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 タイはギャンブルが禁じられている。最もポピュラーなレンパイ(おいちょかぶのような賭けトランプ)をさせないためか、トランプが表立って売られていないほどだ。しかし、ギャンブルがまったくないわけではない。タイではロッタリー(宝くじ)、ムエタイ、競馬などが認可されている。そのうちのムエタイのように「闘鶏」や闘魚もタイでは認められたギャンブルになる。数年前だが、ボクはそんな闘鶏を観に行ったことがある。意外とちゃんとした会場で驚いたものだ。

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 まずギャンブルに関しての大前提だが、タイではギャンブルが禁じられていることを忘れてはいけない。たとえば、ガイドブックなどではブラックジャック詐欺などについて口酸っぱく、20年以上も前から書かれているが、本来は詐欺であったとしても訴えることが困難であることを理解していなければならない。

 実際、ボクは一度知り合いの伝手で観光警察の通訳をしたことがある。そのときの案件は日本人男性が600万円ほど巻き上げられた事件だったが、観光警察はその案件を受けたものの、逮捕権がなかったからか、バンコク都内の警察署に被害届を出す際に揉めに揉めた。それは当たり前で、ギャンブルで負けたからといって訴えられても、ということだった。最終的には受理され、かつ犯人一味のフィリピン人はひとり捕まえたが、金は返ってこなかった。

 宝くじは別として、タイでギャンブルが認められているケースは基本的に会場が認可されているかどうかになる。競馬、ムエタイ、闘鶏、闘魚はどこでもできるものではなく、認可された会場で開催されるからOKというわけだ。

 だから、たとえばムエタイはバンコクにはルンピニーとラーチャダムヌンという2大会場があるが、それ以外の会場では賭けることは違法になる。祭やテレビのイベントなどでムエタイがあるが、ここでギャンブルは本来は許されない。あくまでも本来は、であって、タイ人は賭けていることが多いけれども。

 競馬やムエタイ、闘鶏が認可されるのは、それがタイの文化のひとつという認識も背景にある。競馬は貴族の遊びとして、イギリスの影響の強いタイも定められた場所で賭けることができる。ムエタイもタイで発展した格闘技であり、行政側の収益にもなるということでギャンブルが認められている。

 闘鶏は世界中にあるギャンブルのジャンルのひとつで、タイでも愛好家が多くいる。日本の地鶏の軍鶏(しゃも)は、この闘鶏用の鶏が日本に入り、闘う鶏として軍鶏と当て字され、読み方はかつてのタイの国名であるサイアムが訛ったものだ。

 とにかくタイのギャンブルは基本、認可された会場以外ではできないので注意が必要だ。まあ、それ以前にムエタイも闘鶏も日本人が賭けることができるものではないのだけれども。それは後述したい。

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 タイの闘鶏人口はそれほど多くない。ムエタイほど人気はなく、かなりマニアックなギャンブルだ。とはいえ、小遣い稼ぎにはちょうどいいので、ギャンブラーたちはみんな熱くなって賭けに没頭していた。

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 闘鶏愛好家は大きく分けて2種類になる。まずギャンブラーだ。そして、もう一方は闘鶏の飼育をする人になる。ムエタイはファイター本人が自分の肉体を使って稼ごうという手法になり、多くが8歳くらいから入門して始める。

 闘鶏は鶏を飼えばいいだけなのでいつでも始められる。自分の鶏を闘わせて、勝てば賞金を得ることができるので、大人の遊びとしては十分なものでもある。

 科学的には証明されていないのだが、競走馬のようにチャンピオンになれば、その子ども、要するにひよこが高く売れる。血統はタイ人自身もあまり信じていないようだけれども、やっぱりチャンピオンの子孫は強い気がするではないか。だから、勝てばブリーダーとしても生計を立てることが可能になる。

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 現役のチャンピオンの軍鶏ならそのまま売ることもできて、数十万円、ときには数百万円の値がつく。ギャンブラーとして賭けはしないが、飼育という不確定要素の多い勝敗に身を投じる点では、結局飼育家もギャンブラーである。

 そんな飼育家向けに、鶏に投与する薬なども会場では売られていた。闘いの前には身体を熱くしないようにしたりなど、いろいろとコツがあるようで、飼育家はそれぞれの信条で飼育し、鶏を鼓舞し、闘いに挑んでいた。

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 鶏も闘争心が強く、このように向かい合えば鋭い爪で相手をひっかいたりつつき回す。飼育時はケンカしないように1羽1羽を同じ小屋に入れることはない。だから、ある程度広い場所が必要なので、取材した感触では農家の男性が片手間で飼っているケースが多いように見えた。

 しかし、この闘鶏用の鶏は元から気が強いので、勝てばいいのだが、負けるとその闘争心が折れてしまい、二度と闘鶏ができなくなることもあるという。鶏も人生がかかっているのだ。

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 闘鶏は会場によってルールがやや違う。この会場では最大で22分の対戦になる。闘うのが人間ではないので、場合によっては明かな勝敗がつかないとドローになることもあるようだ。また、鶏が闘争心を失い背中を向けることもよくある。それも負けになる。

 タイ国内ではもうほとんどないというが、以前は脚に刃物をつけて闘わせていたこともあるのだとか。さすがにそれはなくなりつつあり、この会場でもそれは禁止だった。

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 このように対戦カードが組まれ、それぞれの会場で闘いが繰り広げられる。といっても、円形の仕切りのあるエリアで闘うだけなのだが。

 この対戦表を見ると、画像の一番右側に3000~30000の数字があるのがわかる。これは賞金だ。鶏のクラスによって賞金が変わるのだが、勝って3万バーツ、つまり10万円ほどが入るとなれば、タイでは結構大きな収入になる。

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 ギャンブラーに目を向けると、賭け方はかなり難しい。ムエタイとほぼ同じで、単純にはどちらが勝つか負けるかに賭けるのだが、その倍率はギャンブラー同士で決める。ムエタイと同様、闘鶏には胴元がおらず、プレイヤー同士で倍率と金額を決めるのだ。手を挙げて特殊な形で倍率と金額を示し、双方が納得したときに成立する。

 これが外国人が賭け事に入れない理由になる。遊びとはいえ、最後に「金がありません」、「冗談でした」は許されない。そのため、この会場では入り口で賭けに使う番号入りのメモ帳を入場者全員に渡され、しかも顔写真まで撮られる。

 これはムエタイも同じだが、賭け金を払えない、ウソを吐くなどのルール違反をした場合には出入り禁止になって、会場にその顔が張り出される。ムエタイ会場に行った際には壁などに注目してほしい。そこには顔写真が貼られ、晒されている嘘つきがいる。

 しかも、大半が顔を腫らしている写真だ。これはリンチに遭った結果で、リンチされても加害者側はお咎めナシで、イカサマ野郎だけが晒される。ギャンブル会場ではちゃんと金のやり取りをしないヤツだけが悪なのである。

 だから、無用なトラブルを避けるため、ムエタイや闘鶏のギャンブラーたちは顔見知りとしか勝負をしない。外国人なんかは一切相手にしないので、賭けに参加しようにもできないのが現実だ。

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 チャンピオンクラスになれば、こういったコロシアム風の大きな会場で対戦する。賭け事にも熱が入るし、賞金も10万バーツ以上と大きなものになることも。うまく育てることができれば、それだけでかなりの儲けになるので、このクラスまで登りつめてこられれば、ビジネスというか職業としてもそこそこに魅力がある。

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