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【タイ飯】生肉を食べるときの注意点【自己責任】

 日本国内ではなかなか食べられない「生肉料理」がバンコクなら自己責任で食べることができる。屋台から高級レストランまで、あらゆる飲食店で生肉を目にする。そんな、バンコクで食べられる生肉料理を複数回に渡って紹介していきたい。今回はその前にそんな生肉食に当たって気をつけるべきことを挙げていく。


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 生肉食は元々北方など野菜などが採れない地域で、ビタミン補給などのために生肉を食べ始めたとされる。しかし、ご存じのように生肉を食べるにはリスクがつきまとう。特にタイは高温多湿なので、生肉を口にするにはより注意が必要だ。

 ここでバンコクでの生肉食における気になる点や注意点をまとめてみた。

バンコクで生肉を食べる危険性とは

 生肉食はバンコクに限らず、どこも同じようなリスクがある。生肉食のリスクは食中毒、細菌や寄生虫の感染だ。最悪のケースでは死に至る。

 生肉を提供する飲食店の調理師は「肉、すなわち筋肉の内部に細菌は基本的にはいないので、危ないのは肉の表面です」と言う。一方、厚生労働省では生肉の汚染度合いは「鮮度に関係ない」とし、場合によっては内部にまでばい菌の影響があるとする。

 厚生労働省など日本の各機関では肉の生食は危険だと指摘している。どんなにしっかりと管理している飲食店でも、100%安全とは言いきれないのが現実といったところだろう。

 厚生労働省では「中心部の温度が63°Cで30分間以上、または75°Cで1分間以上など」といった加熱処理をするよう呼びかけている。これを踏まえると、安全に「生肉と同じ食感」を楽しむ方法は、ステーキやローストビーフなどの中心部が加熱された「レア」の状態の肉しかないのかもしれない。

タイで生肉食は規制はされていない?

 タイでは生肉食に対する規制はないようだ。そもそもタイは日本ほど肉の生食が定着しておらず加熱が前提となっているためか、特に法令で規制されているような記述がどこにもなかった。とはいえ、タイ公共保健省などでは肉の生食を避けることを推奨し、啓蒙用に各種チラシなどを作成して呼びかけを行っている。

 というのは、タイではときどき生肉食による死亡案件があるからだ。たとえば、2012年4月18日にタイ北部のナーン県にある村で豚の生肉を食べた20人が食中毒を起こし、うちひとりが死亡した。2015年10月25日には同じく北部のスコータイ県で豚肉の「ルー」という生肉料理を食べたふたりが亡くなっている。

 タイ字紙「マティチョン」の2017年5月3日の報道によれば、2017年1月1日~4月30日までに「豚レンサ球菌」による死者が6人確認されている。これは主に豚の生肉料理を食べたことによる感染だ。「豚レンサ球菌」は以前は豚やイノシシ間で感染するものとされたが、豚から人間に経口、あるいは肌の傷口から感染する事例がアジアで増えているという。感染すると敗血症や髄膜炎、関節炎、心内膜炎などを起こすことがある。

 また、2016年4月22日のタイ字紙「タイラット」の報道では、東北部のナコンラチャシマー県の女性が近所の屠畜場で買った豚肉で作ったラープから「豚レンサ球菌」に感染し、3日後に死亡したとあった。公共保健省からは、韓国焼肉から派生したタイの焼肉「ムーガタ」などにおいて、充分に加熱していない肉から細菌などに感染する可能性が指摘されている。管理が不透明な肉は加熱しても危険な場合もあるということだ。特に生の豚肉やジビエ肉で死亡する例が多い。そのため、特に死亡例は山岳部が多い北部で多発する傾向にある。

 誤解されがちだが、タイの食品衛生法などは日本と同等か、それ以上に厳しい(末端で運用、遵守されているかどうかは別なのだが)。タイ公共保健省では、たとえば肉の品質に関する保管方法に「5℃以下で、野菜などとは別に保管すること」といったルールなどを定めている。

 内臓などは検査機関の許可がないとタイでは販売できない。生食が前提ではないものの、基本となる肉類の品質基準は高いと言える。もう一度言うが、飲食店の従業員がそのルールを遵守しているかどうかは別の話になる。それは日本も同じだ。結局のところ、タイでの生肉食は自己責任で自己判断して食べるかどうか決めるという点に尽きる。

バンコクの飲食店では生肉料理のためにどんな管理をしているのか

 バンコクで生肉料理を提供する飲食店は独自のルールに従って肉を管理しているようだ。店によっては屠畜方法を屠畜業者に指定したり、入荷日その日だけにしか出さないと決めたり、生食用肉を扱える調理師が限定して保管方法や調理器具の管理などが徹底されるなど。

 取材においては、入荷時点で肉の鮮度や状態を可能な限り見極めるようにしていて、さらに厨房でばい菌などが付着しないように細心の注意を払っていると、多くの店から回答を受けている。

 ただ、国によって考え方が違う。日本人経営店は日本のやり方に倣うので、日本人的には納得のいく管理方法が採られている。一方、ある国の料理店は「機械ミンチはばい菌付着の可能性が高く危険」と断言するのに、別の国では「機械ミンチが最も安全」と言ったケースもあった。

 そんな飲食店はどこで生食用の肉を仕入れているのか。日本人経営店や各国料理店といったちゃんとしたレストランはオーストラリアや日本など、管理が徹底されていて安全性が高い国から輸入したものか、タイ国内で独自のルートを持って入荷しているところが大半だった。一方で、タイ料理屋台では市場などで仕入れているケースもあり、生食前提の肉の管理を知らないところではかなり危険と言える。

 どの店も基本的には鮮度も重視している。しかし、生食用の肉は必ずしも鮮度が命というわけではない。食肉(特に牛肉)は内部の酵素分解などの関係で多少の熟成が必要というのが一般的な常識だが、生食の場合、いずれの肉でも鮮度が重要ではある。できる限り新しく、徹底した衛生管理の下であれば生食に耐えうるとされる。

 しかし、それは100%ではない。屠畜から一定期間は増えない菌もあるという。屠畜からの時間経過で増える菌に関する統計においては、起こりうる生肉食のリスクに対する安全性が立証されているらしいが、あくまでも統計的なもので、すべてがそうだとは限らない。菌は目に見えないので、こればかりはプロでもわからないのが現実だろう。

 そんな中で飲食店ではより安全性を高めるため、新鮮な肉を求め、場合によっては屠畜方法も指定して、安全性の高い、清潔な肉を選ぶようにしている。

 この屠畜方法の指定もまた効果的だ。というのは、前述の通り、タイでは肉の生食への規制がないので、生食のための屠畜方法は存在しない。一方で、公共保健省などが定める衛生法が細かくある。屠畜場が自主的に管理強化をすることもある。しかし、「安全」の概念がタイと日本では違うので、納得のいく品質を保つために屠畜方法の指定には意味があるのだ。バンコクにある日本料理店の中には屠畜場に技術指導をして特別入荷しているところもあった。生食で安全に食べられるようにするための重要な企業努力のひとつでもある。

もしなにか起こったらどうすればいい?

 飲食店における鮮度のいい肉の見分け方は、ほとんどが責任者による「目利き」だった。ばい菌は目に見えないので、色あい、におい、見た目など様々な要素を経験から判断している。また、ほとんどの店で責任者が毎日実際に口にして問題がないかを確かめていた。

 ある飲食店の店主は新鮮な肉の見分け方のひとつとして、「肉の切り口の角が立っているものは新鮮」と教えてくれた。古いと細胞が傷み、角が丸くなってくるのだとか。魚の刺身と同じである。もちろん、これだけですべての判断はできないが、見極め方のひとつとして参考になるだろう。

 それでももし食中毒などの症状を感じたら、とにかくすぐに病院に行くしかない。食中毒は食後数時間で嘔吐や下痢などが発生するは、本当に食中毒かは医師に診てもらわないとわからない。

 もし食中毒らしき症状が見られたら、脱水症状を防ぐために水分補給し、吐き気や嘔吐があるときは横向きに寝る。そして速やかに病院に行くことだ。

 このように肉の生食はリスクの高いグルメだ。子どもやお年寄り、妊婦などは控えるべきで、成人でも体調不良の場合は食べるべきではない。タイの場合、高温多湿で、特に生食用生肉の管理が難しい。徹底している店でも完璧はない。食べる場合は自己責任と自己判断で食べるようするしかない。

 この前提を踏まえ、次回からおすすめの生肉料理を出す店を紹介したい。日式の焼肉はもちろん、居酒屋もそうだし、日本人に人気のタイ屋台でもレバ刺しが食べられる。また、意外にも中東料理でも生肉があったり、バンコクの生肉食はバラエティーに富んでいておもしろいのだ。

※当記事はバンコクで発行される無料誌「DACO」の492号(2018年11月5日発行号)に掲載された記事を加筆修正しています。

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