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【ベト飯】いい歳をしたオジサンがプリンを買いに
ベトナムは食事がなんでもおいしいのがいい。ボク自身はグルメというほどではなく、雑食系なので飛行機のエコノミークラスにおける機内食でさえもまずいと思ったことはめったにないし、気に入ったら延々と同じものをリピートできるほど適当だ。それでもおいしいものは大好きである。ベトナムはいいものが安く食べられるのでありがたい。
タイ在住というのもあって、ボクの目にはベトナムはベーカリーが充実しているように映る。バンコクは近年こそおいしいパンが食べられるようになった。しかし、そのほとんどが日本のベーカリーで、タイ系のベーカリーというのはほぼないと言っても過言ではない。
ベトナムやカンボジア、ラオスはフランス統治時代があったからこそパンやコーヒーの文化が根づいている。しかも、インドシナと一括りに見がちだが、おもしろいのはそれぞれの文化に影響を受けて発展していることだ。
たとえば、ベトナムで言うところのバインミーなど、インドシナではバゲットを使ったサンドイッチが一般的に食される。ボクの見た限りの話だが、ラオスはシンプルにラオスの食材をいろいろと挟み、ベトナムはレバパテを塗り、ソーセージとかハムを多用する。カンボジアはよくわからない、ブタの背脂のような塊が入っているとか。似たようなものなのに、食べ比べると違いは大きい。
しかし、タイは植民地経験がなく、近年までパンやコーヒーの文化がなかった。もしタイにバインミーの文化があったなら、朝食のシーンや食生活はまったく違ったものになっただろう。インドシナ3国でさえそれぞれサンドイッチが独自に進化しているのだから、タイだったらどんな変貌を遂げただろうと想像するとワクワクする。
そんなベトナムなので、全土的にコーヒーとパンは普通に存在し、各地にベーカリーがたくさんある。それこそ食堂のような外観をしたベーカリーもあれば、町の外れでもおしゃれな雰囲気を醸すベーカリーもある。
南部の都市ホーチミンで外国人が多い1区なら、日本の昭和のころに近所にあったようなパン屋さん的な店構えが多い気がする。中部のダナンは繁華街に近いとブーランジュな印象を受けるほどきれいな店が見られた。ただ、下町にあるベーカリーはパンの棚に総菜だとか、なぜか従業員の食事らしきものが置いてあった。どの店にも売りものと従業員の食べものが並んでいたのだ。
首都ハノイのベーカリーは洋食店も兼ねているか、スタンド的に小さなパン屋ばかりというイメージがボクの中にある。新しいところはだいぶおしゃれにはなっているが、昔ながらの店は相変わらず小さい。ただ、小さい店はその分、安くておいしいという傾向が見られる。
とはいえ、ボクはベーカリーではあまりパンは買わない。バインミーがどこにでもあって、安くがっつりと食べられるのだから、普通のパンを食べようとはあまり思わないのだ。
ボクはベーカリーに行くといつもプリンを買う。
こういった下町のプリンは昭和的な、懐かしいプリンだ。コンビニにあるような量産プリンではなく、学校給食に出てきそうなタイプだ。実際に飛び上がるほどおいしいわけではないが、ちょうど求めているような味というか、まさに家庭で作られたプリン、あるいは学校給食のプリンなのである。
このプリンの魅力は価格にもある。店によって違うが、だいたい3000~5000ドン程度しかしない。日本円で14~23円レベルというわけだ。大人買いでいくつ買っても懐が痛まないのもまた嬉しい話だ。
ほかにもこういったシュークリームやロールケーキなど、日本でも定番的なスイーツが格安で売られている。高いものでもせいぜい1万ドンレベルなので、50円くらい。コストパフォーマンスがたまらないのである。
ただし、こういった店は当然英語が通じない。だから、値段を訊くときにいつも苦労する。最近は値札を貼るところも増えたので助かるが、ないと聞き出すのにひと苦労だ。
普通、ベーカリーでなにか質問されるとしたら値段か商品名か材料くらいじゃないか。しかし、全然察してくれない。ほとんどの店は女の子が店員で、まさか外国のオジサンがプリンを買いに来るとは夢にも思っていないのだろう。ジェスチャーでいくらとか聞いても、「え? え?」みたいになってしまう。
やっと価格が判明し、個数を伝えても気の利かない子はスプーンを忘れる。気の利かない子といよりも、大半の子は「外国人のオジサン来店」の時点であたふたしているからか、高確率でスプーンが忘れられる。
さすがに旅行者の身なのでマイスプーンはない。特にボクが泊まるような安宿にはそんな文明の利器はない。だから再びジェスチャーによる「スプーンをくれ」というだけの連想ゲームが繰り広げられる。
スプーンはさすがに早い段階で通じるが、このときも高確率で店員はまず爆笑から入る。オジサンがちまちまスプーンでプリンをすくうジェスチャーがおもしろいのだろう。いや、逆にどうやって食べろというのか、教えてほしいもので。すぐに察してくれよ。