そして、東北地方ではムーガタではなく元の呼び名、ヌアヤーン・ガウリーと今でも呼ばれる。韓国式焼肉である。東北では韓国から来た焼肉であるということが一目瞭然なのだ。

 確定的な由来がわからず、最も有力な説は、朝鮮戦争があってタイへ来たというものだ。タイは太平洋戦争時は8月15日まで日本と同盟にあった。しかし、タイの政治家は外交力があり、うまい具合に連合国側にも取り入っていて、戦争終了時に連合国側に入っている。アメリカの意向が強かったようだが、その関係かタイ軍は朝鮮戦争に参戦している。

 このときに参戦したタイ人兵士が現地でプルコギを食べ、それをタイに持ち帰ったと考えられる。特に地方の貧しい農村出身者が徴兵されて戦争に行ったと見れば、東北で広まったのもわかる。

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 ボク自身も初めてこの料理に出会ったのはナコンラチャシマー県(コラート)で、ムーガタがまだバンコクで流行るずっと前のことだ。バンコクにあるチェーン店、ドラゴンがマスコットになっている「BAR・B・Q PLAZA」もすでにあったけれど、ムーガタという名前は使っていなかった。ヌアヤーン・ガウリーとも言ってなかったけれど。

 コラートは今でもヌアヤーン・ガウリーの店が多くある。学生街なんかはヌアヤーン・ガウリー店だらけと言っても過言ではない。だから、出会いも含めてボクの中ではヌアヤーン・ガウリーの発祥はコラートだと思っている。

 あるいはウドンタニー県も有力だと個人的には見ている。というのは、このふたつの県には大きな軍施設があるので、朝鮮戦争時代から基地があったのだとすれば、兵士がたくさん出入りして広まった可能性があるのではないか。

 この辺りは情報が錯綜していて、本当のところはわからない。ただ、とにかくコラートのヌアヤーン・ガウリー人気はすごい。むしろ、バンコクのムーガタよりもすごいのではないだろうか。

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 ムーガタは基本的に食べ放題だ。一方、コラートのヌアヤーン・ガウリーはセットが多い。それもものすごく安い。

 ムーガタは食べ放題と言えどひとり200バーツ前後はする。コラートは物価の安い地方ということもあるが、1セットが150バーツ前後だ。学生街だと2セット頼めばもうひとつ無料という設定が多いので、仮に1セット150バーツとすれば、2セット300バーツで3セットが来て、すなわち3~4人分にはなる。だから、むしろセットの方が安いくらいだ。

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 妻の実家はコラート中心地から道のり80キロくらいある。80キロといえば、バンコク中心地からアユタヤくらいだ。そんな田舎でもやっぱりご馳走はヌアヤーン・ガウリーだったりする。

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 だから、妻の家族とヌアヤーン・ガウリーに何度か行ったことがある。車もほかに走っていないので、物音もしないようなだだっ広い場所で、炭火のプルコギ鍋を囲む。

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 鍋、すなわち鉄板はジンギスカン鍋のような形状の鉄製、あるいはアルミ製の鉄板で、山の部分で豚肉などを焼き、周囲にはスープを張って野菜などを煮て食べる。

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 コラートのヌアヤーン・ガウリーは肉は卵やタレに漬け込んである。食べるときに使うタレは店によって違うが、主にシーフード料理に使う辛いタレが用意される。

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 コラート中心部だと生バンドが入っていたり、巨大ビジョンでサッカーを観戦したりなど、まあ居酒屋のような雰囲気もあって、結構楽しい。ボクのコラート旅行の中で一番好きな瞬間で、子どもができてからも毎回、1回はヌアヤーン・ガウリーの店に立ち寄っている。

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