東南アジアで牛肉を食べた 前編
タイは随分と発展して、なんでも買えるし、なんでも食べられる。しかし、こんな状況になったのはごく最近、2010年前後からの話で、かつてはこんなに便利ではなかった。
その中でも牛肉に関してはかなり環境が変わった。タイは牛肉を食べる習慣があまりなく、おいしい肉がほとんどなかった。ベトナム、ラオス、カンボジアのインドシナ三国はフランスの影響からか、牛肉をよく食べるが、タイはほとんどなかった。それが今や、タイ人向けのステーキハウスなどもあるし、大きく変化してきた。
そんな牛肉に特化した、東南アジア各国でのボクの思い出を綴っていく。といっても、ボクはそれほど旅をして周って来たタイプではないので、行った場所も思い出も限られる。タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムの牛肉に関して前後編で書いていく。
だいぶ向上したタイの牛肉
今でこそタイも牛肉がおいしくなった。かつてはとにかく固い肉しかなかったし、タイ産の牛肉なんてまず食べられたものではなかった。
食べない習慣はまだ残っていて、ローカル向けのスーパーなんかに売っている肉はとにかく固い。ローカル向けのステーキハウスなども増えてきたものの、肉叩きでぺらっぺらになるまで叩いたものが多い。
金を出せばおいしい牛肉は昔からある。最近も高い肉という話ならアルゼンチン産の肉もあるし、オージービーフやアメリカ産も見かける。
また、和食人気にあやかってか、日式の焼肉も人気が出てきている。日本人経営だけでなく、タイ人経営の日本風焼肉店も多い。
ただ、やっぱり基本的には高い。アルゼンチンビーフのステーキハウスなんかは富裕層向けかと思うほど。
かつての話で言うと、パッポン通りにあったミズキッチンは当時からわりと安かったかな。今なら決しておいしいステーキではないかもしれないが、ステーキハウスがあまりなかったのでいい店だったと思う。店員がひどいのばかりだったけれど。ちなみに、タイでもサバはサバと呼ぶのだが、その発祥はこのミズキッチンのサバステーキなんだとか。
相変わらず牛肉は高いのだけれども、だいぶ選択肢は幅広くなってきた。このサイトでも何度か紹介しているが、タイ・フレンチという牛肉が流通して、タイ産牛肉も柔らかくておいしくなってきた。
東北のナコンラチャシマー県にあるチョークチャイ牧場はオリジナルのステーキハウスがあり、先のアルゼンチンステーキなどよりもずっと安くステーキを楽しめる。
タイ料理の牛肉と言えばヌアヤ-ンだ。単に牛肉を炭火で焼いた料理である。単にヌアヤーンと呼ぶ店もあれば、脂肪分が多い肉を使う店ではスア・ローングハイとも呼ばれる。
スア・ローングハイは鳴いているトラという意味なのだが、焼いたときに滴り落ちる脂を涙に見立てているのだろう。タイ料理の名称は単に食材名と調理方法を並べただけのシンプルなものが多いのに、ここで急に詩人っぽくなる。
肉サラダのナムトックも直訳では滝なのだが、これも肉を焼いたときに滴る脂を滝に見立てたものなので、タイ人は肉に関すると急に名づけにやる気を出してくるようである。
ローカル向けの牛肉店では焼肉もかなり増えた。オンヌットなどにある「ベストビーフ」などはその中でも特に人気がある。食べ放題であるし、牛肉が豊富に用意される。牛肉をあまり食べなかったタイ人がたくさん食べに来るのだ。ただ、ベストビーフは肉をバター(実際はマーガリン?)で焼くのでかなりくどい。
ちなみに、後編で紹介するが、この焼肉にバターはベトナムやカンボジアではよく見かける方法なので、おそらくそちらを参考にしたのではないかと考えられる。
タイよりは柔らかい肉質が多いラオスの牛肉
ラオスはかつてフランス領だったこともあるからか、おいしい牛肉がたくさんあるという印象だ。特にフレンチのステーキはなかなかである。
タイは植民地経験がないこともあって、わりと最近までパンなんかもおいしくなかった。コーヒーも飲む習慣がなかったほどだ。その点、インドシナはパンもコーヒーもあって、なかなか「食」が豊かである(タイが豊かではないと言うわけではなく)。
初めてラオスで牛肉を体験したのは、確か2004年だったかと思う。初めてのビエンチャンで、まだそのころは首都なのに全然信号機がない時代、パトゥーサイ(凱旋門みたいな)の周囲の公園もまだ作り始めようとしていたころだ。
そのころに、パトゥーサイのすぐ横くらいにフレンチがあって、そこのステーキがムチャクチャおいしかった。この印象がボクには強くて、いまだ東南アジアで牛肉と言えばラオスと思うほどだ。
普通の飲食店でもタイで言うヌアヤーンでさえおいしい。肉質が柔らかく、噛むと味が染み出てくるような。
それから、メコン河近くのエリアに「ヴァンドーム」というフレンチがある。値段が庶民的で、バンコクで同じレベルなら5倍くらいの値段がしそうな。ここのステーキもまたおいしい。噂ではマンゴーだかパパイヤと一緒に肉を漬け込んで柔らかくしているのだとか。酢豚にパイナップルのように、なにか酵素の働きがあるのでしょう。
一番安いシンプルなステーキが一番おいしい。画像がそれで、この皿で300バーツ(約900円)しないくらい。このレストランは昼間も営業しているので、いつも夜に食べて、帰る日の昼間に寄って食べてからバスに乗るというのがルーティンだった。
飛行機はバンコクからビエンチャン直行より、国際バスでビエンチャンからタイのウドンタニー県に向かい、そこから国内線に乗った方が安かったりする。だから、昼間にステーキを食べて午後一のバスでウドンタニーに戻れば、その日の夜にでもバンコクに到着という寸法だ。
ビエンチャンに最近行っていないので、またヴァンドームでステーキを食べたい。