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MKだけで1日アヒルが2万羽も焼かれている

MKレストラン」はタイに来たら否が応でも目に入るレストランのひとつだ。路面店は案外少なく、商業施設ばかりに店がある。どこに行っても「最低」でも1軒は必ず入っているほどで、施設によっては2軒もある。たしかMBKは2軒あった気がする。あのサイアムスクエアのエリアだけで何軒あるのかって話だ。

 MKはご存知のようにタイスキのレストランだ。これだけたくさん店があるのだから「タイスキの元祖」なのかと思えば、案外そうではなかったり。だいたい、最も売れている料理がタイスキでなかったりする。どの席も必ず頼んでいるのが「ペット・ヤーン」、アヒル焼きである。

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「タイスキ」は対外的な呼び方で、タイ語では「スキー」と呼ぶ。一般的には日本のすき焼きをモチーフにしているとされるが、実際的には中国の火鍋が原点なのではないか。ネーミングをしゃぶしゃぶと間違った、あるいはキャッチーな感じでスキヤキを持ち出したか。

 いずれにしても、MKのサイドメニューを見れば、いやMKだけでなく、タイスキの店のほとんどがサイドメニューが中華系の料理ばかり。だから、元は中華料理だった説は有力かと思う。

 なにより、MKはもともと中華料理店だ。Makong King Yee氏がサイアム・スクエアで経営していた中華料理店があり、1962年にこの家族がボストンに移住する際、トーンカム・メークトーさんが買い取った。ここから22年間はカオマンガイ、パッタイ、ヌアヤーンガウリー(ムーガタ)などを売っていた。

 1984年になって、サムグリット・ジラーティワット氏の手によって、セントラル・ラートプラオ・デパートに初の支店「グリーンMK」が誕生。2年後、1986年になってやっとタイスキの専門店「MK」が同じデパートで開業した

 今、MKは400店舗あるという。海外支店は日本、ベトナム、シンガポール、インドネシアにあるのだとか。日本は確か以前から福岡に強かったイメージがある。その後新宿にできて、御徒町にも店舗があった。

 同じタイスキのコカ・レストランもやはり創業時は中華料理店だったし、20年以上前に銀座の有楽町マリオンの裏に支店があった。そこはほぼ中華料理店だったが、MKはわりとタイスキを前面に押し出していると聞いている。でも、JR御徒町駅前にあったMKの店舗はもう閉店しているみたいだし、東京は1店舗しかない。日本国内ではイマイチ、タイスキは受けないようだ。

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 とにかく、タイスキとしては実はかなり後発と言える。でも、なぜここまでMKがタイ人に受けるのか。

 大きな要因はタレにある。このタレがタイ人にとっておいしいようで、それが一番の売れる理由だそうだ。単純にタイスキではコカ、それからルアンペット、テキサスあたりが有名店になるが、どこも支店数が少ないというのもあると思うけれど。

 ちなみに、MKの人事部やトレーニングセンターはセントラル・バンナー・デパートの向かいにある。ボクの自宅近くで、TOT(日本のNTTみたいな)に電話料金を払いに行くときにMKの制服を着た人たちが大量にいるのを見かける。

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 タレは確かにMKはおいしい。MKに慣れると、コカやルアンペットはちょっとクセがある気がしてくる。

 タレはこのままでもいいけれど、だいたいこのニンニクとトウガラシを刻んだものを入れる。20年前は言わないとくれなかったが、今は勝手に置かれる。でも、少ない。前はもっといっぱいくれた。画像にはないがライムもくれたり。これも最近は生のライムじゃなくて、ライム汁になった。

 3年くらい前からはポン酢もくれるようになった。中国起源のタイ料理を和風に食べるという、なにしているんだかわからなくなるような食べ方ができるようになった。

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 そんなMKで人気なのがこのペット・ヤーンだ。画像はアヒルと、ムー・グロープという、豚の三枚肉の唐揚げのミックス。これも人気がある。

 2016年9月のこの記事によれば、MK全体で1日2万羽が売れているという。もちろん調子のいい日の話だろうが、アヒルの世界からすればとんでもない侵略者である。それくらい、必ずどのテーブルでも頼むもの。ボクも家族で行ったら、絶対注文するもの。

 こんなにも誰もが絶対的に注文する料理を持つレストランはあるだろうか。たとえばKFCならチキンをみんな頼むだろうが、選択肢がそれしかない。これだけいろいろある中で、絶対に注文されるというのはすごい話だと思う。

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 主要メニューのタイスキにおいても、人気メニューはだいたい決まっている。たとえば、このエビのワンタン。これをどのテーブルもひとつかふたつは頼んでいるのではないか。煮すぎると皮が崩れるし、ちょうどいいタイミングだと表面が滑る。結構食べるには難易度が高い。

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 これも人気のひとつで、豚肉の団子がノリに巻かれているもの。これも妙においしいんだ。煮すぎるとノリがばらばらになって、スープ全体が濁るけれど。

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 あとこれ。モロヘイヤの麺ってメニューには書いてある。タイ語はバミー・パックなので、野菜麺。以前は緑色の小麦麺が主流だったけれど、15年くらい前から出始めて、人気になってきた。

 もうすでに茹で上がっているので、鍋のスープを軽くかけたり、ペット・ヤーンのタレをかける。緑色の麺もそうだが、皿の麺は鍋に投入しない方がいい。緑のは特に。スープが緑色になってしまって大惨事となる。

 最近はサイドメニュー内に麺類が増えた。この皿の麺だけでなく、丼に入った麺料理で、チャーシューとかさっきのムー・グロープが載っていたり。

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 ボクの中でもっと定着していいと思うのは、この湯葉だ。タイ人はあまりピンとこないのか、頼んでいる人はほとんどいない。15年くらい前まではコカにしかなかったが、その後MKのレギュラーメニューにも登場した。

 MKは最近はタイスキ以外のメニューも増えた。でも、やっぱりペット・ヤーンは外せないだろうな。日本のMKにもあるのだろうか。

 公式を見る感じだとないのかな。やっぱりタイとは同じにできないので、あきらめたのでしょうか。現地で日本人に人気の店の多くが日本進出しないのは、タイと同じにできないからって理由をよく聞く。

 ま、すなわち「タイに行ったときの楽しみができた」というわけで。普通の中華店でアヒルを食べるより安いのもいい。たまに食べたくなるんだよね、MKのアヒルは。

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